想定内の厄介事と予想外の事態
まだゲータ視点です。
俺は困惑しつつも令嬢達の相手をしていた。あの…ルー様笑いすぎだよ。アルディン様…微笑ましいと言わんばかりの笑顔がなんか痛い。やめてくれ。本気で困ってるんだよ…
あと、さっきからハァハァしながら胸を揉む奴はそろそろ注意すべきだろうか。見た目が大人しそうな令嬢が多いせいか、ハァハァしてんのは一人だけだが、他の令嬢が羨ましそうにしているのが微妙だ。それから、受けとか攻めとか言っているのはなんなんだろう。
会場の照明が少し暗くなり、ステージに明かりが灯った。ようやく御披露目か。
「アルディン様、ゲータ殿」
「ふおっ!?」
「ひあ!?」
気配がなかった!小柄なハーフエルフのアルディン様付き侍従か!?
「あ、すいません。お二人もステージにいらしてください。大切な御兄妹に祝福をお願いいたします」
「…ああ」
「そうだな!ではルー、俺達も行ってくる」
「ああ、行ってらっしゃい」
ルー様に見送られ、俺達はステージへと進んだ。光に照らされたラビーシャは、それはもう綺麗だった。今ならお嬢様にも負けないぐらいだ。まだ嫁入りでないのは理解しているが、アルフィージ様と幸せそうに過ごすラビーシャを見ていると、涙腺が緩みそうだ。
「兄上ぇぇ…おじあわぜにぃぃ……」
アルディン様は泣きすぎだと思うが、俺もアルディン様ぐらい素直だったなら…もう少しましな生き方が出来ただろうか。いや、お嬢様に拾われなければ消えていたこの命。ここまで生き延びることができただけでも御の字だろう。
そんなことを考えていたら、王様が話を始めた。
「では、皆に報告がある。我が第一王子アルフィージと…「お待ちください!!」
「あれは…確かハポムーク伯爵だな」
「…ポークハム?」
確かにこう…全体的にムチムチしている。豚っぽい。
「ブフッ」
「…いや、ハポムーク伯爵だ」
アルディン様の侍従は痙攣…いや、笑って震えているな。アルディン様も微妙に声が震えている。
「あー、なんかスマン」
しかし、俺にはあれがハムにしか見えない。いや、すまない…ハム的なおっさん。
「平民と婚約など…アルフィージ様は本気ですか!?」
「いたって本気だが?」
アルフィージ様はしれっと言ってのけた。そして、照明が消えた。
闇に乗じてラビーシャとアルフィージ様に何かする気か!俺は咄嗟に二人を抱き締め盾になった。暗闇で魔法は危険だ。あのハムが注目を集め、その隙に仲間が…というところか?
「ぐっ」
どうやら背中に…矢か何かが刺さったらしい。
「ゲータ!!」
眩しかった。暗闇のアルディン様って、すげー眩しい。シュールな光景である。
「ラート!」
「お任せ!」
多分アルディン様の精霊の魔法であっという間に室内が明るくなる。矢を放った者達は、すでにロザリンドお嬢様、ディルク様、ルー様、マーサさんに制圧されている。そしてさらに、愛らしい黒髪の眼鏡をかけた少女が叫んだ。
「我らが宝、ウサメガネ大先生をいじめる奴は許さないッス!!皆、自分に続くッスよ!!」
その声に、年若い貴族令嬢を中心に、女性達が奮起した。完全に暴徒と化している。集団の女性ほど恐ろしいものはない。伴侶やパートナーの貴族男性達は唖然呆然である。
「ウサメガネ大先生を狙うなんて許せませんわ!」
「わたくし唯一の癒しなんですのよ!」
「この豚が!ウサメガネ大先生に非礼な言葉を吐くなんて!ハムにしてやるわよ!!」
ああ、やはりアレがハムっぽいと思う人間は他にもいたのだなぁと思う。騎士もご令嬢またはご婦人を捕縛するわけにはいかず右往左往するばかり。流石のお嬢様も顔をひきつらせ、ボコボコにされる刺客達を見ているしかない…いや、しばらく呆然としていたが、ちゃんと女性の暴動を引き起こした少女に説教していた。
どーすんだ?これ。
とりあえず、背中に刺さってた矢を抜く。ハーフだが鰐の獣人である自分は皮膚の硬化が可能だ。幸い表皮がちょいと傷ついただけで済んだ。毒も塗ってあったが、耐性がある種類のため問題ない。硬直していたラビーシャが不安げに聞いてきた。
「兄さん、大丈夫なの?」
「おお。血も出てないし、毒も問題ない」
「なら遠慮なく」
ラビーシャに足払いされ、殴られた。
「ぐっ!?」
「兄さんのばか!!死んだらどうするの!?無茶しないでよ!!」
「ああ………悪い」
「そうですよ、義兄上。貴方に何かあれば、ラビーシャも…もちろん私も悲しみます。貴方の優しさは尊いですが…貴方の捨て身は………貴方が傷つくことを、貴方自身を犠牲にすることを悲しむ人間がいることを忘れないでください」
「…ああ」
お嬢様にも散々叱られた悪癖だ。まだ自分への罪の意識があるからこそ…向き合わねばならない部分だろう。
「さて…ご婦人方、我が妻のためにお怒りいただき、本当にありがとうございます。私はこのラビーシャと国を支え、更なる発展を目指していきたいと考えています」
アルフィージ様の発言に、女性達が大人しくなった。
「皆様が私の拙い小説を気に入ってくださり、とてもありがたく思っています。公務はもちろん、小説もまだまだ続けます!」
『きゃああああああ!!』
「ウサメガネ大先生!!」
「愛してます!!」
「応援してまぁぁす!!」
異常な盛り上がりの中、ラビーシャはアルフィージ様と婚約した。
「ハポムーク伯爵」
「ぐ……」
「平民だろうと、これだけ貴族女性の支持を得ている有能な女性なんだ。私の妻に相応しい…いや勿体ないぐらいの女性なんだよ」
アルフィージ様は冷たく微笑み、指示をだしてハポムーク伯爵や刺客達を捕縛させた。
後に、アルフィージ様達はあの時自動防御の魔具を持っており、今回何か起きるのも想定内だったと聞かされた。
予想外だったのは女性達の暴動とスーパーハイテンションだけだったそうだ。
女性は強いです。爪とか、凶器です。
もはやある意味毎度お馴染みな気がする酔勢 倒録様からまたファンアートいただきました。アルディン様とラビーシャちゃんです。活動報告に載せますね。




