怪獣大決戦
レイデ火山、山頂に到着した。山頂には火の精霊王の神殿がある。外からは結界が侵入を阻むため、入り口からしか入れなくなっている。
レイデ火山は活火山なだけあって暑い。
神殿は、ひどい有り様だった。崩れないのが不思議なほど巨大な爪痕が神殿中に刻まれている。あのえぐれてるのは尻尾痕かな?火の精霊がちらほら見えるが、皆怯えている。よく見たら、私達ではなくコウを怖がっているらしい。
「ドラゴンだ」
「神殿、メチャクチャにした」
「あっちいけ」
いらっとしたので、思いっきりパァンと手を叩いた。ビックリして一目散に逃げていく精霊達。
「わはははははははは!」
「キャアアアアア!?」
「わはははははははは!」
「イヤアアアアアア!?」
精霊を追回し、散々脅かして私は満足した。精霊は怯えて泣いている。きっと精霊眼のない人達には、奇行にしか見えないだろな…と思いつつ戻ると、コウが泣いていた。
「お姉ちゃん、ありがとう」
私はいらっとしたので暴れただけだ。しかしコウが状況を説明をしてくれたおかげで変人扱いは避けられた。まさに情けは人のためならず。
「コウをいじめるやつは、お姉ちゃんが許しません。うちの子を泣かす輩はもれなく私が泣かせます!」
そう、それが…
「グルアアアアアア!!」
たとえコウの親であったとしても。
「ディルク、ジェラルディンさん、カーティス!!」
「任せて!」
「おう!」
「はいよー」
現れた巨大なドラゴンにディルクとジェラルディンさん、カーティスが挑む。この3人ならなんとかしのぐだろう。
私は魔力を探る。魔力反応を見つけた。
「アルフィージ様とジェンド、オルド、ラビーシャちゃんはついてきて!コウ!行くよ!クーリンは、皆をサポート!」
「うん!」
「はーい、クーリン頑張る!」
アルフィージ様を担いで魔力による筋力強化を施し、全員でダッシュした。アルフィージ様の苦情は無視。ラビーシャちゃんがニヤニヤしていたが、やめてあげようね。
神殿をひたすら駆け抜ける。神殿の奥に、でっかい美人のオッサンがいた。
「でかっ!!」
「おとーさん!」
精霊王は皆でっかいの?そんな疑問はさておき、火の精霊王は苦しんでいるようだ。アルフィージ様を下ろしつつ、警戒した。
「ぐっ………息子か?」
「そうだよ!おとーさんとおかーさんに会いに来たんだよ!」
「……………そうか。これも神の導きかもしれんな。頼む…殺してくれ」
「おとーさん!?や、やだよ!いやだ!!せっかく会えたのに!!」
泣きじゃくるコウ。見ていられず、でっかい美人のオッサンに踵落としをお見舞いした。
「え?」
「は?」
「お姉ちゃん…」
「ぶふっ」
ポカーンとする火の精霊王、コウ、アルフィージ様。呆れるジェンドと笑ってるオルド、そしてプルプルしてるラビーシャちゃん。
「うちの子を泣かすやつは誰であろうと許さん!!殺してくれだぁ!?死にたきゃ自分で死ね!コウはあんたたちに会いに来たんだよ!トラウマ植え付けにきたんじゃないんだよ!」
「お姉ちゃん…」
「自分をしっかり持て!犬死にするんじゃない!嫁もアンタも助けてやる!仮にも王を名乗るなら、そんなものに負けるんじゃない!」
「おとーさん!がんばって!!僕、僕、たくさんお話がしたい!おかーさんも助けたいよ!ずっとずっと、会いたかったんだ!死なないで、おとーさん!!」
「ぐ…」
お、コウの言葉に反応して抗いだしたようだ。魔をなんとか抑えようとしている。
「所詮、それは異物です。可愛い息子が会いに来たんです。つもる話もありますよね。それに、私にはなんとかする手段もある。抗え、拒め、拒絶しろ!!魔力を操るのに長けた精霊王ならば、御せるはずだ!!」
「あ、あ、アアアアアアアア!!」
よっしゃ!魂と魔がうまく分離した!
「チタ!」
「任せろ!!」
チタが聖属性魔法を放ち、火の精霊王は消耗しているが大丈夫そうだ。
「お姉ちゃん、おとーさんは?」
「大丈夫!」
ピースサインをしてやると、コウは火の精霊王に抱きついた。現金な火の精霊達も王の復活に喜んでいる。
「おとーさん、おとーさん…良かった…」
しばらく親子感動の再会を堪能させてあげたいけど…まだ大物が残っている。
「コウ、お母さんも助けに行こう。コウの声なら届くかも」
「うん!」
コウが頷くと同時に、凄まじい音が響いた。
「お姉ちゃん、ごめん!抑えきれないぃ」
人魚バージョンのクーリンが涙目です。つか、ドラゴン…コウのママが…某ロールプレイングゲームのラスボスみたいに形態が変わってませんか?でっかくなってるよね!?明らかに巨大化してますよね!?
「ディルク達は!?」
「たたかってるよ!」
人が豆のようだ…ではなく、ドラゴンがでか過ぎるせいでわからなかった。
「なんででかくなっちゃった!?」
「わかんないけど、カーティスおにーさんがたいしたことないとか、ジェラルディンおじさんがつまんないとか言ったり攻撃したからか、怒ってでっかくなっちゃった」
挑発しすぎたんですね。わかります。見るからにさっきよりドラゴンが荒ぶってるしね…キレたせいもあるのか魔の気配が強い。
「ば、バカ二人!挑発すんなぁぁ!!」
いや、私達の方に来ないようにしてくれてたんだろうけどね。
「い、いかん…」
火の精霊王がうろたえている。
「何が?」
「我が妻の魔力に火山が反応している!」
「…火山が反応し………噴火!?精霊王とクーリンは連携して火山を鎮めて!」
「…君はどうするのだ?」
「最善を尽くします。私はコウを泣かせません!」
「お姉ちゃん…」
「無茶はするなよ、ロザリンド嬢」
「僕も戦う!」
「ドラゴンか…」
「ジェンドとオルドは見学。世界でも屈指の実力者揃いです。学ぶ部分は山ほどありますし、彼らだからこそしのげているんですよ」
「「えー」」
不満そうでしたが、言うこと聞かないなら強制送還と脅したら納得しました。
そして、近づいてみて思った。ドラゴンは神殿に入れないサイズになってたわけですよ。だから神殿前の広場みたいなとこで暴れてたんですが……
超でけぇ。
すげーな!コウの3倍はあるんじゃない?よくこんな巨体相手にしのいでたよ!完全に無理ゲーじゃないか!バカ二人とか言ってごめん!後で肉じゃがとステーキ食い放題にしてあげるよ!
「ヴァルキリー!!」
「ロッザリンドォォ!!」
「やかましい!いちいち私の名前を叫ぶな!」
「スイマセン」
対抗してヴァルキリーをドラゴンと同サイズで出した。私のテンションが下がるので、私の名前を叫ばないでほしい。そして、私に謝るヴァルキリーはシュールだ。
「危ないから、ディルク達は下がってて!」
うっかり踏み潰しかねない。味方にもこの巨体は危険である。
「ロッザリンドォォだぁ!」
「ロッザリンドォォカッコいい!」
「おお…」
コウ・ジェンド・オルドが喜んでます。男の子は好きだよね…若干なごみつつママドラゴンと対峙する。
「グルルゥ…」
目がイッちゃってて超怖い!しかし、怖いと言っていられない。時間が経つほど状況は悪化する。
こうして、大怪獣…じゃなかった…巨大ドラゴン対巨大化ヴァルキリーの戦いが始まった。
超怖い。
怖いとかいってる場合じゃないのは分かってます。でも超怖い。ヴァルキリーを操るのに見えなきゃ無理だから、首にシートベルトつけてるんですよ。このサイズのヴァルキリーだから、魔力供給が絶たれちゃうとすぐガス欠になるから、ヴァルキリーにくっついてないといけないのですよ。分かってます。
しかし、走るだけで上下運動がすごいし、ドラゴンは目がイッてるし、いつ潰されるか不安で仕方ない!
つまり、超怖い!そんな雑念に気がついたのか、ドラゴンに体当たりをかまされてヴァルキリーが倒された。しかもそれ、ファイアーブレスか!?
やばい!!咄嗟に結界をはろうとしたら、既に結界が眼前にあった。ナイス!アルフィージ様だな!起き上がろうとして巨大ドラゴンと結界の間に、ドラゴンが居たのに気がついた。
「おかーさん、やめて!!」
「コウ!?」
「お姉ちゃんをいじめないで!お姉ちゃんは僕をたくさん助けてくれたよ!おとーさんも大丈夫なんだ!いくらおかーさんでも……お姉ちゃんをいじめるなら……許さない!!」
ええええええ!?コウが…コウがでっかくなっちゃった!!
輝く紅玉のような鱗に、4本の角を持つ成体のドラゴンになってしまった。
しかし、地震がおきる。どうやらコウの怒りに火山が共鳴してしまったらしい。
「コウ!落ち着いて!火山が噴火するかもしんないから!」
「大丈夫」
魔力が一気に沈静化される。おお…コントロール能力も上がっているのか。
「グルルゥ…あ…ぼうヤ…ワたシの…う………うあああうあああアアアアアアアア」
巨大ドラゴンがファイアーブレスを吐いたが、コウが一瞬で無効化した。
「お姉ちゃん…あんまり僕が暴れるの、よくないみたい。ブレスの無効と火山の鎮静を優先するよ。僕が必要なら呼んで」
「うん!」
コウのおかげでほんのすこしだが魔とママドラゴンの魂が分離した。そして、この隙を無駄にはしない!私はヴァルキリーの口内に飛び込んだ。
最初からこうすれば良かったんだよと言うツッコミは受け付けません。私も今気がついたんだから。
「ロザリンド!?ロザリンド!!無事なの!?」
やっべ。ディルクが超心配してる。私はヴァルキリー内部で魔力を使い、カスタマイズする。神経を接続。まるでヴァルキリーになったみたいだ。自由自在に動く。
「無事だよ~」
今にも飛び出しそうなディルクにピースをした。さて、ブレスがないドラゴンなんて、でっかいトカゲだ。
形勢は一気に逆転した。現在ドラゴンをタコ殴り中なう。しかし、ここからが問題でもある。精霊王はそもそも魂に近い存在で、魔力コントロールに長けている。しかしドラゴンは身体的に優れているため、魔力コントロールはそこまで扱えないことが多いらしい。
さっきコウの呼びかけでママドラゴンはほんのすこしだが魔と分離した。逆はどうだろうか。
「魔は分身みたいなもの…カバディ…」
ぽつりと呟いたら、魔がビクッとした。ふむ。どうやら意識があるらしい。ならば…なんとかなるかもしれない!
「ヴァルキリー、ドラゴンモード!!」
「!?」
「すげええええ!!」
「カッコいい!!」
「おお…!」
「ふむ…」
「流石はお嬢様…」
ラビーシャちゃん以外の男性達がキラキラしています。
そして、ドラゴンモードでまたママドラゴンをタコ殴りにする私。
「同じ条件…いえ、私はドラゴンの姿で戦うのは初めてだから、ハンデがある状態でも勝てないなんて、無能ね」
「グルルゥ!?」
「ママドラゴンに替われば?あんたがヘボいからボコボコにされるのよ」
「オマエミタイニ脳ミソマデ筋肉ジャナインダヨ!!」
ママドラゴン…いや、魔ドラゴンかな?がパンチを繰り出すが、ドラゴンはそもそも前足が短い。リーチが短いから避けるのもたやすい。
ならばドラゴンはいかにして戦うか。答えは、ブレス、空中戦、噛みつき、尻尾である。魔ドラゴンはブレスを封じられ、ここは結界があるから空中戦は不利。奴は尻尾を使いこなせず…というか、使う発想がないみたいだし、噛みつきはしてこない。
よって、負けようがなく、魔ドラゴンはサンドバッグなうである。ただ、苦痛は遮断しているのか、あまりダメージはないようだ。ならば、更なる屈辱を与えるしかない。私もそんなに罵倒のバリエーション無いし。
世界のオカンよ…!私にママみを分けてくれ!!今こそ、伝説の必殺技を発動させる時だ!!
私は魔ドラゴンに足払いならぬ尻尾払いをかけて転倒させ、通常のヴァルキリーに戻してすかさず正座して魔ドラゴンをうつ伏せにホールドした。尻尾が邪魔なんで持ち上げる。
「マ…マサカ……」
「ふはははは、母ちゃん許してと泣き叫ぶがいい!」
ちなみに、ヴァルキリーは婚約指輪で作った白いフリフリエプロンを着用しています。
秘技、おしりペンペン。幼少時ヤンチャな子供が母に処される、残酷かつ屈辱的な刑罰である。母によってはパンツまで下ろされ、苦痛より屈辱を伴う、非道なる技である。
「ヤ…ヤメテ!許シテ!」
「許さん!!おしり丸だしで叩かれる屈辱を存分に味わうがいい!」
ドラゴンて、全裸ですから。尻尾持ち上げたから、おしりの穴も見えてますから。
「シ…リ…?ア、アアアアアアア!!イヤアアアアアアアアア!!イヤアアアアアアアアア!!」
状況を正確に把握した魔が、ママドラゴンからついに分離した。
「チタ!」
「任せろ!」
私とチタの魔力が混ざりあい、ヴァルキリーで更に増幅された。
「聖母最強伝説!!」
技名は適当である。そして、魔は跡形もなく消え去った。
ようやっと書きたいシーンが書けました!どこだったかを当てた方は、もれなく作者に心の友よ!!とコメントされます。




