かりそめ
ディルクはすぐにやってきた………が、予想外にズタボロだった。顔とか腫れ上がってるし。服も汚れていた。ディルクがここまでやられるのは珍しい。
「えーと、とりあえず治すね」
「…ロザリンド、ごめんね!」
ディルクは私を抱きしめていた。久しぶりの抱擁に、きゅんとした。背中に手を回して、回復と浄化をしてあげた。
「うん」
「…ロザリンド、俺が結婚式を急いだのはバーディアの事だけじゃないんだ。ロザリンドは可愛くて…もっと綺麗になったから、色んな男が狙ってて…俺は…近づけないのが辛かった」
「うん。私はいちゃいちゃできないのが辛かったよ。もう性的な意味で喰われてもいいから、いちゃいちゃしたいと思ってたよ」
ディルクがそっと離れて丸くなった。可愛いやつめ。ここぞとばかりに撫でてやる。
「……ロザリンドは挑発し過ぎです!体に負担だからしないって言ってるのに!それに…きっと正攻法で求婚をしても遠回しに断ったでしょ」
「………え?」
「ロザリンド、俺はすごく待ったと思う。11年は短くないよ」
「………うん。なんでディルクは断ると思ったの?」
「ロザリンドは18になってから…最悪な未来を越えてからって言うと思ったし、そのつもりだったでしょ?」
「それは…………そうかも」
今思えば、ディルクから結婚のアプローチが全く無かったわけではない。でも私はリンの感覚もあって、まだまだ先の話だと思ってた。よく考えたら、ディルクはずっと早く結婚したいと言っていた。私も結婚するつもりではあるが、今ではないと考えていた…そこがディルクに伝わっていたのだろう。
「それに、あの鳥男の事もある。ロザリンドも他国の王族だから無下にはできないし…あんまり嫌ってないでしょ」
「…悪意があるわけじゃないからねぇ」
嫌ってないが、好きでもないけど。好意に対してどうしていいかわかんないのだ。しかも悪いやつじゃないからなぁ…子供好きでよく遊んであげてたりするからますます邪険にしにくい。
「…今回は仮りそめでもいいんだ。籍だけでもかまわない。本物の結婚式は君が18になってからでもいい。生活も変えなくていい…だから…だから………ロザリンド=ローゼンベルク嬢」
「はい」
ディルクはひざまづいて私に手をさしのべた。まっすぐ私を見ている瞳は、どこか怯えているように見えた。
「私と一生を共にする契約をして欲しい」
「お受けします」
そっとディルクの手に自分の手を重ねた。触れた手は、震えていた。その震えは、どちらのものだっただろうか。
「はああああああ」
ディルクが崩れ落ちた。
「ディルク?」
すがりつくように抱きしめられた。ディルクは震えていた。
「断られたらと思ったら……はは………怖かった。他の誰かに冷たくされるより、ロザリンドの拒絶が一番怖い。でも、ちゃんと君に伝えるべきだったね。一度君の意見を無視して怒られたのに、また同じ間違いをしてしまった。一緒に……ずっと一緒にいるためなら、君に何度断られようと話し合うべきだった。君の拒絶がどれだけ怖くても」
ああ、一緒だったんだね。怖くて怖くてしかたなかったんだ………お互いに。ディルクも私も、大切すぎて拒絶が怖かったんだ。私が同じ立場でも………言えなかったかもしれない。触れあえなくなって、しかもライバルが増えて、更に私は人間だから、つがいだけの獣人と違いつがいじゃなくても愛せるのだ。それだけ彼は……悩んだのだろう。私も不謹慎だが嬉しい。彼はやり方こそ間違ったが、何より『私の拒絶』を恐れ私を離したくないと願っているのだ。
「そうだね。私も言うべきだった。………寂しいって。そうしたら、ディルクがなにをしていたか気がつけたかもしれないのに。聖獣様に泣きつく前にディルクにぶつかるべきだった。聖獣様に泣きつくぐらい寂しかったんだよ。ディルクが私に飽きちゃったのかなって…ふあんに……なって」
泣いたら駄目だ。化粧がぐちゃぐちゃになる。でも、涙が止まらない。不安だった。悲しかった。寂しかったんだよ。だから、今嬉しい。また抱きしめてもらえて、ディルクの心は変わってなくて。つがいだから浮気はないなんて、私には理解できない部分だったからやっぱり不安だった。
「……ロザリンド……ごめん。ものすごく不謹慎だけど、申し訳ないけど嬉しい。寂しがらせてごめんね。飽きるなんてありえないよ。どうしようもないぐらいに…君が好きだよ。ロザリンドに嫌われたら本気で生きていけないぐらいに」
「いや、生きろ。そして頑張って惚れ直させてよ。あ、そういや先週私とのデート断って女の人といたのはなんで?」
「え?いつ?」
「昼過ぎぐらい。広場近くで」
「ああ………えっと、ロザリンドのプレゼントを買ってました。今日のためのやつ」
「………それ、今ある?」
「いや、大きいから後で見せるよ。気に入ってくれるといいな」
「あ」
「え?」
あの時見たのと同じ表情でした。私が喜ぶかなぁと思ってたのかな。な、なんか照れる。誤魔化すようにひっついた。
ディルクに抱きしめられて撫でられると、不安がとけて…愛されてると思える。
「………ところで、何故今日はこんなにぎゅーができるわけ?」
普段ならディルクが耐えられなくなり強制終了なんですが?
「ええと…発情抑制薬飲んだから。多用すると子供を作れなくなるからできないけど、流石に結婚式で発情するわけにはいかないからね。夜には効果が切れるよ」
「そっか」
スリスリして甘える。せっかくだから堪能しておこう。
「今度から、ちゃんと相談する。拒絶されても怖くても…ちゃんと言う。約束するから」
「うん。私もそうする。さて、おしおきは後まわしにするとして、これからのことを考えなきゃね」
「お、おしおき…………そ、そうだね」
ディルクはひきつったが、すぐに話し合いを始めた。進行と予定。晩餐会。よくここまで準備したものだ。しかも、ほぼ一人で。なんという無理ゲーだろうか。よく準備できたなぁ…
「…最初はコケちゃったけど、どうせなら思い出に残る結婚式にしよう」
「うん!」
「でも身内とかだけで、もう一回やりたいな。今度は一緒に企画しようね」
「うん!そうだね」
「じゃあ、行こうか」
「そうだね」
私たちは手を繋いで一歩を踏み出した。
明日分を繰り上げでの投稿となります。明日どうするかはまだ考えてません。




