つがいと罪
またまたゲータ視点です。
せっかくのパーティだが、服に穴も空いてしまったしラビーシャの晴れ姿も見た。ルー様に断って先に帰ろうとしたら、目の前で令嬢が倒れた。
「おい、大丈夫か!?」
令嬢からは甘い匂いが漂う。すぐに誰かはわかった。同僚でもある、ヒルダだ。この誘うような匂いは……俺のつがいである彼女だけ。
冷静に呼吸、脈を確認し診察する。おおかたコルセットのしめすぎだろう。軽々と抱き上げると、馴染みの侍女が個室に案内してくれた。
たまに貴族令嬢がぶっ倒れて介抱することがある。といっても応急処置と運搬ぐらいだ。靴擦れなら俺が処置するか王宮医師を呼ばせるし、コルセットのしめすぎなら侍女に依頼する。
いつも通りに令嬢を運搬したら退室するはずだった。
そう、退室するはずだったのだ。
「ゲータ様、お許しを!」
ガチャン
「え?」
がちゃん?…………え?
とりあえず、ヒルダをそっとベッドに寝かした。
ドアを確認する。開かない。しかもご丁寧に鍵穴が塞がれてやがる。
窓を確認する。鉄格子がはまっていて隙間にガラスが埋め込まれ、声も漏れないつくりだ。
ここ、もしや軟禁部屋か?しかも俺……閉じ込められた!?
しかし俺なんか閉じ込めてどうするんだよ!お嬢様とかお嬢様とかルー様とか、危険物は他に多数あるだろうが!いや、まさか俺…人質!?しかもヒルダは俺に巻き込まれたのか!?どう考えてもこのタイミングはそうとしか…俺の馬鹿野郎!うかつにも程があるわ!!自分の軽率さを呪いつつ、床を転げ回った。すると、愛らしい声がした。
「ん………」
そういや、ヒルダはコルセットのしめすぎで酸欠なんだった……仕方なく、仕方なく!とりあえず見ないようにしてなんとかヒルダのコルセットをゆるめてやる。滑らかなうなじがおいしそ…………いかんいかん!なんとか誘惑に勝ってヒルダに楽な姿勢をとらせると、いくらか顔色もよくなってきた。つい頬に触れてしまい…とりあえず壁に頭を打ち付けた。ヒビが入った。
ヤバい…修理費払えるだろうか。
しかし、俺の頭突きでも壁が割れないとは、流石王城。壁が厚い。
「ゲータさん…」
「ぴゅいっ!?」
最悪なタイミングでヒルダが目覚めた。変な声が出た。冷や汗もはんぱない。着衣を乱したヒルダ、密室、悪人面の俺。どう考えても可憐なヒルダを俺が手ごめにしたようにしか見えない。
「私、魅力ないですか?」
「ぴゅいい…」
情けないことに、フェロモン酔い手前で意味不明な鳴き声しか出やしねぇよ!いやもう、マジ勘弁して!魅力ありすぎて襲いかねないから!つーか離れろ寄るな!いや違う!なにより…
「ちゃんと服を着ろ!」
なんとかそれだけ言うと、壁を向いてひたすらにうちのデブウサギの入浴シーンを思い出す。しかし、ヒルダの匂いで欲情してしまう…どうしよう。
「…ゲータさん…」
「なっ!?ばっ!?」
なんとヒルダはそのまま俺の背中に…!矢が刺さって剥き出しの背中に柔らかい感触と誘惑してくる甘い香り。誘惑に負けそうになった。つがいがフェロモンを出す前から側にいたディルク様やラビーシャとは違い、俺とヒルダが出会ったのは成人後だ。俺は彼女のフェロモンに耐性がない。だからずっと避けていたのに…何故………わからない。わからないが、1つだけハッキリとしている。
これ以上、罪を重ねるわけにはいかない。
「きゃあ!?」
自分の腕を噛み、なんとか正気を保つ。護身用の短剣と魔具をヒルダに渡した。
「…すまない…」
「ゲータさん!?」
情けなくて、涙がこぼれた。
「すまない…まきこんで、すまない。おまえにひどいこと、したくない。おまえ…なかせたくないから…いざとなったらそれをつかってくれ…すまない……」
「…ああもう!どこまで優しいんですか!?悪いのは私です!全部仕組んだんです!」
しくんだ?フェロモン酔いがひどくて…頭がまわらない……
「ゲータさんが好きで…しかも私のつがいだとわかって喜んだのに避けられて…だからウサメガネ先生に協力してもらったんです!」
「きょーりょく…」
ん?つまり…おれはヒルダにはめられたのか?ウサメガネ…はラビーシャで…?あいつ、ここでたら、シメル。
「というわけで、覚悟してください!朝まで扉は開きませんから!ゲータさん、好きです!」
「ひるだ…」
ホシイ。彼女がホシイ。でも、だめだ。ヒルダがけがれる。おれみたいなやつが…さわったらだめだ。まだかろうじて、りせいがある。しぬしかない。いまなら、ヒルダにひどいことをしなくてすむ。
「ゲータさん…」
「だめ…だ」
ヒルダのきすをよける。しぬなら、きすぐらいもらってもよかったかもしれないが…ヒルダをけがしたくないのもほんねで…
「ダメでもします!」
「ん!?」
「ん…」
無理矢理ヒルダは俺にキスをした。しかも、深いやつだ。急速に魔力が混ざりあい、思考がクリアになった。しかし、俺はヒルダの唇を貪った。甘い…もっと欲しい。
「はぁ…」
匂いだけでなく、キスで腰が抜けたらしい…恍惚としたヒルダ。ああ…こんな表情を見たらたまらない。
「なんでこんなことを…」
「だって…ゲータさんがあんっなにアプローチしたのにふってもくれないとか酷いから…1回ぐらい抱いてくれてもいいじゃないですかぁぁ!!」
泣きだしたヒルダに困惑した。とりあえず抱きつかれたので頭を撫でる。
「いやお前…」
仮にも貴族令嬢なんだから、傷物になったら嫁ぎ先が悲惨だろうが……
「…ヒルダ、聞いてくれ」
俺は自分の罪を話した。罪もない子供達が傷つけられている事を知りながら、貴族と戦えなかった無力な自分。自分の卑怯さ、狡さ、犯した罪をヒルダに話した。だから、幸せになんかなったらいけない。ヒルダに好かれる資格なんかない。
でも幻滅されたくなくて、断ることができないような情けない男なのだと…全てを話した。
「ゲータさん…!」
「んむ!?」
待て!そこは最低とか殴るとこだろう!?何故俺にキスをする!?
「惚れ直しました!」
「………は?」
ほれなおした??なに言ってんだ、コイツ。
「むしろ私もゲータさんを陥れて手ごめにして、あわよくば嫁になろうとした汚い女ですよ?」
「…それはお前を追いつめた俺が悪い…いや待て!俺が手ごめにされるってなんだ!?普通逆だろ!」
わけがわからん!!
「だって、つがいのフェロモンを悪用して関係を持とうとしたんですよ?最悪、無理矢理襲うつもりでした」
「というか、お前…いつから俺がつがいだと……」
「そりゃ、血は薄いけど獣人ですから。それに、ずっとずっと好きだったのよ。ヒューはゲータお兄ちゃんがずっとずっと好きだったの」
首筋にすり寄り、たくさんキスをするヒルダ。
「ヒュー?」
「うん」
ぴょこん、と現れた茶色い兎の耳。ふわふわな肩までの髪…ああ…何故気がつかなかったんだ…この子は…うちで預かっていた子供の一人だ。普段は人間の姿だったから…ハーフだったのか?
「ジェンドとか、ローゼンベルクに引き取られた子も、私も、他の子だってお兄ちゃんを恨んでないよ。むしろ、皆お兄ちゃんのおかげで生き延びたと思ってる。お兄ちゃんが自分を許せないなら、私が許してあげる。それでも許せないなら…一緒にいて。私を幸せにしてよ」
「あ……ああ……!!」
この腕のなかに居る愛しい存在を愛してもいいのだろうか。この感情は複雑すぎて…後悔、悔恨、歓喜、憎悪、愛情、幸福……俺は激しい感情にただ翻弄される。涙が溢れる。
「とりあえず、手ごめにされてね、お兄ちゃん。私もお兄ちゃんのフェロモンにあてられて限界」
「は!?待て!脱がすな!!」
俺の身長は2メートルを越えている。対するヒルダは150あるかないかぐらいだ。体格に差がありすぎるが、俺はフェロモンにあてられて力が入らない上に小さくともヒルダは獣人。おまけに怪我をさせたらと、本気で抵抗ができず……………そのまま手ごめにされました。
しかもその後はヒルダが失神するまでノリノリだった俺は………最低のけだものです。幸い混血だったからか、朝までには正気になったが…自分が最低すぎて死にたい……
「…でも…」
浄化を自分とヒルダにかけて身を清め、服を身につけて…なんとなく持ってきていたモノを見つめた。
彼女が許してくれるなら、欲しがってもいいだろうか。
「…お兄ちゃん?」
目を覚ましたヒルダにひざまずく。
「ヒルダ……愛している。責任とかは関係ない。許してくれるなら………結婚してくれないか?」
「はい!」
ヒルダはにっこり笑って頷いた。
「これを…サイズが合うかはわからんが……いつか渡せたらと思っていたものだ」
それは、繊細な意匠の指輪だった。小さな花をあしらい、赤茶色の石がヒルダの瞳みたいで買ったはいいが、指輪は最近恋仲で贈るのが流行っていて意味深なために渡せなかったもの。
「…嵌めて」
差し出された左手。薬指に指輪はぴったりだった。
「…お兄ちゃん、大事にする!嬉しい…!」
「…ありがとう、ヒルダ。今、俺はどうしようもないぐらいに幸せだよ」
「うん…!もっと幸せになろう…大好き!」
そしてまた色々と盛り上がってしまったのは不可抗力だと思いたい…また正気にかえって頭を抱えたのだった………つがいが可愛すぎるから仕方ない気もする。
後でラビーシャやらお嬢様に散々からかわれるのはまた別の話。
追伸・たまたまラビーシャが俺を題材にしたという小説を読みました。とりあえず、気絶しました。その後、全力でジェンドに土下座しろと本気で叱りジェンドには理由を伝えないままラビーシャは謝罪した。ジェンドは不思議そうだったが、世の中には知らない方が良いことがある。できれば俺も攻めと受けが何を意味するのか、知りたくなかった。
本当に、どうしてこうなった!?
ようやくゲータ編が終わりました…次は今回の裏側編になります。
追伸・ゲータがモデルの小説は、ゲータ×ジェンドの強面×ショタだったらしいです。




