その者、神々しき腕
このお祭りはディルクも想定外だったらしく、完全にどうしよう……という感じである。いや…スゴいわ。
しかし、せっかくなら、来てくれた皆さんにご馳走したい。
「お客様の中にコックさんはいませんか!?というかダン!大変申し訳ないけど手伝って!」
「お嬢様のお願いならしかたないな」
ダン以外にも主にクリスティア、ウルファネアからも料理人が集結。私はポーチから山ほど食材を出していく。この人数も賄えるだけはあるはずだ。それぞれさっさと調理を開始している。うおお…これは幻の…とか、これだけで家が建つぞとかいう声は聞かなかったことにします。
「ふっ、私の本気を見せる時が来ましたね」
私が両手を振り上げると、両手がまるで分身したかのように増えていく。輝くその両腕は神々しく輝く………唸れ、私の中二病!!
「まさしくセンジュカンノーン!!」
まぁ、似てるかもしんない。
「あかん!ほんまに千手観音みたいやんか!ちゅうか、多い!腕が多い!!」
背中から生えたように見える指輪で作った大量の腕・腕・腕。全部で30本あります。リン・ロザリア・ヴァルキリー・婚約指輪さんで分担し、ひたすらに調理していく。単純な混ぜる作業等を指輪組に任せ、私とロザリアは切る、焼く、煮る、味付け、盛りつけ等の難しい作業をしていく。まるで工場のような一人流れ作業である。しかし大量の手は怖いらしく、皆さん遠巻きになってます。
「ロザリンドちゃん、見てて怖い!見た目が怖い!!」
「やかましい!彼方さんは黙ってタコ焼き作ってください!今は効率優先です!」
「おう!!」
彼方さんは私の暴言を真に受け、本当にタコ焼きを作り始めた。素直だな!
さらに素材追加にスイ・アリサ・チタ。野菜の洗浄はクーリンが。カットはハルが担当し、焼くのはコウ、ハクは絶妙なバランスで大量の料理を配膳した。聖獣様と闇様も配膳を手伝っている。ゴラちゃんは最初食材と間違われたら困るから隠れてるよう話したが、毒がある素材の毒抜きをしていたらしい。後でえっへんと話していた。お手伝いしたかったんだね。うちの子はみんなおりこうさんです。
「手伝ってやろうか?」
「助かります!」
クリスタルドラゴン達も調理に参加してくれました。火の調節もしてくれます。便利だね!
「………ドラゴンの炎で調理とか、ありえねぇ経験だなぁ」
ダンの呟きは聞かなかったことにしました。いいじゃないか、便利だから。
「ルラン、弱火にして。焦げる」
「おー」
「ドラゴンのお兄さん、こっちはこんがり焼いちゃって」
「おー、任せとけ」
気がつけば、遠巻きにされてました。クリスタルドラゴンさん達は怖くないよ?
「お嬢様は大物だよな…」
「クリスタルドラゴンの里に菓子折り持って来る猛者だからなぁ……」
「あー、お嬢様だからなぁ…」
「あー、わかるわかる」
なにやらダンとルランがわかりあっていた。いや、別にドラゴンの里に菓子折り持参で行く人間が居たっていいじゃないか!それで仲良くなったわけだしさ!
文句を言いたいが、まだまだお客様はいるわけで。ひたすらに料理を作り続け………
皆を満腹にするという快挙を成し遂げた。
「うおお、やりきったぜ!」
「しばらく料理をしたくないな…」
「よくあんな人数さばけたよな…」
皆様、達成感にみちています。私も疲れました。
「お疲れ様、ロザリンド」
「ふみゅ~」
気が抜けて、ディルクによりかかった。晩餐会が食祭りになっちゃったけど、楽しかったな。
「ふふ、甘えんぼうなんだから」
久しぶりのディルクからぎゅーですよ!堪能するしかありません!
「ふへ、ディルク…すき」
「…………………………わざと?」
「何が?」
「普段は凛々しい感じなのにそんな無防備に可愛く笑うとか…俺の奥さん世界一可愛いぃぃ!」
「落ち着いて!?気のせいだから!私は凛々しくも可愛くもないから!」
ディルクを宥めるのにかなり時間がかかりました。こうして、サプライズ結婚式は終了したわけですが…………
『ロザリンド嬢には手が百本ある』
『ロザリンド嬢はドラゴンと精霊と魔獣を顎で使える』
『ロザリンド嬢には信者がいる。なんか肉とか筋肉とか、よくわからないがウルファネアで有名らしい』
『ロザリンド嬢はたくさんの男を手玉にとり、結婚式で全員ふった』
などなど、根も葉もない…一部あっている気がしなくもない気がするような気がするかもしれないが、とにかく微妙な噂がしばらく広まってしまい、カーティスが爆笑していたのでとりあえず蹴り倒した(八つ当り)
追伸・純粋な好奇心にみちた子供に「ロザリンド様、手が百本あるの?」と聞かれました。泣いてもいいでしょうか。ちなみに、手は二本ですと返答したらガッカリされました。出すべきだったかを真剣に考えましたが、噂が真実だと言われたら嫌なので仕方ないという結論に至りました。




