メイド兼友人=頼もしい
少し冷静になれた私は、とりあえずジャッシュに連絡をすることにした。数秒のコール音の後、ジャッシュが出たようだ。
『お嬢様!?今どこですか!?なんで逃げたんですか!?』
なんかやたら焦っているジャッシュ。そして、破壊音がハンパないのが気になります。
「いや、それより破壊音が気になるんだけども」
『…もう教会は大変なことになってますよ…旦那様が氷結魔法を乱発するわ、シュシュリーナ様達も…更にカーティス様達騎士も参戦してもはや冒険者と貴族混合チーム対騎士団の図式になりつつあります』
「…楽しそうだな」
思わずジェラルディンさんをはたいた。
「どの辺が!?大惨事じゃないか!!あー、うん。そっちの状況は大体わかった」
『で、お嬢様は『そんなの、ディルク様の独りよがりだからに決まってるじゃないですか』』
ラビーシャちゃんかな?的を射ているが、辛辣だな…否定はしない。それだけが理由ではないけども。
『…独りよがりですか?』
『お嬢様に内緒でサプライズ結婚式…お嬢様を喜ばせたいという気持ちはわかりますから協力してあげましたけどぉ、ぶっちゃけサプライズ結婚式とかないですよ!どうせなら、準備期間も楽しみたいじゃないですか。お嬢様なら料理も凝りたかったでしょうし、式場を考えたり、ドレスを選んだり…お嬢様のためとか言いつつ、結局は自己満足でしょ?さいて~』
辛辣通り越した!!辛いどころか超毒舌だよ!!
「あ、あは、あはははははは」
しかし否定できない部分もあるから、乾いた笑いしかでない。結婚式はお互いのものなわけで、正直私も企画から参加したかった。
なんか、周囲がやけに静かになったが、騒ぎが終息したのかな?
『いくらお嬢様でも、ちょっと…いや、だいぶ許せませんよねぇ?』
「あー、えっと…うん」
『まぁ、急いだ理由はわかりますけどね』
「はい?」
確かに急だなとは思ったけど…理由?
『あの阿呆鳥いるじゃないですか』
「えーと、一応王族ですよ、ラビーシャちゃんや」
皆さん忘れてるだろうけど、ハクの仲間奴隷を買うときに鳥の獣人居たじゃないですか。鳥の獣人はバーディア出身が大半で、あれはそこの王太子だったそうな。
なんでウルファネアに居たかというと、バーディアでは強い=魅力的という図式が成り立ち……うっかり留学中のラビーシャちゃんが再会してしまい、芋づる式に私も再会してしまった。
そこまでは良かったが……奴はなにをとちくるったのか…
私に求婚しているのである。
命が惜しくないのだろうか…毎回私に言い寄るのだが、ディルクの殺気が怖い。私に向いてなくても痛いぐらい殺気を出してるのに言い寄って、痛い目にあう。最近はマゾかアホなのではないかと思っている。
『あの阿呆鳥、国まで絡めてきてるんですよ。アルフィージ様情報だから確かです。まぁ、アルフィージ様はお嬢様を他国に嫁がせるデメリットの方が大きいってよーく理解されてますから、ディルク様にもそれを話したらしいです。それからクリスティアにお嬢様を留めるために、ちょっと盛ったらしいですよ』
何してくれるんだ、あの腹黒王子め!しかし婚約はあくまでも約束。拘束力は弱い。公爵令嬢への他国王族からの求婚をはね除けるには足りない。ならばどうするか…結婚していれば流石に求婚はできないというわけか。そうでなければディルクもここまで段階をすっ飛ばさなかっただろう。
『ディルク様、超焦ったでしょうね。それに、ディルク様のメッセージカードやら…ディルク様、私に頭まで下げたんですよ?私や奥様はサプライズはやめるように言ってましたけど…何回言っても諦めない熱意とお嬢様への想いだけは本物でした。私達がしぶしぶ折れてあげたぐらいですから。愛されてますよね、お嬢様。ただし、今回は愛が大幅に空回りしてますけど』
「…………………うん、許した」
その言葉で、ディルクがどれだけ頑張ったかが伝わった。たくさんの人に頭を下げて、普段の仕事もあるのに本気で取り組んだんだろう。
『あは、なら戻ってあげてくださいよ。流石にディルク様、面子丸潰れですよぅ。他国の王族もいる前で花嫁逃亡とか生き恥ですよ。語り継がれちゃいますよ』
「お、おうふ…んー、でも…けじめはつけないとね」
『けじめですか?』
「…………プロポーズをちゃんとされてないの。婚約中にはしてるけど、結婚前のもう一押しが欲しい!」
『『…………………は?』』
「それに、娘さんを僕にくださいイベントは外せないと思うの」
『…………一応されたぞ』
してたんかい!私抜きでか!
「私の前でじゃなきゃ、意味がない!しかも1ヶ月放置された上に、浮気疑惑をどうしたら…『浮気ってなんですか!?お前お嬢様を大事にするって言ったよな!?』」
大変だ。
ラビーシャちゃんがマジギレしなすった。
『婿殿…いや、ディルク殿。事と次第によっては、この結婚はなかったことにしていただこうか』
『そうね』
『だね』
『うわき、だめー』
『うわき、さいてー』
我が家の家族…特に父の怒りが声だけでわかる…!気のせいか、離れているのに冷気を感じる!
『待ってください!ディルク様はお嬢様をつがいだと認識しているんですよ!?ハーフであっても獣性が強いディルク様に浮気はありえない!誤解ですから、ショックで固まったディルク様を殴るのはやめてください!!』
『やかましい!お嬢様を1ヶ月放置して悲しませたのも許せない!カード書く暇あればお嬢様をかまえ!このヘタレ猫!!』
必死に止めてるらしいジャッシュと、暴れてるらしいラビーシャちゃん。た、大変だ!
「ら、ラビーシャちゃん、ブレイク!なんか誤解だったと思うし、1ヶ月放置は結婚式準備のためなのも今は解ってるから!私のために怒ってくれてありがとう!」
『…………お嬢様……チッ。お嬢様に感謝しろよ』
ありがとうございます、ラビーシャ様。むしろ私が感謝いたしますんで、鎮まってください。うかつな発言が大変な事態を…
「ディルク」
『…ロザリンド、ごめん』
「…………うん、すまんで済んだら騎士団はいらん!ダッシュで私を迎えに来て、ちゃんとプロポーズをしてくれたら、仕方ないから結婚してあげます!!」
『今どこ!?』
「豚の尻尾亭2階の宿だ」
ジェラルディンさんに連れてこられたので店名がわからない私の代わりに、ジェラルディンさんが答えた。
『すぐ行くから!!』
ディルクの言葉と共に、通信は切れた。ジェラルディンさんはポンと私の頭に触れた。
「俺は邪魔だろう。きちんと話し合うといい。主人には話を通しておく」
「ありがとうございます、ジェラルディンさん」
「なに、主がしてくれたことを考えれば、全く足りん。主、誰より幸せになれよ」
「はい!」
私は笑顔でジェラルディンさんを見送った。
キリがいいのでここまでで。ラビーシャちゃんはロザリンドが大好きです。
バーディアの王太子は気が向いたら出てくるかもしれません。




