変身
とりあえず彼方さんの大絶叫で呼び寄せた魔物は殲滅したからしばらくは来ないかな。のんびりディルクと雑談しながら歩きます。
「…ロザリンド、他に神様に何をやらかしたの?」
「いきなり背後から襲われたので、くすぐり倒して涙と鼻水まみれにしました。でも仲良くなりました」
「間を省略しないで!全く分からないから!」
説明しました。かくかくしかじか、これこれうまうま…
「…ロザリンドはなにがしたかったの?」
「奇襲されたから、応戦しただけですが」
「なるほど」
「後の二人は謎の儀式風日本の伝統的遊戯・かごめかごめをして泣かせました」
「なんでいちいち神様を泣かすの!?」
「彼方さんの安眠を毎晩毎晩妨害していたそうで、こらしめてやりました。とどめは変態と彼方さんと幻覚の魔法少女オッサン×2によるダンスショーでした。神様がパニックを起こしてました」
「カナタさんまで何してるの!?」
「カバディの件でも言いましたが、彼方さんはリンと同類です。その場のノリですよ」
「………そう」
ディルクが私と彼方さんに色々諦めたところで、また魔物が来ました。デーモンストーンですね。ドラ○エのばくだん○わに似ているが、爆発はしない。この世界に自爆呪文はありません。どうみても岩なのに石という名前の魔物である。
「彼方さーん」
「あいよ。へんしーん」
ペン型魔具から光が溢れまたした。
「ひとーつ、人に迷惑かける…ふたーつ、不埒な悪戯三昧…みっつ、醜い魔物どもを成敗してくれる!カナタロウ!…………なんでやねん!」
お侍さんスタイルの彼方さん…いや、カナタロウはセルフツッコミをしていた。素晴らしいツッコミですぜ、兄さん!
「おお…!」
「カッコいい!」
銀狼親子がめっちゃ尻尾振ってます。カッコいいですか、そうですか。
「なんで戦隊風➡ウルトラ○ン➡桃太郎侍が来ちゃうんや!?年齢層おかしいやろ!特撮どこいった!?」
「桃太郎じゃなくカナタロウです。お茶の間のヒーローじゃないですか、一応」
「なんでチョイスした!?」
「………魔が差しました!」
「納得した!」
納得してくれたカナタロウ侍は腰の刀でザクザクデーモンストーンを斬り捨てる。スパスパ斬れてるわ。すげー。
「………俺はいる意味があるんすかね」
アンドレさんが蛇なのに死んだ魚みたいな目をしていました。
「彼方さんはまだ魔力の扱いがいまいちですから、護衛は必須ですよ。配分とかわかんないでしょうし。あれは魔力による身体&武器強化ですから、そこそこ消耗します」
「…なるほど。でもお嬢様とロザリンド様達が居れば不要じゃないっすか?」
「正直ジェラルディンさんは戦力ですが護衛には全く向きません。ジャッシュはジェラルディンがテンション上がりすぎて迷子にならない要員です。私とディルクも囲まれて分断されれば守りきれるかは微妙です」
「いや、ロザリンド様とディルク様なら大丈夫な気がします」
「気のせいです」
アンドレさんとそんな意味のない会話をしていたら、カナタロウ侍がデーモンストーンを倒し終えたようです。
「つまらぬものを斬ってしまった…」
めっちゃノリノリですやん、兄さん!!
「主」
「はい」
「俺も欲しいのだが」
「…あんたは魔力が低いから無理」
「…きゅ~ん」
やめろ。ガタイのでかいオッサンが、そんなあたかも段ボールに捨てられた仔犬みたいな鳴き声と瞳で……わ、私にはそんな泣き落し効かない……き、効かないんだから……………
「…つくってみる」
負けました。きゅ~ん、きゅ~んと切なげに鳴く悲しい瞳のオッサンに私は完敗しました。こうかはばつぐんでした。
「お嬢様、すいません」
「まぁ、しかたないよ」
「………私も欲しいです」
「…………おうふ」
ジャッシュ、お前もか!?とツッコミたかったが、恥ずかしがりながら申し訳なさそうに言う普段は大人しく従順な従僕。彼の珍しいおねだりを拒否することはできなかった。いつも頑張ってくれてるし、魔具ぐらいいいかと思ってしまったのだ。
「まぁ…ひとつでもふたつでも手間は変わらないかな…」
「魔具を弁当のおかずかなんかと同列にするのはロザリンド様ぐらいだと思いますよ」
アンドレさんが呆れてます。ついでなんで隠れ家で休憩することになりました。
「便利やな」
「まさか遺跡内部で茶が飲めるとはな」
待つことしばし。
「できました。こっちがジェラルディンさんで、こっちがジャッシュの分」
ジェラルディンさんのは腕輪(なくすの防止も兼ねて)ジャッシュのは小刀だ。
「おお…」
「ありがとうございます、お嬢様」
尻尾が取れるんじゃないかというぐらい振りまくる銀狼親子。よかったね。
「ゆくぞ、ジャッシュ!」
「はい!」
彼らは輝いていた。それは新しい玩具で遊びたくてたまらない少年そのものだった。尻尾が取れるんじゃないかというぐらいふりふりしながら、彼らは隠れ家の扉を開いた。
隠れ家から出ると、ジェラルディンさんは早速変身した。
「正義の使者、ウルファネアマスク参上!!」
ウルフフェイスマスクをかぶった、キ○肉マン的な素敵筋肉のスー○ーマンみたいなピッチリスーツとマントを着たオッサンが現れた。
「うおおおお!!」
喜んでテンションが上がりまくったオッサンは、走り去った。
「え!?ちょっと!?」
あっという間に走り去ったので止める暇がなかった。スーパーハイテンションマンと化したオッサンが遺跡を駆けていった。
「ジャッシュ、止めて!」
「かしこまりました!」
ジャッシュも魔具を使った。光が溢れる。
「影に生きるは我が運命…愚か者に裁きを与えん」
中2病感満載の忍者…いやむしろのNIN☆JYAだな。忍んでない…に変身したジャッシュが後を追った。しかし、私は失念していた。ジャッシュもスーパーハイテンションになっており、力を試したくてしかたない状態だったのだ。
オーバーキルなスーパーハイテンションマン達が解き放たれた結果は…………
1時間後。
私の前に正座させられている銀狼親子がいた。
「君達、今回は彼方さんの戦闘訓練を兼ねていたんです」
「「はい」」
「新しい武器にウキウキしちゃったのは分かります」
「「はい」」
「やりすぎじゃぁぁぁ!バカぁぁぁ!!」
私のハリセンに吹っ飛ばされる銀狼親子であった。彼らはそのハイテンションのままに遺跡内部の魔物を殲滅してしまったのだ。私がこれだけ大絶叫しても何も出てこないよ!
「やっぱり護衛は不要でしたね」
死んだ魚みたいな目をするアンドレさん。流石にこの現状で私は否定できなかった。




