ロザリンド?ロザリア?
とりあえず、互いに覚えてる範囲で彼方さんとルーンアースオンラインについて話し合った。ルーンアースオンラインの初期マップはウルファネアだったらしい。彼方さんが確認済み。さらに現在のウルファネアの地図にルーンアースオンラインで遺跡としてイベントがあった部分に丸をしていく。大概が魔物の巣窟なので、彼方さんでは探索できなかったらしい。
私達なら楽々最深部まで彼方さんを守りながら行けるだろう。ついでに探索してから帰るかな?
だんだん話は雑談になっていった。ディルクも分からない単語を確認したりするうちに彼方さんへの警戒が薄れたようだ。ゲーム内夫婦がギブアンドテイクな友人関係でしかないと理解できたのもあるかもしれない。リン達の世界の話は面白いと瞳を輝かせていた。そういやだんだん融合していくにつれてリンの記憶もぼんやりしてたから、あんまり話してなかったのもあるかもね。
雑談ついでに気になっていたので彼方さんに聞いてみた。
「そういやシュシュさんとなんでケンカしたんですか?」
「あー、ケンカではないな。自分のいたらなさに嫌気がさしとるだけや。シュシュが辛いのになんも知らんと楽しく過ごしてた自分が許せん。慰めるだけの贈り人や言われても仕方ないわ」
「…は?」
「シヴァのアホに言われたときは腹立ったけど、俺はルーンアースオンラインでシュシュが今の姿のまま幽霊になってたのを分かってたのに口に出したら本当になりそうで…見て見ぬふりを無意識にしてたんやろなぁ。せめて畑をちゃんとして皆が食うに困らんようにって色々頑張ってたけど、それも無駄やった。工夫しても次々枯れて…」
「ばか!」
「あた!」
「努力に無駄なことなんかあるもんですか!チョコを完成させるなんてすごいです!彼方さんの頑張りは皆も認めてたじゃないですか!それにしてもちょっと気になったんですが、なんですか?慰めるだけの贈り人って」
「…シュシュは世界の人柱になるはずやったから、せめてもの慰めにと俺は喚ばれたらしい」
「……へぇ」
「ロザリンドさん、とっても怖い表情ですよ?」
ディルクの尻尾がぶわっとなっている。私の怒りを察知したらしい。
「ふふふ…うん。だろうね」
私はにんまりと悪い笑顔をしてみせた。そして、瞼を閉じて相棒に語りかける。相棒も私の考えに賛成してくれた。久しぶりに切り替わる。
「…カナタさん、私が魔法をお教えします」
「…ロザリンド…いや、ロザリア?」
「ふふっ」
私はディルクに微笑みました。私達は融合しかかったものの神に会った影響か、また分かれてしまったのです。しかし、リンと切り替わってすぐに気がつくとは流石ディルクですね。
「贈り人が無力だなんてただの思いこみですよ、カナタさん。全属性と強い魔力があるんですから、いくらでも強くなれます」
「…よろしく頼む」
カナタさんは私に頭を下げたのでした。
カナタさんは優秀でした。既に天啓により魔力コントロールができていたので、ちょっとコツを教えるとすぐに初期魔法をマスターしてしまいました。恐らく贈り人はイメージすることが得意なのでしょう。あにめやまんが、小説などで、もーそーりょくを培ったからイメージは得意なのだとリンも話していました。
「さて、今日ぜひマスターしていただかなければならない魔法がございます」
「おう」
「頑張ってくださいましね」
「…何を企んでるんだかね」
ディルクが呆れたご様子ですが、それでも私達を止めない辺りが愛ですよね。
ディルクはきちんと私達の怒りを理解しているからこそ好きにさせてくれているのです。何をやらかすかまでは分かっていないみたいですけどね。流石にバレたら止められる気がしますから、言いませんけども。
カナタさんは私が覚えるよう言った魔法と、さらに無詠唱も出来るようになりました。まだ無詠唱は難しいらしく、威力はイマイチですけどね。
「…しょぼいな」
小さな炎にしょんぼりするカナタさん。
「いいえ、この炎だって使いようですよ。小さな魔法も…例えば体内で発動させれば敵は大ダメージです」
「えっぐ!?」
「…ロザリア…いや、ロザリンドの発想は基本斜め上だよね。まぁロザリンドはどれだけ相手と実力差があろうとも、勝ちたい勝負は予想外の方法で絶対勝つからなぁ」
「うふふ」
カナタさんはその後もいくつか魔法練習をして初期から中級ならそこそこ扱えるようになりました。
そろそろ休憩をさせようと思ったところで気配を感じました。シュシュさんが隠れています。あの、素敵な尻尾が隠れていませんよ?可愛いですね。
「うふふ。カナタさん、あまり一気にやるのもよくありません。シュシュさんがお迎えに来てますし、よーくお話ししてください」
「ああ」
「恐らくは互いの思いやりがすれ違っただけです。大丈夫、伝わります」
「色々、ありがとな。行くわ」
カナタさんは私の頭にポンと手を置くと、シュシュさんの所にいきました。それを目で追いながら、私の相棒に語りかけます。
『…首尾はいかが?』
『ばっちぐー!そっちは?』
『上々ですね。とりあえず、必要な魔法はきちんとマスターしていただきましたよ』
「ええと…ロザリア?ロザリンド?どっちで呼んだらいい?」
ディルクが話しかけてきたので脳内会話をいったん打ち切りました。
「ロザリンドでお願いします。私達の名前ですから」
「うん、わかった」
ディルクは私の手をとり、歩き出します。他愛もない話をしながら歩くのはロザリンドが何度もしていたのですけれど、なんだか不思議な感じでした。




