チーム魔力食いの葉
今回は闇様視点になります。
魔力食いとは植物系、最強ランクであるSSSランクの魔物である。必要素材はその葉。それも若い葉である。魔力食いは魔力を生命の源とする精霊の天敵だが、ロザリンドの為ならば戦ってみせる。しかも生息地はウルファネア北西に位置する死の森。最低でも冒険者ランクS以上でなければ入れない地であるとのことだ。
探索に緑の、戦闘要員に我、光の、のうきんえいゆう、雑種。サポートにシーツとミルフィーユだ。
我らは快調に死の森を突き進む。しかし獣人とはこんなにも強き者だったであろうか。
のうきんえいゆうはあまりにも早いし強い。永き時を生きた我もこれほど強き者は…ディルク以外で見たことがない。そういえばディルクも異様に強き者であった。
「いい加減にしてください!クソ親父!!」
のうきんえいゆうの仲間…特に子供達を気遣わぬハイペースに雑種がキレた。というか、ナイフまで投げなくともよいのではないだろうか。当ののうきんえいゆうは気にしてない様子だが。
「うむ、すまん」
のうきんえいゆうに悪気はないのだろうな、多分。
「わ、私、はだいじょうぶ………です、わ」
「………………………すまん」
息も絶え絶えなミルフィーユを見てのうきんえいゆうが心から謝罪した。ミルフィーユは令嬢だから体力のなさも仕方あるまい。シーツは疲れてはいるが息切れはしていない。そこそこに鍛えているのだろう。
「光の」
『うむ。ミルフィリア、シーダ、乗るがよい』
光のが促すが、ミルフィーユではなくミルフィリアだったのか…が首をかしげた。そう言えば、光のの声は精霊眼がないとわからぬのだな。そして少年の名前はシーダだったのか。
「光のに乗るがよい。光のもそう言っておる」
「…え?でも」
「我が抱えてもよいぞ」
「なら俺が…」
「そなたの武器は基本両手だろう。そなたも担ぐか?我はかまわぬぞ」
シーダが盛大に顔をひきつらせた。何故だ?
「………闇様とシーダ君の申し出はありがたいですが、聖獣様にお願い致します」
『うむ』
ミルフィリアを乗せて光のは歩きだす。
「ミルフィリア、なんでだ」
シーダは不服そうだ。
「い、いくら私でもすすす好きな人や大人の殿方に抱っこされるのは恥ずかしいですわ!」
ミルフィリアは真っ赤になっていた。
「すまぬ、配慮が足りなかったな。非礼を詫びよう」
「いいえ、お気遣いありがとうございます」
ミルフィリアはなかなかに礼儀正しい人間だな。
「む!おりゃあああ!」
のうきんえいゆうが新たな敵に遭遇したようだ。
「やああ!」
光のが足となった結果、ミルフィリアは非常に優れた射手となった。のうきんえいゆうの動きを見て、無駄なく射ている。のうきんえいゆうの異常な速さと予測しにくい動きを完全に予測しているようだ。驚きのポテンシャルである。後で聞いたら、のうきんえいゆうよりディルクの方が速いし予測しにくいとのことだった。
「素晴らしいな!主の友人!」
ミルフィリアの髪の毛をぐしゃぐしゃにするのうきんえいゆう。
「きゃあ!?み、ミルフィリアですわ。光栄です」
「うむ!俺とパーティーを組むか?お前さんなら大歓迎だぞ!」
そこで雑種がのうきんえいゆうをしばきたおした。
「いいですか!?こちらのミルフィリアお嬢様は公爵令嬢です!うちのお嬢様と違ってほいほい討伐しに行ったりしないんです!うちのお嬢様とは全く違うんですよ!」
雑種よ、うちのロザリンドをさりげなく落としてないか?確かミルフィリアとロザリンドは身分的には同格だろう。
「…いいえ、お話をお受けさせていただきます」
「ミルフィリア!?」
「私には圧倒的に経験が足りませんわ。私はこの武器に相応しい人間にならねばなりません」
凛として美しい。まさに高貴な娘だと思った。清廉で高潔。ロザリンドとは違う魂の輝きだ。
「その心意気やよし!俺が一人前の冒険者にしてやろう!」
「だから、ミルフィリア様を変な方向に成長させようとしないでくださいぃぃ!!」
真面目な雑種の悲しい叫びがこだました。
結局シーダもミルフィリアと光のに乗ることになった。本人は渋ったが、いざというときに体力がないと話にならぬと説得した。
「…近いよ!全員、気をつけて!!」
緑のの叫びと同時に魔力食いが現れた。巨大な樹木の姿をした魔物。巨体に似合わず俊敏で、獲物を捕らえて魔力を吸う。
雑種・のうきんえいゆうが戦うが、巨体過ぎてダメージを与えにくいようだ。
我らも戦うが、近寄れない上に我らを枝や根が狙うため集中しにくい。
「ミルフィリア!」
「はい!『覚醒接触!』」
ミルフィリアは天啓持ちであるらしく、キスによりシーダが強化されて魔力食いに挑む。
「おりゃああああ!!」
「シャアアアアアア!?」
シーダの棒による一撃で幹が大幅に欠けた。とんでもないのは本人か、ミルフィリアの天啓か。更には周囲の樹木がシーダに加勢しだした。樹木がシーダを守り、絡み付いて魔力食いを抑え込む。
「うっわ…すご…」
緑のもひきつっている。恐ろしい子供たちだ。
「は!やあ!」
半分ほど幹を削ったろうか。まだ魔力食いは倒れない。シーダがつけた傷口を我らも狙うが、魔力食いはまだ暴れていた。
「!?しまっ…うわあああああ!」
ミルフィリアがかけた天啓が切れたらしい。注意が逸れた一瞬でシーダが魔力食いに囚われた。
「シーダ君!?」
魔力食いは腹の檻にシーダを捕らえて内部から針を刺しなぶっている。
「ぐっ」
早く助けねばと思うが…そうだ!のうきんえいゆうにミルフィリアの強化を…と提案しようとしたら、異変に気がついた。
「ふふふ…」
急激な気温の低下。肉を持たぬ精霊ですら感じる、圧倒的な冷気…いや、水の魔力が急激に高まっている。
「ふふふふふ…」
ミルフィリアが嗤っていた。しかし、眼は怒りに満ちている。
ゆっくりとミルフィリアは歩む。魔力食いは強烈な魔力を欲するはずだが、目の前の異常に固まっている。
ミルフィリアが魔力食いに触れた。
「魔力が欲しいのでしょう?好きなだけどうぞ」
「キイイイイイイ!?」
ミルフィリアの魔力を吸った魔力食いが悲鳴をあげた。
「あらあら、魔力が欲しいのでしょう?ちゃんと食べなきゃいけませんわ…ところで貴方、ちゃんと水も吸うのね?良かったですわ、予想通りで」
ミルフィリアは微笑む。怖い。いまだかつて、我はこんな怖い笑顔を見たことがない。
「えぐい…」
緑のも怖いらしく、震えて我にしがみついている。うむ、我も怖いぞ!光のは………平気そうに見えたが尻尾が股に挟まっている。いたしかたあるまい。
のうきんえいゆうと雑種も、手を取り合って怯えている。尻尾が股に挟まっている。
「うふふふふ、あははははは」
緑のによると、ミルフィリアは魔力をわざと吸わせ、吸わせた魔力で魔力食いの内部を凍りつかせズタズタに引き裂いているとのこと。確かにえぐい!
そして後で聞いたのだが、ミルフィリアの武器である腕輪は本来魔力増幅器なのだそうだ。腕輪は元来魔力が高いミルフィリアの魔力をさらに高め、高度な魔力コントロールを可能とした。
「キイイイイイイ!キイイイイイイ!」
もはや魔力食いになすすべはない。ミルフィリアに触れようとすれば凍る…いや、それも今はできぬ。ミルフィリアが気温を低下させたため、動く事も難しいようだ。なんとも恐ろしい娘だ。そういえばロザリンドと同じ公爵令嬢だったな。公爵令嬢とは恐ろしい生き物なのだな!ロザリンドも怒ると怖いものな!
ミルフィリアはシーダにしたように、魔力食いをなぶり殺しにするつもりだ。仲間も怯えて見守るしかない中、唯一状況を変えようとした者がいた。
「ミルフィリア!やめろ!」
檻の中からシーダが叫ぶ。しかしミルフィリアは聞かなかった。
「嫌ですわ!苦しめて、痛めつけてやるんです!」
「魔力食い、開けろ!なんとかしてやる!死にたくないし、殺したくないんだろ!」
魔力食いが腹部の檻をあけた。どうやらシーダは魔力食いと意思疎通がはかれるらしい。
檻から出て自由になるとミルフィリアに駆け寄り、抱きしめるシーダ。
「ミルフィリア、無理するな」
「やだ、いや…シーダ君を傷つけるなんてゆるせないです」
「ミルフィリア…ごめんな。俺が弱いせいで悲しませた」
「シーダ君、は…わるくない…」
ミルフィリアの瞳から涙がこぼれた。
「ミルフィリアは優しいな」
シーダは優しい手つきでミルフィリアの涙をぬぐう。
「うー、優しいのはシーダ君ですわ…」
「そうか?落ち着いたな?」
「………はい」
「よし」
「ひあ!?」
チュッとミルフィリアの頬にシーダはキスをした。ミルフィリアがが真っ赤になるトマトのようだ。
「あ、シーダ君!傷を治しますわ!」
「おー、サンキュ」
シーダの傷は軽傷で、薄く切り裂かれたものばかりだったため、ミルフィリアの治癒魔法ですぐに塞がった。
「さて、魔力食い。治してやるから俺たちを襲うなよ。襲ったらミルフィリアがまた凍らせるからな」
「ギ、ギィキイィ!!」
「よし」
「どういうことですの?」
我にもさっぱりわからぬ。緑のは分かっているようだな。
「こいつらもウルファネアのユグドラシル停止の影響で枯れて、こいつが最後の1体なんだとさ」
シーダが言うには、ウルファネアのユグドラシルが停止したため魔力食い達も大地のマナが得られず、かといってエサを乱獲してもいずれはなくなる。それゆえ魔力食いは1体を残して種になり休眠した。マナが戻ったため1体になった魔力食いは種を目覚めさせるために栄養を欲したとのこと。
「魔力より魔法のが効くだろ」
柔らかな緑の魔法は魔力食いを癒し、魔力食いの腹の中で種子を芽吹かせた。種子は双葉の愛らしい魔物になった。
「きー」
きーきーとシーダの周囲でくるくる回る。
「よし、こんなもんか。あ、友達を治すためにお前の葉を分けてくれ」
魔力食いは若葉をシーダの両手に大量に渡した。
「こんなにいいのか?」
「キイイイイイイ!」
魔力食いが頷く。さらに魔力食いは幼体を1体シーダに渡した。
「え?」
「わー、オメデトー。その子、シーダに仕えてくれるってー。ヤッタネ」
緑のが棒読みで告げた。
「は!?待て!置いていくな!」
しかし魔力食いは森の奥へと姿を消した。
「きー」
「………どうしましょうか、シーダ君」
「…………うちで育てるか。親父は喜ぶだろうな」
面倒見のよいシーダは魔力食いの幼体を見捨てられず、連れ帰ることになった。
こうして、我らは無事魔力食いの葉を大量に得た。早くロザリンドを治してやらねばならぬ。我らは大切なロザリンドの事を話しながら帰還したのだった。
どうでもいいですが、シーダ君とロザリンドって内面がけっこう似てる気が今回しました。
シーダ君の方が男前ですけどね(笑)




