友人は予想外過ぎました。
女の子チームとチタ、ゴラちゃん、ハクは私がお金を渡してパンケーキのトッピングを買いに行ってもらいました。どうせなら豪華なやつを作りたい。
コウはミルフィ捜索を手伝うと私に抱っこされています。
「あのねお姉ちゃん、僕はお兄ちゃんをお手伝いして火加減調節したり、乾燥させたりしたんだよ」
「コウもありがとうね」
コウをなでなでしつつ、ディルクも一緒に廊下を歩いていたら、ジェラルディンさんとジャッシュに会いました。
「お嬢様、体調はいかがですか?」
「おかげさまで回復しましたよ。ありがとう。後でお礼に山盛りパンケーキ焼きますから、食べてくださいね」
「主が元気そうでなによりだ!」
ジェラルディンさんに髪をぐしゃぐしゃにされ、ジャッシュがそれを叱る。いつも通りだ。やはり気のせいかと思い直した。そしてちょっとしたちゃめっ気を発揮した。
「あ、ミルフィだ」
「「!?」」
親子が素早く隠れた。なんで!?
「あの…どうしたんですか?」
ディルクがオロオロしている。おまけによく見たら銀狼親子は尻尾が股の間に入っていた。え?マジで怯えてるの?
「い、いえ…」
「な、なんでもない」
「ちなみにミルフィはいません。嘘でした」
「お嬢様!?」
「主ィィ!?」
リアクションそっくりだね。いや、そんなビビると思ってなかったんだよ。
「…なんでそんなに怖がるんです?」
「ミルフィリア嬢は、ほぼお一人で魔力食いを倒しました。それも、かなり残虐なやり方で」
「ええ!?」
あのミルフィが!?いや、何か理由があるはずだ!
「ミルフィは理由なく非道な事をする子ではないです。何か理由があるでしょう?」
「魔力食いがシーダ君を捕らえてなぶりました」
「納得した!なら仕方ないね!魔力食いは冷凍されても縦二等分横四等分でも仕方ないよ!いや、むしろ生きることより死ねない苦痛だね!血祭りですよ!」
愛しのマイダーリンに危害を加える奴がいたら、滅ぼすのは当然だよね!
「「………………」」
親子は固まり、何かを悟った表情になった。
「主、俺たちは大丈夫だ」
「はい、我々は大事なことを忘れていました!」
「「怒らせたら我らが主の方が怖い!!」」
「どーゆー意味ですかぁぁ!?」
ジャッシュとジェラルディンはしばいておきました。しかもジェラルディンさんがミルフィとパーティーを組むとか寝言をほざいたので念入りに叱りました。ミルフィは私とは違って生粋のお嬢様…いやお姫様です。私やジェラルディンさんとは違います!変な方向に成長したらどうすんだ!と言っときました。
うんうんとうなずくジャッシュ。苦笑したディルクが、ジェラルディンさんとロザリンドは変な方向に成長してるの?と呟いたのは聞かなかったことにしました。
「あ、ミルフィリアちゃんの匂いがする。お姉ちゃん、あっちだよ」
「おお、コウありがとう」
ミルフィとシーダ君は屈んで何かを見ているようです。
「き?」
目が合いました。えーと…
「この子は?」
「魔力食いの幼体だ」
小さな双葉に手足と目がついた小さな魔物。
「えーと、誘拐?」
「き!きき!」
あ、多分なんか抗議されてる。ポスポス叩かれるけど痛くない。
「そんなわけあるか!色々あって魔力食いに押しつけられたんだよ!」
「違うよ、魔力食いがシーダの懐の深さに感動して、長をお預けしますって言ったんだよ」
「え?」
「は?」
「まあ」
「はあああああああ!?お前!さっきと言ってることが違うじゃないか!」
いつの間にか現れたスイをガクガク揺さぶるシーダ君。気持ちは分かる。
「あっはっは。ちなみに正確には魔力食いは『わたし達は貴方様にお仕えします。我らの代表として我らの長をお連れください』って言ったんだよ」
「ゴラァァァ!!お前わざと若干ぼかして伝えただろ!」
「いや、面白そうだったから、つい」
シーダ君が崩れ落ちた。スイはイイ笑顔です。いたずらっ子め。
「シーダ君…うちのスイがごめんね」
「ロザリンド」
「…魔力食いのご主人様おめでとう!」
「お前もか!悪いと思ってねーだろ!」
シーダ君にガクガクされるかと思いきや、軽くペシッとされました。紳士だ!
「散々聖女だの神子だの扱いされた私と同じ微妙な気持ちを味わうがいい!」
「…シーダ君は慕われただけで、勇者とかの扱いではないと思いますわ」
ミルフィの的確なツッコミに、場が静まった。
「…お前も大変だな」
シーダ君に肩をポンとされました。やめて、同情した瞳で見ないで!
「あっという間に同情された!?」
「あははははははははは」
スイが爆笑している。ディルクによしよしされました。ディルク、大好きです。甘えてスリスリすると、なんか口もとをおさえて何かに耐えているようです。
「ロザリンド可愛い…」
ディルクはチョロ過ぎないだろうか。そして、今の何が可愛かったのかよくわかりません。ディルクのおかげで精神的ダメージから復活した私は、ミルフィに確認しました。
「魔力食いをほぼ一人で倒したって聞いたんだけど、大丈夫?怪我はない?」
ミルフィは、はにかみつつ答えてくれた。
「はい、怪我はありませんわ。私、シーダ君を傷つけられたので怒ってしまって…ロザリィが以前話してましたでしょ?装甲が硬くても、内部は脆いものだって。外側が強かったから、内部を破壊したって話していたのを思い出しまして、応用いたしました」
「お…おうふ」
「わざと魔力を吸わせ、魔力を転換される前に氷結魔法に変換して内部からズタズタに切り裂いたんです」
「…ロザリンドの雑談からクーリンもヒントを得ていたよね?」
「…………気のせい!」
「そうですわね、ロザリィのおかげで倒せましたわ。ありがとう、ロザリィ」
「気のせい!というかお礼なら私が言わなきゃダメじゃないか!ミルフィのおかげで助かったよ、ありがとう」
「どういたしまして。私もロザリィのおかげでシーダ君を助けられましたわ。ありがとう」
「うん!気のせい!…あれ?ミルフィの腕輪、形状が変化してない?」
「え?あら…変化してますわね」
ミルフィの腕輪は蓮の花を中心に葉と茎が絡まるデザインの腕輪だ。花の色が更に青くなり、中心部だけがピンク色のグラデーションに変わっている。小さな花の紋様も新たに浮かんでいる。
ちょっと調べさせてもらった。
「腕輪がミルフィに完全同調した結果みたいだね」
「まあ…ふふ、これからもよろしくね」
腕輪が柔らかく光った気がするのは気のせいだと思いたい。ミッルフィリアアア!とかはきっと出てこない!多分。
「あ!それよりうちの脳筋英雄とパーティー組むって本当!?」
「はい。私は強くなりたいのです。この腕輪に相応しいぐらいに」
「その腕輪に相応しくなったら、世界最強の魔法使いになっちゃう気がするよ?」
ディルクも加勢したが…私の作った腕輪はそんなにすごくは…いや、スゴいのか?アルフィージ様最強武器に匹敵する威力だもんね。
私、ディルク、シーダ君で脳筋英雄とパーティー組むのを阻止しようと説得をかなり必死で試みましたが、ミルフィの決意は固くてダメでした。
仕方ないのでミルフィが行くときはせめて私も同行しようと思います。ミルフィに怪我なんかさせないんだから!
それじゃあ修行になりませんわとミルフィに後日叱られるのはまた別のお話です。




