世界一のパパは…
「ついに最後の戦いとなりました。この戦いに勝った人が優勝です!」
「え!?今までの戦いは無駄!?」
「いや、旦那様がダントツすぎるから面白くないじゃないですか~」
そうだね、父がぶっちぎりだったもんね…
「というわけで、方式はバトル・ロイヤル!相手にまいったと言わせた者の勝ち!武器使用可です!」
ラビーシャちゃんの説明後、それぞれが武具を準備していく。父は冒険者まがい時代の装備だと、魔法防御刺繍入りの服を着て、腰に魔石入りのショートソードをつけていた。
「パパ、これを使って」
「…これは…」
「銘は氷華。パパのために作ったの」
「…大事に使おう」
氷華は先端に雪の結晶入りの大きな魔宝石をあしらった杖だ。
父、耳が赤いです。喜んでくれたのかな?
「ロザリンド、頼みがある」
「…はい?」
「さあ、バトル・ロイヤル開始です!!」
「くらえ!」
ミチェルさんが魔法…いや天啓で蔦を急成長させてジェラルディンさんを絡めとった。
「ふん!!」
「な、なんと引きちぎったぁぁ!?」
「あ、ありえない!!あれ、あの植物はデビルウィップといって、絡みついたら最後、Sランクの魔物すら逃れられないものなのに!」
「解説のゲータさんありがとうございます。おおっと!?ミチェルさんさらに仕掛けていたようです!」
ミチェルさんは元からデビルウィップには期待してなかったらしく、ジェラルディンさんに斬りかかっていた。しかし、腐っても英雄。難なく斬撃を受け止めた。ミチェルさんもなかなかの腕だが、あくまでもなかなかだ。このままでは…
「サボノバ!今だ!」
え?
「サボテンフラーッシュ!!」
サボノバさんがま、まぶしい!
「ぐああ!目が!目がぁぁ!」
しかし、英雄の動きは変わらない。すげーな!
「ちょ!?お前見えてんの!?」
「見えてないが、匂いと勘だ!」
「す、すごい!流石は英雄です!視力を奪われても、全く動きが変わりません!」
「さて、と」
そろそろ準備した方がいいね。私は指輪を杖にかえた。術の発動にタイミングを合わせる。
ドーナッツ型の私の結界と、父の氷魔法が発動したのは同時だった。
『絶対零度』
氷系、無差別広範囲魔法が炸裂した。しかし、父の狙いは彼らを氷漬けにすることではなかった。魔法は彼らに当たらなかった。
「「さ、さみいぃぃぃ!!」」
魔法が一気に気温を下げ、全員の動きを阻害した。
「くっ…覚悟!」
それでも父に向かうジェラルディンさんだが、寒さで普段のキレはない。
「審判、俺は棄権だ。サボノバが凍っちまう」
「ミチェルさん、棄権です。勝負は旦那様とジェラルディンの一騎打ちになりました!」
「旦那様、剣も扱えるんですね……」
「ああ見えて、昔は騎士団長のルドルフと互角でなぁ。宰相より騎士団行きたかった時期もあったみたいだぜ」
そうなんだ?てっきりインドアなのかと思いきや、意外です。寒さで思うように動けないジェラルディンさんが今の父に勝つのは難しそうだな。父はかなり強い部類だ。
「おおっと!?旦那様がジェラルディンさんを追い詰めました!」
「…降参は」
「しない。負けは負け「叔父さん!おとーさんをいじめないで!」」
「「は?」」
「ジェンド!?」
火事場のバカ力的なものか、ジェンドは私の結界を破壊してジェラルディンさんを抱きしめる。
「おとーさんは世界一だよ!僕おとーさん大好きだよ!だからけんかしないでぇぇ!うわああああああん!!」
ジェラルディンさんに泣きつくジェンド。どちらも困りきった表情です。
「………私の負けでいい」
「……いや、俺の負けだ」
「ジェンド、もう勝負はおしまいだ。ジェラルディン殿と私はケンカしない」
「ほんと?」
「ああ!だから泣かなくていいぞ!」
「うん!」
父が下げまくった周囲の気温を戻し、氷を全てとかした。
「そもそも、ジェンドはずっとジェラルディンを悪くいったりしてませんし、大好きなんですよ」
「…そうか」
「というか、妻子放置してたおっさんが世界一とか笑っちゃうよね」
「ぐっ」←長期外出で放置
「うっ」←仕事多忙で放置
「ぬっ」←投獄で不在
スイからの思わぬ攻撃に丸まる父たち。
「…お父さんは皆の平和のために頑張っているのと恨み言を言わない母。でも悲しんでいるのが僕にはわかる。世界より家庭を平和にしてよ…でも言えない。理解がないとこちらが責められてしまう。母も疲弊し心が離れ、家庭は冷えきり「待て待て待て!!へこんでる!ベッコベコだから!今だかつてないぐらいジェラルディンさんがぺしゃんこだから!」
スイの精神攻撃に、ジェラルディンさんが泣きそうだ。いや、父とミチェルさんも涙目だ。
「おとーさん!おとーさんは今は僕らのそばにいてくれるから、そんなこと思ってないよ!」
昔は思ってたんじゃないか?と思ったが、つっこむとジェラルディンさんが浮上できない気がして黙っときました。スイは地味にジェラルディンさんに怒ってたようです。スイはかなりジェンドを可愛がってるからなぁ……あ…だからあのくっさい植物か。謎がとけました。うちの子は敵にまわしてはいけません。
父とミチェルさんにもフォローしときました。
「と、とにかく!優勝は全員!うちのパパが1番ということで!」
「いいえ、お嬢様」
沈痛な面持ちで、ラビーシャちゃんが首をふった。
「優勝は、お嬢様です!!」
「どうしてそうなった!?」
「まず、初戦のかけっこですが、お嬢様の方が転移は無詠唱ですから速いです」
「うん」
「教え上手対決でも、お嬢様は高評価でした」
「……うん」
「かくれんぼも、見つけるの得意ですよね」
「………………………うん」
「お嬢様はセンスがいいです」
「…そう?」
「はい。お嬢様のチョイスは的確です」
「料理は皆様…お嬢様が1番ですよね」
皆がうなずいた。
「それ以外でも、お嬢様は強いし、包容力があり、財力もあり、つがいだけじゃなく子供への気配りも忘れない…世界一のパパはロザリンドお嬢様でいいんじゃない?とスイ君と話してまして」
「なんでだぁぁ!?しかも軽い!司会と審判で決めないの!!」
「…なんかわかる気がする」
「お嬢様…確かに言われてみれば…」
「確かに男なら非の打ち所がないな」
納得したご様子のジェンド、ジャッシュ、シーダ君。納得すんな!しかも男ならって…女子ですが何か!?
「とゆーわけで、優勝はお嬢様になりました!」
「どうしてこうなったぁぁ!?」
私の悲しい叫びが周囲にこだましました。こうして、第一回世界一のパパは誰だ対決は私の優勝で幕を閉じました。参加してないし、性別ちがうし、子供を産んでない!という私の叫びは聞き入れていただけませんでした。
後片付けも終わり、解散というところで母がニコニコと家族に召集をかけました。
「ママから重大なお話があります」
「うむ」
母の話に耳を傾ける全員。
「ロザリンドちゃんに弟か妹ができます」
「………………………………は?」
「え?」
「弟?妹?妊娠!?やったあああああ!!ママありがとう!全力で可愛がるから!!いつ!?いつ産まれるの!?」
「7ヶ月後ぐらいかしら…」
「わああああい!!兄様!家族!新しい家族ですよ!今夜はお祝いですね!ダン!ごちそう作って…いや、私も作る!今夜は宴だああああああ!!」
走り去る私に、兄が呆然としてました。
「…ロザリンドのテンションが半端ないな……母様…」
言いかけてあわてて目をそらす兄。
「…ありがとう…シンシア」
「…うふふ。ロザリンドちゃんも可愛がってくれそうね。私もありがとう、幸せだわ」
父は母を抱きしめ、お互い穏やかに微笑みながらキスしていました。
夕飯は超豪華で、ミチェルさんちもお招きして楽しく過ごしました。
というわけで、優勝者はロザリンドでした。
母妊娠については、皆様結構予想してたんで違う結果にしよーかと魔が差しましたが、予定通りにしました。きっと可愛い赤ちゃんが産まれてきます。




