ヒロインの正体
結局、召喚は成功なのか失敗なのか…恐らくシヴァの話からすれば、成功なのだと思われる。しかし、あれは…あれはないと思うんだよ!清純派の故ちゃんはどこ行ったんだよ!ちゃんと本人の承諾を得て連れてきたんですってよ。承諾すんなよ、アホ娘がぁぁ!
「シヴァ、今からでも故ちゃんとチェンジできない?」
ポッポちゃん(シヴァと繋がってます)に話しかけた。
「君、本当はわかってるんでしょ?故は今回の召喚対象にはならないよ」
勇者召喚とは、条件に合う者を召喚する魔法だ。主な用途は魔王を倒す勇者召喚だった。
「う~ん…」
アホ娘が再び目覚めた。ジューダス様に抱っこされていたので、慌てて離れようとする。
「あ、あわわわわ!美形フラッシュ!つうか、美形率高すぎるッス!」
まあ、確かにそうだな。慣れたからあまり気にならなくなったけど…確かに美形が多いね。
ゆっくりとアホ娘のそばに近寄り、話しかけた。
「…こんばんは、異世界の勇者様」
「ゆーしゃ?自分、運動神経人並み以下だから、魔王倒すとか無理っスよ?」
「知ってる」
苦笑してしまう。いや、無理に決まってるわ。お前どんくさいもんな。
「え?こんな美人と会ってたら忘れるはず……………ロザリア=ローゼンベルク!?縦ロールはどこに置いてきたんスか!?つうかおっぱい素晴しいッスね!あやかりたいので揉んだらだめッスか!?」
「駄目。減るから。精神的になんか減るから。縦ロールは似合わないから装備してません」
「縦ロールは装備品だったんスか!?はっ!乳も装備品ッスか!?」
「いや、こっちは天然物です」
「なんと!」
なんて馬鹿らしい会話だろうか。一応シヴァから何か聞いているか確認することにした。
「…貴女は、………を助けてくれますか?」
誰にも聞こえないように小さな声で…さりげなく魔法で音を散らしながら聞いた。
「イエス!やるッスよ!白いお兄さんからもお願いされたッス!ゲームとは違う結末を作ってやるッスよ!!」
おお、やる気だな。そして彼女はポーズをきめた。
「乙女の道はそれるとも…
御法度な道を歩んでも…
逸れてはならぬは人の道!!
咲かせて魅せよう、腐女子☆道!!」
「アホだぁぁ!!」
「アホやぁぁぁ!!」
「間違いなくアホだぁぁ!!」
私、彼方さん、優姫が即座につっこみをいれた。ちなみに、ディルク達はポカンとしている。後ほど、婦女子なのに乙女の道はそれるの?と聞かれました。そういや、この世界には腐った乙女という概念がなかった。ワールドギャップを感じました。しかし、知らぬ方がディルクのためだと思って教えませんでした。
「よく言われるッス!見た目は賢そうなのにアホだって!そのわりに勉強はできるからムカつくって友達にしばかれるッス!」
「………それ、友達なんか?」
「たまに彼氏のとこ行っちゃって昼メシボッチにされたり、おかずを強奪されるけど、友達ッス!」
「…友達は選べ」
優姫さんは大変真面目なトーンで言いました。
「はいッス。でも、あっちゃんいい子なんスよ?弁当と財布忘れてお金貸してって言ったら、冗談通じない超怖い先輩の帽子とってきたら貸してやるって」
「お前あっちゃんと友達やめろや!で、その話のオチは?」
「土下座して先輩から借りたッス。そんで先輩に洗いざらい吐かされて……」
「おお……」
「結局先輩が昼メシおごってくれたッス」
「ええ奴やな、先輩!」
「しかも購買の人気商品(焼きそばパンとメロンパン)とデザートと飲み物までくれたッス」
「マジでええ奴やな、先輩!」
「先輩イケメンだったから、後であっちゃんに絞められたッス」
「いやもう、ほんまにあっちゃんと友達やめてええと思う!」
くだらないやりとりに、つい苦笑してしまう。私の記憶より成長していて、知らない制服を着ているが、内面は全く変わっていない彼女に。
渡瀬 凛花。
それが、召喚された勇者の名前。彼女は渡瀬凛の姪…兄の娘である。見た目は普通だが、中身はすこぶる残念な女の子…いや、腐女子。いつごろから女を腐らせたかは不明であるが、イケメンを見て受け攻め判定をするのはやめていただきたいとよく思っていた気がする。
「…凛花はしょうがないなぁ」
「………え?」
凛花は驚いていた。
「ん?どうした、アホ娘。口開けっ放しだと余計にアホになるよ」
「凛姉ちゃん…?」
「よくわかったね」
へらっと笑ったら、凛花はドン引くレベルで号泣し出した。
「ねえぢゃああああん!!うおおおおん!!うああああああああん!!」
「あー」
そういや、私の第一発見者は凛花だっただろうなと思う。死ぬ前の一年、私は凛花と暮らしていたから。
「えーと、ロザリンドの知りあいなの?」
ディルクの言葉に頷いた。
「私というか、凛の姪だよ。まさか三代続けて勇者が血縁とかなんの呪いよ…」
優しく凛花を撫でる。ふわりと凛の姿にかわる。
「あんた、両親とはどうなったの?」
「ぢゃんどはなじじだっスよぅ…わかいはでぎながったけど…ぢゃんどにげないではなぜだッス…姉ちゃんと約束じだっスもん…」
「そっか。よくやった」
「わあああああああん!!ぎぎだがっだぁぁ!!ぞの言葉がぎぎだがっだのにぃぃ!!なんでじんじゃっだんッスがあああああ!!」
「いや、二十過ぎても生きてたのが奇跡だって言われてたんだよ。だからいつ死んでもおかしくなかった。あんたのおかげで寂しくなかったよ…ありがとう、凛花」
凛花はそのまま泣き疲れて寝てしまった。親しい身内の死を目の当たりにして、トラウマとかになってないか心配なレベルの泣きっぷりでした。
「…仲が良かったんだね」
ディルクが優しく微笑んだ。
「んー、凛花は両親…継母とうまくいかなくて、死ぬまで一年ぐらい凛と暮らしていたのよ。でも、凛花はまだ学校やらやることが…」
「いや、渡瀬凛花は階段から落ちて死ぬ予定だったから向こうの神様に土下座してもらってきたんだ。向こうには偽の死体を置いたから、死んだことになってる。本人も、もう一度君に会えるなら向こうに帰れなくてもいいと言ったよ」
「……………アホ娘」
頭を抱えるはめになりました。兄さん、ごめん。
「シヴァ、もう少ししたら兄にこのアホ娘が元気にしてる夢でも見せてあげて」
「うん、そのぐらいなら問題ないよ」
とりあえず『勇者召喚』は成功。そして、これからが問題です。頭が痛いことは色々あるが…頑張るしかないね!




