植物オタクと緑の手
ディルクとひとしきりいちゃいちゃして、さて行こうかと客室を出たら、叫び声が聞こえた。
「た、大変だぁ!聖女様…はいらっしゃるから、兄上様があああぁ!」
「人をトラブルメーカーみたいに言わないでください!」
ウルファネアではそこまでいろいろやらかしてはいない……はず。
窓の外をみて、理由が分かった。巨大なお野菜さんである。しかも、戦闘能力をつけたタイプ。あと、あれはなんだろう…苔?苔なのか?マリモみたいなまるっこい塊がふわふわして…可愛いかもしんない?
とりあえず以前と違い無差別攻撃はしないようだが…あ、攻撃した騎士がフルボッコにされてら。反撃するようにしたのか。
「どうしよう…」
朝っぱらから頭を抱えるはめになった。そういえば、昨日私はディルクのことで頭が一杯で植物オタク達を放置して寝てしまった。植物オタクは危険物でした。うん、知ってた!三人よれば危険度三倍!しかもミチェルさんも緑の手もちです。放置すべきではなかった…
「まぁ…ロザリィ、どういたしますか?」
騒ぎを聞きつけて、シーダ君とミルフィも来たようです。
「兄が関わっているのは間違いないので、どうにかします」
とはいえ、すぐに解決策が思いつかない。頭をフル回転させる私に、シーダ君が言った。
「俺がなんとかする。多分どうにかなるだろ。ミルフィリア、天啓を頼めるか?」
「は、はい!『覚醒接触』」
ミルフィは背伸びしてシーダ君のほっぺたにキスをした。
「えー、唇じゃないの?」
「え、あ、その…は、恥ずかしくて…た、確かに唇の方が効果的ですし、やり直しますか?」
もじもじしつつ、ちらりとシーダ君を見るミルフィ。
「いや、充分だ。ロザリンド、ミルフィリアをからかうな」
シーダ君は口もとをおさえつつ、照れたご様子です。
「じゃあ、行くから」
シーダ君はヒョイッと窓から外に飛び出した。どうするのかな?と見ていたらお野菜さんに近寄って話しかけた。
「すまないな、親父とルーのせいだろう?元に戻ってくれ」
お野菜さん達はシーダ君に従い、魔力を吐き出して普通のお野菜さんになった。
「あれ?」
「おかしいなぁ」
「萎んだね?何がおきたんだい?」
元凶の三馬鹿が現れました。シーダ君はニッコリと微笑みます。冷気がすげぇ。
「他人に迷惑かけるんじゃねぇぇぇ!!全員座れ!正座だ馬鹿野郎共がぁぁぁぁ!!」
そして、地面に正座させられる男達。
「あ、あの…ちょっとかわいそうじゃあ…」
「ロザリンド、お前も座れ」
「へ?」
「座れ」
逆らえませんでした。シーダ君は眼力で人が殺せそうでした。いや、むしろこれは…………オカン!古きよき肝っ玉母ちゃんオーラです!言ったら確実に叱られるから言わないけど!!
「ロザリンド、いいか?研究馬鹿はきちんと叱らないと繰り返すんだ。ここでしめておかないと、またやらかす」
「は、はい!私が甘かったです」
「行ってよし」
「はいぃ!すいませんでしたぁ!」
「シーダ君…カッコいい」
ミルフィはうっとりしてて慰めてくれませんでしたが、ディルクは足のしびれが治るまで抱っこしてくれてました。いや、正気にかえったらミルフィも慰めてくれたけどね。
「親父とルーと…誰だ?」
「植物学者のディーゼルと言います」
「ディーゼルさん、か。選択させてやる。研究禁止になるのと、事前にきちんと俺に計画を提出するの、どっちがいい?ちなみに事前に提出しない場合はウルファネアとクリスティア…ありとあらゆる植物にあんたらの相手をしないよう頼むけど」
「「「すいませんでしたぁ!!」」」
シーダ君はミルフィの天啓により、植物に干渉する力が増したようですね。見事に土下座する3人。足がしびれてフラフラしつつも、王宮の皆さんに謝罪して回ったそうです。
ちなみに、お野菜さん巨大化はミチェルさんが投獄中に開発した栄養剤と兄とミチェルさんの天啓に、ディーゼルさんのアドバイスが加わったため。魔のコンボだったようです。
さらにマリモもどきはやはり苔でした。ミチェルさんが牢屋で暇だから苔を育成していたそうで、魔力を注ぎ続けた結果、意思を持った苔が産まれちゃったらしい。おっちゃん、何してんの!?
戦闘能力をつけたタイプのお野菜さんは兵士さんの訓練になると喜ばれましたが、どや顔した3人がシーダ君にどつかれたのは言うまでもありません。
「シーダ君、兄達をよろしくお願いいたします」
土下座する私。
「…やめろ。とりあえずうちの親父もやらかすし、ついでにどうにかしてやるよ。借りもあるしな」
「シーダ君、男前!」
「からかうな」
チョップされました。加減されている…だと!?なんというフェミニスト!兄なら全力できますよ!?
「シーダ君はマジでイケメンだと思います」
真顔で返したら、ミルフィとディルクがこの世の終わりみたいな表情になった。なんでだ。
「ろ、ロザリィもシーダ君を…?」
「違います。私のストライクはディルクです。最愛のマイダーリンもディルクです。私は出会ってからディルク一筋です。浮気はあり得ない。友人としてほめただけです」
あからさまにホッとする2人。
「それに、シーダ君の好みはミルフィみたいな清楚可憐系「待て!なんで知ってる!?」
「………だから私みたいな悪人顔は好みじゃないんですよ」
「無視すんな!誰が喋った!?」
「シーダ君、世の中には知らない方がいいこともあります。兄様、これだけ人数が揃ったんだし、以前うまくいかなかった面白フルーツの作成とかどうです?新たなウルファネアの名物になりそうですし」
「面白フルーツ?」
「見た目はイチゴだけどオレンジ味とか、見た目と味が違う果物ですよ」
「なかなか難しくてね。糖度を増すだけなら簡単なんだけど、味の再現には至らなかった。でもきっとこのメンバーならできるよ!」
男達は新たなる目標を定め、走り出した。
「ロザリンドも操縦が上手いんじゃないか?暫くは大人しくなりそうだな」
「あはは、それほどでも~」
そんな会話をしていたら、ディルクに抱きしめられた。
「ディルク?」
「…ミルフィリア?」
シーダ君にはミルフィが抱きついている。
「わ、私とも仲良くしてくださいませ!ロザリィばっかり…そりゃ、ロザリィは可愛くて美人で頭がよくて優しくて…異常な身体能力で」
「うん、最後はほめてない!」
「でも、こ、こ、恋人は私なのですから、か、か、かまってくださいませ!」
「わかった。デートでもするか?」
「でぇと?」
「ああ」
「します!行きます!」
「よかったね、ミルフィ…」
ディルクに抱っこされたままの私です。
「あ、ロザリィ…その、すいません…私ロザリィに嫉妬してしまいまして…」
「大丈夫、私もディルクがおっぱい大きいお姉さんとお話してた時、それはもうヤキモチファイヤーだったから、気持ちはわかる」
「ロザリィ…」
「ミルフィリア、行くぞ」
「初デートの感想、後で教えてね」
「はい!」
ミルフィは晴れやかな笑顔でシーダ君とデートに行きました。そして、マイダーリンはまだ私を抱っこしてます。
「ディルク?」
「俺もヤキモチやいた。か、かまって」
目をそらし、頬を真っ赤にしたディルク。天使か。天使だね!
「わかりました。全力でかまいます!」
「ええ!?」
その後宣言通り全力でディルクをかまいまくり、兄に注意されました。うんまあやり過ぎた気はするけど、ディルクが可愛すぎるのがいけないんだと思います。




