迷探偵と引きこモヤシ
そして、昼食から帰還した私は固まっていた。呪いが復活している。え?お仕事早くないですか??困り顔のハンスさんが話しかけてきた。
「すいません、昼食から帰ってきたら皆また…これってやっぱり…」
「呪われてます」
「ですよね…」
敵さん達がこちらの動きに気がついたにしても対応が早すぎる。いや…自動的な何か…か?とにかく情報が足りない。
「ハンスさんはお昼、別行動だったんですか?」
「ああ、はい。私は妻の弁当がありまして、ここでいつも食べているんです。彼らは食堂で食べています」
うーん、単純だけどとりあえず食堂を調べるべき?
「あ、ハンスさんはお仕事あるでしょうし私だけで大丈夫です。ちょっと食堂を見てきます。呪いは戻ってから解呪しますね」
ハンスさんに気をつけてと言われ、食堂に行ったものの…
「呪われてますなぁ…」
コックさん達に会話は望めそうもない。しかし、逆に彼らを邪魔しなければ彼らも私を放置な訳で、好き勝手調べる私。
「んー…食材とかではないなぁ」
調べてみたが、食材なんかには特に反応なし。調理器具も反応なし。椅子や机など食堂をくまなく探したが、さっぱり解らず。
「んー」
知の仕事場から食堂までの道を調べてもさっぱり解らない。そして、大変なことに気がつきました。
迷った。
迷探偵ロザリンドですよ(笑)
うあああああ!やらかした!迷いそうだなぁと思ったんだよ!周りが似たような建物ばっかで!どどどどうしよう!キョロキョロするが、道を聞けそうな人間もいない。
涙目でさまようこと一時間………もういいかげん兄かミルフィに通信で救援を求めようかと真剣に考えていたら………いた!
「そこのモヤシ!」
「はあ?誰がモヤシだって?」
テンパり過ぎて本音が出ました。超睨まれました。当たり前です。その場に崩れ落ちる私。やらかしてしまいました。
「おい!?」
いきなり暴言を吐く私を心配してくれるなんて、いいやつだな、モヤシ!ついでに帰り道教えてくんないかな。
「すいません…迷子なんです!帰り道教えてください!!」
「…………………………は?」
そして、呆然とするモヤシと、土下座する私。とてもシュールな絵面となりました。
「…まあ、事情は理解した。俺の用が済んだら第1に戻るし、勝手についてくれば?」
「ありがとう!」
モヤシは休憩中だそうで、木陰でモソモソ保存食(見た目はカロリー○イト的だがマズイ)を食べていた。というか、モヤシにしてはフレンドリーじゃないか?彼は魔術レベルが上がんないと基本は口も聞いてくれない…だからか。さっき雷の魔法を防いだから、そこそこ魔法が使える私に興味津々なのだろう。表面上は無愛想だが。
「…それ、マズイよね」
「あー」
「これ食べなよ」
「あ?」
非常食(夜食)として常備していたサンドイッチとスープを鞄から出した。スープはホカホカである。モヤシが目を見開いた。あ、よく考えたら私の鞄は状態固定付与の特注品だった。
「……………それ、見せて」
「食べてから」
モヤシはしぶしぶサンドイッチを食べ………また目を見開いた。
「………………これなに」
「サンドイッチ」
モヤシは夢中でサンドイッチとスープを平らげた。ヒョロい彼には多かったらしく、ちょっと苦しそうだ。
「………鞄、見せて」
チッ、忘れてなかったか。仕方なくウエストポーチを外して渡した。
「……………………………すごい」
「ん?」
「芸術だ!素晴らしい!これは誰の作品なんだ!?できれば譲っていただけないだろうか!」
「へ?」
「空間拡張に状態固定付与…こんなに緻密で強固で美しい術式は知らない!なんて魔具作製者の作品なんだ!?」
その鞄はMADE IN ロザリンド…自作です。あかん、このキラキラビームはあかん。自作ですと言ったら質問攻めコースな気配がいたします。ん?でもモヤシは絶対モヤシだけにシロだから…味方にしちゃえば有利だよね?確かここでそこそこ権力ある天才魔具職人だし。
「自作ですよ」
「は?」
「予備ならあげてもいいけど…どうせなら取引しませんか?悪い話じゃないと思いますよ」
にんまりと笑う私に、モヤシ…エルンストは頷いた。
エルンスト=ベンダー。彼が最後の攻略対象者である。彼のアダ名は散々私が脳内で言った『引きこモヤシ』である。病的なまでに色白で、魔法院から出たことがほとんどない男。
彼の生いたちはなかなかに悲惨で、その魔力の高さからアルビノとして生まれた。魔力が高い子供はアルビノとして生まれる場合がある。賢者もアルビノだからエルンスト同様色素が薄く銀髪に赤目だ。ちなみに魔力が高ければ必ずアルビノになるわけではない。
エルンストはアルビノだったため両親とは異なる色だった。母は不貞を疑われ、父はエルンストを我が子ではないと拒絶した。結果、エルンストは両親から虐げられた。そんななかであのへんた…院長がいらないならちょうだいとエルンストを引き取り教育した。あの院長は魔具作製者としてはきっちり教育したが、エルンストは誰からも愛されず魔力の高さで人間の優劣を判断するという片寄った価値観の男になってしまった。
さらに、魔具製作に魅せられ、引きこもりとなった。基本日に当たらない彼がモヤシとアダ名されたのも仕方ない気がする。
用心に防音結界をはり、エルンストに現状を説明した。魔法院は構造がわかりにくいし、エルンストはそこそこ権力もある。協力するならレア魔物素材を提供すると約束した。エルンストは快諾。手付金として魔石をいくつか渡した。
迷子になったけど、協力者ゲットだぜ!
「俺はエルンスト=ベンダー。お前は?」
そういえば名乗ってませんでした。
「ロザリンド=ローゼンベルクです」
「……………ロザリンド=ローゼンベルク!?あのロザリンド=ローゼンベルクか!?いや、ロザリンド=ローゼンベルク様か!?」
「…………………へ?」
「魔具作成の神と称される賢者様の弟子にして、シヴァの寵児と呼ばれる魔具製作の天才…いや、奇跡の魔具作製者、ロザリンド様なのか!?」
誰それ。
確かに賢者の弟子ではあるし、シヴァの寵愛という天啓はあるが…どうしてそうなった!?やめて!そんなキラキラした瞳で見ないで!
「映像記録に通信魔具の画期的魔術式、素晴らしかったです!発想力、技術、魔力効率……本当に感服いたしました!」
「エルンスト…私はすごくありません!!」
贈り人による知識があるから、思いついたわけではなく『こういったものがあると便利』を知っているのだ。だからすごくない!と力説した。エルンストは少し考えると、私にたずねた。
「俺は風の魔力がない人間も空を飛べる大型魔具を作りたいんです。贈り人の世界にそういったものはありますか?また、可能だと思いますか?」
「あります。可能だと思います」
エルンストが笑った。彼のいわゆる『飛行機的な魔具』は彼の夢だが、ヒロイン以外に誰も認めず机上の空論だと流石に表だって言うものはいないが馬鹿にされているのだ。
「それについてはこの件が終わってからの協力でよろしいですか?」
「はい!こちらこそよろしくお願いします!」
返事はいいが、エルンストは兄と同い年…つまり年上である。
「エルンスト、敬語はお互いやめよう。私たちは協力者。対等な関係でありたい」
「対等な…わかり…わかった。よろしく頼む」
「うん!よろしくね。とりあえず…帰り道教えて」
「…ロザリンドはすごいのかマヌケなのか微妙だな」
「それは否定できない!」
私はすっかりエルンストと仲良くなりました。とりあえず今日は呪いを解呪して帰ることに。余談ですが、なかなか戻らない私を本気でハンスさんが心配していて…迷子になっていたと話したら苦笑されました。いや、その…すいませんでした。
どうでもいいですが、エルンストはたまたま魔具材料を倉庫に取りに来ていました。ロザリンドにはその帰りに会いました。エルンストが自主的に部屋から出るのは珍しいです。




