事件発生
二次会は我が家の庭で立食パーティー。なかなか料理の評判もいいみたい……ん?
「んだと、ゴルァ!もっぺん言ってみやがれ!!」
「何度だって言ってやる!いくら冒険者として高ランクだろうと、平民に団長は勿体無い!」
「ああ!?マーサに比べりゃ騎士団長なんざ糞だっつーの!!女だてらに成り上がるのを知らねーガキは黙ってろ!!」
ケンカか!?と思ったときには遅かった。もはや、冒険者VS騎士となりつつある。一触即発ムードである。
「やめんか!」
「やめろ!」
酒が入っているのもあってヒートアップしている。冒険者ギルドマスターとルドルフさんの制止も、怒号にかきけされ届かない。
「ディルク」
「嫌だ」
「……マーサを止めます。準備できたら耳飾りで通信よろしく」
「嫌だって言ってるのに!?」
私は素早く移動し、全員倒すつもりであろうマーサのドレスを控えめに引っ張った。
「マーサ、よく似合ってる。綺麗だよ」
赤いカクテルドレスは、マーサにお世辞抜きで似合っている。
「お嬢様……」
「私と母様で頑張ったんだよ。だから汚さないでね」
「う…」
「大丈夫、手は打った。ディルク、今どこ?準備OK?」
「…ロザリンドからみて右手の植え込み。準備はいいけど、やりたくない」
「ド派手に合図しますから、出てくださいね」
「は?ちょ…」
言うが早いか、私は魔法を起動させた。閃光と爆発音が鳴り響く。そして、もうもうとたちこめる煙をバックにご登場である。
「さあ…断罪の時間だ。神の加護を受けし戦士、ナイト・ヴァルキリー降臨!!」
もちろん土煙が料理に入らないよう、料理には結界がはってあります。
「あ!?イカれた鎧野郎が!てめえは関係ねぇだろ!すっこんでろ!!」
つかみかかろうとした冒険者を、一瞬で反転させて関節を極めた。冒険者達は愕然とする。
「う、嘘だろ!?うちのギルドのAランク冒険者だぞ!?」
「…全員相手をしてもいいが、お前達は何をしに来た。旧知の仲間を、上司を祝いに来たのではないのか?」
ナイト・ヴァルキリーは静かに語る。冒険者と騎士はハッとした表情だ。
「マーサ、すまなかった」
「台無しにしちまうとこだった」
「団長、申し訳ありません!」
「団長、すいませんでした!」
とりあえず冒険者も騎士も冷静になったようだ。
「それにしても、流石はナイト・ヴァルキリー様!」
騎士の一人が、それはもうキラッキラな視線をナイト・ヴァルキリーに向けた。
「あ?あいつのこと知ってんのか?」
「ああ、先日レイデ火山で初めてお会いしたのだが…凄かったぞ。魔物の群れをほぼお一人で殲滅なさったのだ」
「嘘だろ!?レイデ火山は高レベルな魔物が多いとこじゃねえか!」
「だが、ナイト・ヴァルキリー様は成し遂げたのだ」
なんかどや顔な騎士さん。信じられない様子の冒険者。
「いや、だからあんなにアッサリAランク冒険者を倒したのか」
冒険者も納得したらしく、羨望の眼差しを向ける。ナイト・ヴァルキリーが明らかに、周囲のキラキラビームに困っていた。
「……マーサさん、ルドルフさん、結婚おめでとう。私はこれで失礼する!」
魔法で小規模な爆発をおこし、ナイト・ヴァルキリーはそれに乗じて消えた。
「ナイト・ヴァルキリー様万歳!」
「ナイト・ヴァルキリー様最高!!」
騎士達によるナイト・ヴァルキリーコールはしばらくの間続いた。冒険者も便乗していた。特に貴族騎士は冒険者と相性が悪いことが多いが、ちょっと仲良くなったかもしれない。ありがとう、ナイト・ヴァルキリー。私は君の尊い犠牲を忘れない。
「ところでマーサは結婚後、どこに住むの?」
「このままローゼンベルク邸に住みますよ?」
「新居だ」
おい。そこは決めとこうよ。お互い硬直しているマーサとルドルフさん。
「…仕事はどうするの?」
「続けますわ」
「辞めてもらう」
「……………続けますわ」
「………………辞めてくれ」
今度は新郎新婦が一触即発である。殺気がガチだ。周囲もマーサ達が強すぎて止められない。下手に仲裁すれば、大怪我をしかねない。こらこら、武器は出すなよ?
しかし、そこはちゃんとあらかじめ話し合っといてよ!とはいえ、マーサが辞めたら困る。私はマーサに味方した。
「ルドルフさん、マーサと結婚できるのは、私のおかげと言っても過言ではないと思うんです」
「…ああ」
「騎士団の書類関連も貸しだと思うんです」
「…ああ」
「というわけで、貸しをまとめて返済してください。マーサはこのまま働き、新居に住むでいかがです?」
「む…」
「お嬢様…しかし、私は…」
「ローゼンベルク邸にルドルフさんが住むの?」
「かしこまりました。私は異論はございません」
「…わかった」
とりあえず折衷案で納得していただけました。結婚式で新郎新婦が初夫婦喧嘩するところでした。危なかった。
「…うまくいった?」
「ええ、ナイト・ヴァルキリー様のおかげで」
「絶対、2度とナイト・ヴァルキリーにはならない」
ディルクは静かに宣言しました。勿体無い。
こうして、ナイト・ヴァルキリーの活躍により結婚式は無事終了した。ありがとう、ナイト・ヴァルキリー!
事件は冒険者VS騎士のガチバトルがおきかけた…でした。ナイト・ヴァルキリー様が居なければ、確実に大乱闘になったと思います。ありがとう、ナイト・ヴァルキリー!




