お買いものデート
朝食を済ませたあと、ディルクと手を繋いで町にお出かけしました。シュシュさんの領地はチョコレートが特産品。他にもカイコッコという魔物の糸で作った絹っぽい織物や彼方さん考案のイカ焼きやお好み焼きもあるらしい(ただし塩味)
やはり異国の風景は楽しく、どことなくアジアンテイストなウルファネアの町並みは見ていて楽し………風景のなかに、明らかに異物があった。日本家屋にしか見えない建築物がちらほら…救世の聖女・こと姉ちゃんが愛した建物らしい。畳にちゃぶ台…わりにズボラーなウルファネアは、意外にも玄関で靴の着脱が一般的。理由を聞いたら、掃除が楽だから…………………納得した。
泥だらけの子供ら大人やらが存在するウルファネアでは、家の内外を明確にせねば家事をやる人間が過労死しかねないのだとか。
「あ、あれ何かな?」
可愛らしい屋台には、沢山のリボンが飾られていた。
「どうだい?可愛らしい彼女とお揃いでどーよ!今流行の赤いリボン!互いの小指に結べば運命の赤いリボン!互いの色を手首に結ぶ、恋人の証もお薦めだ!どうだい?買うかい?」
テンポよく話す…リスかな?な少年。試しにひとつ手に取る。手触りは絹だが、魔力を通す性質があるようだ。買おうかな…
「うちのはここらでも1番質がいいよ!なんと王宮にも献上してたぐらいだ!」
「へえ」
確かに布としては最上位ランクだろう。グラデーションや柄ものまである。かなりの技術を要する品も多い。
「恋人の証…」
ディルクは恋人に見られたのが嬉しいらしい。尻尾もご機嫌だ。互いの色のリボンを手首に結ぶ行為は日本の薬指の指輪にあたるらしい。どうでもいいが運命の赤いリボンは彼方さんの適当説明によるものと後日判明した。
「…ディルク、せっかくだから買おうか?」
「!!うん!ロザリンドの色に近いのはどれかな?」
リボンを選ぼうとしたら、明らかにごろつき的なオッサンが来た。
「カイコッコのリボンなら向こうがいいですよ。今王宮御用達なのは向こうの店ですから」
少年はとても悔しそうにしている。
「ディルク、一応見てみようか」
少年に嫌がらせされたりするとやだなぁと思ったから見に行ったが…正直私の趣味じゃなかった。目がチカチカする。派手で下品。織物としても先程の店よりやや荒い。
「いかがですかな?」
今日はお互い身なりのいい格好だし、カモだと思われちゃったかな?でっぷり太ったカエルの獣人…多分店主が揉み手しながら話しかけてきた。
「私の趣味には合わないようですわ」
「…………こちらなどお嬢様によくお似合いですよ?」
「私の趣味には合わないようですわ」
私はノーと言える女です。ど派手なカイコッコ織物のワンピース。日本語で『焼肉定食』とかかれた上に豹柄である。似合わないよ!似合いたくないよ!微妙に大阪のオバチャンスタイルじゃないか!…は!彼方さん!?犯人は彼方さん!?
「おい」
私がやや混乱していると、とてもドスがきいたお声がしました。
「俺の婚約者にそんな下品な服が似合うだと?」
ディルク様激おこ!!めっちゃ睨んでる!普段は温厚だから怒ると怖い!超怖い!!でも私のために怒ってくれるなんてかっこよくてキュンキュンしちゃう!これがつり橋効果か?(違います)
「は…いや………」
哀れな多分店主はディルクの殺気に耐えきれなかったらしい。
「しゅみましぇんでしたぁぁぁ!」
盛大に噛んで逃げ出した。
「私もディルクが選んだワンピースが気に入ってるから、今日は服、欲しくないなぁ。あのワンピースは趣味が悪すぎ」
「そうだね」
ディルクに抱きつくと、優しく撫でてくれました。
「さっきの露店、戻ろうか。恋人の証を買おうよ」
正直この店の品はリボンなどの小物も派手すぎて好みじゃない。
「困りますねぇ、お客さま」
店を出ようとすると、ムキムキなゴリラの獣人に話しかけられた。押し売りかな?私達、見た目はあまり強くなさそうだもんね。
「何がですの?」
「うちの商品にケチつけやがって!どう落し前つけんだよ!ああん!?」
普通のクリスティア貴族なら、これ怯むだろうなぁ…冒険者の顔が怖くて威圧感あるおっちゃんに慣れた私達には効かないけど。
「どうもなにも、好みじゃないだけですわ」
「は?」
多分私の反応が予想外だったんだろうな。だが、怖くないのだから仕方ない。
「そうだね。好きな人は好きなんじゃないかな。俺達の趣味じゃなかっただけで」
「ふ、ふざけんな!」
「…押し売りですの?ウルファネアの王室御用達の店が?それに下品というのはあくまでクリスティアの基準ですわ。服を取り扱う店員なら、もう少し客のニーズを考えていただきたいわ。この服、貴方は私に似合うと思いまして?」
先程の服を自分にあてた。顔が怖いオッサンは目をそらした。正直だな、オッサン!しかし、似合わないよと反応してくれてありがとう!似合うと言われたら暴れるとこだったよ!
「俺さ…今日のデート楽しみにしてたんだよね」
ん?ディルクの様子が…
「可愛い可愛い婚約者が、俺を独り占めしたいからデートしようって誘ってくれて…幸せな気分でデートしてたのに、水をさすってどういうことかな…」
おうふ…圧倒的な強者の気配に、屈強なオッサンは腰が抜けたらしい。多分店主のカエルは失禁している。私も息がしにくいほどの凄まじい怒りと殺気に…………私はむしろときめいた。
いや、だってさ?それだけ私とのデートを楽しみにしてたんだよね?ディルクったら!
「えへへ」
ディルクの腰に抱きついてスリスリした。
「ロザリンド、待っててね。始末してくるから」
うん、もちつけ(動揺した)
ここは私が頑張ってディルクを引き留めねばなるまい。
「やだ。今日のディルクは私だけのだもん。待たない。私を優先!かまって!私だって今日のデートを楽しみにしてたんだよ?前日から服とか一式持ってきてもらったり、スキンケアとか巻き髪したり…」
ディルクが膝をついた。
「俺の婚約者が可愛すぎて辛い!なんなの!?」
こうかはばつぐんだ!
「ね、行こう?」
首を傾げて手を引くと、ディルクは素直についてきました。
「………あー、よぉ」
店を出たら、先程の露店で売り子をしていたリス少年に会いました。
「やあ?」
とりあえず、挨拶してみた。
「…もしかして、心配して来てくれた?」
「ち、違うし!あ、あいつら無理矢理買わせたりするから騎士呼ぶべきかとか考えてないし!」
どうやら心配して騎士を呼ぶべきか考えていたらしい。ディルクも苦笑している。
「お店は大丈夫?」
「ねーちゃんに押しつけてきた」
「あのお店は趣味じゃなかったんだよね。他にいい店知らない?あの露店はなかなかだった。品質も最上位だと思うの」
「ああ!母ちゃんの布は世界一なんだ!」
リス少年はにっこり笑った。露店でリボンを買うより、店にはもっと色々あると言うので店に案内してもらった。
「なんというか…」
ぼろい。ガラス割れてるし。これは客が来ないな…と思いつつ店に入ると素晴らしかった。デザイン、布の質…縫製…どれをとっても申し分ない。色とりどりのなめらな布に施された繊細な刺繍…うっとりしてしまう。
「ディルク!これ着て!あとこれとこれと……」
「えええ!?」
「あと…」
「まだあるの!?」
あります!私はディルクに笑顔を向けた。私が喜んでいるので、素直に試着しに行くディルク。
ディルクはやっぱり体の線がでるウルファネアのアオザイ風衣装が似合うんです!どれも甲乙つけがたい…いっそ全部買うか?
「えっと…小物は安いけど、けっこう服は高いぞ?」
私の財布を心配するリス少年。いい子だね。
「大丈夫!これとこれでどうですか?」
ポーチから宝石を出した。多分額としては今試着しにいった服が充分買えるはず。宝石は店主らしいおっとりしたふくよかなリスのおばさまが受け取った。
「おつりがでるぐらいだわね…それにしてもお嬢様は目利きねぇ…うちの店で最高ランクのものばかりチョイスするなんて…」
「布は母と服やドレスを作るときによく見てますから、目が肥えてる方だと思います。ここのは布も縫製もデザインも、文句なしに一級品ですね」
「だろ!?かーちゃんが全部作ってんだぜ!すげーだろ!」
おばさまは穏やかに微笑み、リス少年は得意気だ。
「はい、そうですね…いやあああああ!ディルクかっこいい!愛してます!結婚してください!今すぐぎゅーして!素敵ぃぃ!」
「ロザリンド、落ち着いて!!」
黒地に金の細やかな刺繍を施したアオザイ風。ウルファネア独自の伸縮呪が刺繍されているので、ウルファネアの服は基本フリーサイズです。それはさておき、ディルクがイケメンすぎます!
私のテンションにリス少年がドン引きしていますが、構うものか!ディルクが素敵すぎるから仕方ない!!
ディルクはとりあえず、私が落ち着くまでハグしてくれました。そして着替えるたびにテンションが振り切れる私に、リス少年は慣れたらしく残念なモノを見る目をしていました。ディルクと多少の攻防があったものの、全て購入しました。いい買い物した!!どれもディルクによく似合ってました!
ちょっと中途半端ですが長くなりそうなんで切ります。
ロザリンドはなんというか…若干普通じゃない自覚が出たようです。




