もうひとつのゲーム
ディルクにドナドナされて客室に連れ込まれ、押し倒されました。
「ロザリンド、言いたいことはある?」
「…お手柔らかにお願いいたします」
「…抵抗しないの?昔の事だし、抱きしめられたのはともかくこんなの八つ当りだよ」
両手を抑えられ、マウントを取られた状態で確認された。いや、抵抗なんて無駄じゃないかな?勝てる気がしませんよ。そもそも抵抗する気もない。
「ディルクが泣きそうな表情するぐらいなら、好きにしていいよ。私はディルクのモノだから。まぁ…それにヤキモチ焼かれるのが嬉しいし…ディルクが好きだからいいかなーと…」
「ロザリンド…」
少し強めに抱きしめられた。まぁ、難しい話だよね。ゲーム内の嫁とか理解もしにくいしさ。
あれ?あのゲームの名前………一気に体温が下がった。NPC、モブキャラ……なんで思い出さなかった!?繋がっていたんだ!くっそ、乙女ゲームの方に後でハマっちゃったからか印象が薄かった!
「ロザリンド?」
ディルクにしがみついた。気のせいだと思いたいが…こんな偶然あるはずない。
「ディルクは嫌だと思うけど、私は彼方さんと話さなきゃいけない。今後に関わる話をしなきゃ…」
起き上がろうとしたが、肩を押されて戻された。
「まだダメ。お仕置きしてないでしょ?」
「………おうふ」
ヤバい。これは獲物をいたぶる猫の…いや、豹の瞳だ。お仕置きって私は何をされるんですかね?不安しかないわ。
チクッと首に痛みが走った。大したことはないけど、いわゆるキスマークって奴ですかね?
「んっ!?」
首を撫でられる。
「良かった、上手くできた。ロザリンド、首にいっぱいこれつけるから」
「……え?」
「人間は嗅覚がいまいちだからマーキングが分からないけど、これなら見えるから人間でも分かるよね?」
うん…ディルクさん、ご乱心!!え?さっきはションボリモードでしたよね?切り替えスイッチはどこじゃあああああ!?
うん、大変でした。私が大変でした。濃厚なマーキング+キスマークで首が……噛み痕まであるんだけど。これ治すなってどんな羞恥プレイ?
再会した彼方さんも似たような状況でした。私より噛み痕が痛そうです。
「…なんかスマン」
「いえ…悪気ないのは理解してます。人払いをしてもう一度話をしたいんです。互いの情報のすり合わせがしたい。シュシュさん、部屋を借りますね。ディルクは同席してください」
「ディルクも?」
「はい。つがいのヤキモチ防止と…先程も言っていましたが、彼には『ゲーム』の話もしています」
「…そうか」
「カナタ、私も…」
「シュシュ、お前俺に隠してることがあるよな?お前、俺に黙って死ぬ気やったやろ。その罰や、仕事しとれ。この話はお前に聞かせたくない」
「カナタ?」
「…お嬢様、仕方ありません。仕事してください」
シュシュさんはかわいそうだが、これは彼方さんとシュシュさんの問題だ。泣きそうなシュシュさんを彼方さんは見ようとしなかった。
また応接室に来たわけですが、私はディルクのお膝です。すっかり警戒されてますよ、彼方さん。念のため遮音結界を…
あれ?なんかバチッてした。私がドアを開けると、シュシュさんが出てきた。
「シュシュ、仕事」
「だ、だって!」
「あかん」
「うー」
「だから言ったじゃないですか」
いや説得力皆無だよ、アンドレさん。そのコップは盗み聞きする気満々でしたよね?
「シュシュさん、彼方さんと私が話すのは神と未来に関わること。必要ならば貴女に伝えます。今は我慢してください。貴女が伝えなかったことがどれだけひどいことだったか、今の自分の気持ちを思えば分かるでしょう。今はひいてください」
「…わかりました。主に従います」
シュシュさんは今度こそ素直に仕事に向かったようだ。遮音結界を作動させる。
「さて、早速本題です。ルーンアースオンラインに、シュシュさんは出ていましたね…幽霊として」
「ああ」
「私、この世界は別のゲームなんだと思ってました」
「…………は?」
「リンを喚んだロザリアは、とあるゲームの悪役令嬢でしたから」
「あ、悪役令嬢!?」
「はい『素敵な恋しちゃお☆胸キュン☆ときめきマジカルアカデミー☆願いを叶える贈り人☆』というタイトルの乙女ゲームでヒロインに嫌がらせをしたり、命を狙って返り討ちにあい、やったら死ぬ悪役令嬢でした」
「…まーじーでー?」
「まーじーでーす。ちなみにディルクはモブでした。キーキャラだから何回か通わないとクリア出来ないタイプの」
「マジか…マジなんやな。しかし、そのタイトルのゲーム買うの恥ずかしくないんか?」
「ジャケ買いでしたが、後でタイトル見て後悔しました」
「…もぶ?」
首を傾げるディルク、可愛い。いいんだよ、知らなくて。そこはどうでもいいとこだから。
「ちなみに、うちの兄が攻略対象です。あと、ジャッシュ…私の従者と、今は不在ですが従弟も。攻略対象は最後の一人を除いて全員を確認済みです。色々やり過ぎたのか、原形をとどめてない…むしろ別物になっちゃった攻略対象も居ますが」
「…………何してんの!?」
「一人は黒染めしました」
「…うん」
「一人は腹黒から真っ黒になりました」
「どんだけ黒くしてんねん!?」
「一人は俺様から真っ白…むしろ輝ける白様になりました」
「上手くまとめてきたな!白くなったてなんやねん!脱色!?」
「三人暗殺者辞めちゃいました」
「待て!それ乙女ゲームやんな!?恋愛楽しむゲームなのに物騒過ぎやないか!?しかも甘栗むい○ゃいました的な軽いノリでええの!?」
「一人は多分親の過労死を防ぎ、虐待されたあげく娼館暮らしを回避しました」
「設定が重すぎるやろ!」
「…え?それ、まさかジェンド!?」
「ジェンドには内緒ね」
「…うん。ロザリンドは本当に色々やってたんだねぇ」
ギュッとディルクに抱きしめられた。
「そうですね、小さい頃からコツコツとやってましたよ。なので、てっきり乙女ゲームによく似た世界なんだと思いこんでたわけです」
「いや、攻略対象ほぼ全員居たらそう思うやろ」
「ルーンアースオンラインはその更に後みたいなんですよね」
「…そうか」
ルーンアースオンラインは、何らかの原因で荒廃した世界にプレイヤーは贈り人として送り込まれる。世界を復興するもよし、気ままに旅するもよし、世界が荒廃した理由を探すもよしな自由度の高いゲームである。
そして、そこにシュシュさんとシーダ君とミルフィが出ていた。あと、多分ディルクの従兄弟のちみっこ双子!
確か皆20代後半で年齢高めだったし、特にシーダ君はやたらと荒んでたから分からなかった。でも、無理もないかも。ゲームのシーダ君には家族がいなかった。いなくなってしまったなら、荒みもするだろう。彼らはNPCと呼ばれ、ソロでプレイするプレイヤーを補助し、パーティーメンバーの代理をするのだ。
「私は農業と酪農メインだったから、謎はノータッチだったんですよね」
「なんや、リンちゃんはめっちゃアルパカ育てまくってたよな」
「そうでしたね。兎、羊、アルパカ…夢のもふ牧場でした」
「謎なぁ…なんや、勇者と魔とかの話だったような…」
彼方さんがここに来て、5年は経っているらしく、記憶があやふやなようだった。思い出したら話してくれると約束してくれた。これで少しは魔について分かるかもしれない。
更にルーンアースオンラインで探索した遺跡が特定できれば、新しい手がかりがみつかるかもしれない。そんなことを考えた。
長くなるのでいったん切ります。




