いざ、裁判!
ウルファネアにおける裁判は、リンの世界の裁判とは異なり、罪状を読み上げて裁判長と裁判官が罪を判断する。ただし、本人が罪を認めて整合性がとれることが条件だ。ミチェルさんの裁判は不可解な点が多くて、判決に至れなかった。裁判官さんが後でコソッと教えてくれたが、冤罪の可能性もあるからとわざと判決を先送りにしていたらしい。ナイス判断!
さて、今回兄様とアルフィージ様が弁護人として参加。私はあらかじめ裁判長と裁判官にリンの世界の裁判制度を説明し、今回初めての試みとなりました。なので大々的に宣伝して、またしてもウルファネアの貴族が大集合&王族もいるよ!となりました。私?私はイヤリング型魔具でサポートに回ります。
検察のかわりは裁判官さんが。警察のかわりは騎士さんになります。
裁判官さんが冒頭陳述を読み上げて、裁判長さんがミチェルさんに語りかけた。
「さて、罪人ミチェル=ラトル。お前は聖女の恵みを横流しした罪に問われている。間違いないな」
「はい」
「しかし、その金の流れがつかめない。お前は何に使ったのだ?」
「…私は…」
ちらりとミチェルさんが私を見た。私は頷く。さあ、反撃開始だよ!
「私はそもそも聖女の恵みを横流ししておりませんから、金の流れがつかめないのは当然だと思います」
場がざわめく。
「静粛に!では、ミチェルよ。なぜありもしない罪を認めていたのだ」
「…妻と子を殺すと脅されておりました」
またしても場がざわめく。
「せ、静粛に!では、なぜ今になって真実を話したのだ?」
「それは、状況が変わったからです。ミチェル殿のご子息は僕らと契約をしております。ご子息はウルファネアでの栽培実験の協力者で、今回初めてミチェル殿の窮状を知りました。現在ミチェル殿の家族は我がローゼンベルク家が保護しております」
兄が情報を伝えた。裁判長は頷く。
「つまり、家族の安全が保証されたため真実を話す気になったわけか」
「ところで、妙な話をうかがったのですよ」
アルフィージ様がニヤリと笑う。うっわ、笑みが黒~い。
「妙な話とは?」
「聖女の恵みには万病を治癒させる効果があるというのです。私の記憶に間違いがなければ、聖女の恵みにはそんな効果はないはずです。しかも、聖女の恵みは王族のみが食せるとされてきました。効果などだれも知らぬはず。なぜそのような誤解があったのでしょうか」
「…聖女の恵みは病人食だからか?」
陛下がそう話した。アルフィージ様は頷く。
「それももちろんあるでしょう。しかし、情報が歪んで広まっていました。誰かが意図的に情報を流した、という可能性が高い。ですので調べてみたところ、情報を意図的に流したと思われる貴族が複数上がりました。リストを提出いたします」
「…ふむ」
「さらに、妹が先日聖女の恵みのおいしさを広めるためにイベントをしたところ、聖女の恵みを分けてほしいとおっしゃられる方々がおりました。弁護人はその方々を証人としてお呼びします」
「うむ、許可する」
裁判長が顔をひきつらせた。人数が多かったからだ。一人ずつ、彼らは話し始める。自分達がなぜ聖女の恵みを求めたのか。いつからいつまでいくらで誰から買っていたか。罪だとは知っていたが、一縷の望みをかけて食べさせていたのだと、彼らは涙ながらに語った。
書記が必死でかわいそうだ。見かねて兄様に頼み助け船を出してもらった。
「彼らの証言をまとめてあります。証拠として提出いたします」
「受理しよう」
あ、書記さん明らかにホッとした感じだ。ごめんね、やっぱアピールさせとかないと買った人達の罪が重くなるかもしんないからさ。やっぱ紙媒体より生の声のが響くでしょ?
「先程私が証拠として提出したリストと合わせてみてください」
「…これは…見事に合致しておる!つまり犯人はこのリストの貴族達か!」
いやいや、ここで終わったら困るんだ。トカゲ本体も捕まえるためにがんばったんだから。しっぽだけならこんなまだるっこしいことしなかったよ。
『兄様』
私の声に、兄が頷く。
「お待ちください!証言をよくお読みください。時期がおかしいのです。ミチェル殿の投獄後も聖女の恵みを得ていた方々がおります」
「むう…」
「よって、マーシュ伯爵の証言を要請します!」
「うむ。許可しよう」
マーシュ伯爵は恐らく傍聴席にいるはず。出てくるのを待つ間に、アルフィージ様が通信で話しかけてきた。
『うまいこと引きずりだせたね』
『…ここからが本当の勝負ですね』
『ロザリンドの作戦だ、僕はあの最低野郎を精神的にボッコボコにしてくれると信じてるよ』
『…期待に沿えるよう頑張りまーす』
マーシュ伯爵が証言者として証言台に立った。そう。ここからだ。
「マーシュ伯爵。聖女の恵みの管理について問う。盗難された可能性は?」
「…はい。私も対策をしてはおりましたが、盗難されておりました」
うん、私は盗難隠蔽しかしてないよと言うつもりか。そうはいかないよ。アルフィージ様に指示を出す。
「裁判長、私達が独自に調べたお金の流れについての資料を提出します」
「…ふむ」
「おわかりになりますか?明らかに金額が足りないのです」
「つまり、他に共犯者がいる…ということでしょうか」
若干空気になってた検察役の裁判官さんが発言した。なかなか察しがいい。頭の回転がいい人とリクエストしただけの事はある。
「…そう考えるのが自然かと思います」
ニヤリとアルフィージ様が笑う。うっわ、楽しんでますね?
「では、弁護人は共犯者を証明できますか?」
「…奇妙な偶然がございます。名前があがった聖女の恵みを売りさばいた貴族は、ミチェル殿が捕まった夜に共に酒をのんでいた者達です。ですが、一人だけ名前が上がらなかった者がおります」
検察役の裁判官がマーシュ伯爵を見る。アルフィージ様は楽しげに微笑む。
「さらに、発想を逆転してみますと…動機についてもつじつまが合うのです」
「発想を逆転?」
「はい、逆転させて考えてみましょう。ラトル家がいなくなって、得をしたのは誰ですか?」
ハッとした表情で、全員がマーシュ伯爵を見た。うむうむ、秘技!あえて犯人を指摘せず、気付かせるの術!決まったぁ!!
「わ、私は関係ない!」
「おやおや、私達は貴方だなんて言っていないよ?おかしいねぇ、ルー」
「そうですねぇ、アルフィージ様。アルフィージ様はラトル家がいなくなって得をする人が怪しいとあくまでも可能性を提示しただけです…それとも、心当たりがありますか?」
さすがはアルフィージ様。嫌な言い回しである。兄もにこやかに嫌みを言う。なんというか、最凶タッグだな!
「ぐっ」
「…マーシュ伯爵、ラトル家の管理していた領地や田畑は、ミチェル氏投獄後、遠縁の君が管理していたな?」
裁判長は、マーシュ伯爵に確認した。
「…はい」
「マーシュ家は昔から聖女の恵みの管理を希望していたな」
「…はい。ですが、私はなにもしておりません!私も被害者だ!」
「ではなぜ、被害を届けでなかったのですか?」
兄がマーシュ伯爵に尋ねた。
「あ、あの畑を見ただろう!栽培がうまくいっていなかったのを隠蔽したかったからだ!」
つじつまはあっている。ラトル家を陥れ、横流しの主犯にされるよりは栽培がうまくいかなかったから隠したの方が罪が軽いと判断しての事だろう。
なかなかだね。でも、逃がすつもりはない。
「ふむ。どうかな?弁護人」
アルフィージ様が合図した。別アプローチするんですね?私もその方がいいと思います。私も同意と伝えると、アルフィージ様は裁判長に提案した。
「我々は共犯者の可能性があると考えております。マーシュ伯爵は関連がないと申しております。ならば、他の容疑者達からの証言を要請します」
「!?」
「ふむ、よかろう」
「マーシュ伯爵、後程またお呼びいたしますので、お待ちくださいね」
マーシュ伯爵は蒼白だ。そりゃそうだよね。あの貴族達が貴方を庇うはずもない。そして、予想は現実になりました。
「わ、我々は嵌められたのだ!」
「主犯はマーシュ伯爵だ!」
「我々は彼に仲介を頼まれただけだ!」
あっはっは。予想通りでやんの。アルフィージ様も苦笑している。マーシュ伯爵のとりまき貴族達は口々に主犯はマーシュ伯爵!と口を揃えて言った。兄も呆れている。
「そもそも、聖女の恵みの管理をしたかったからラトル家を嵌めるのを手伝って欲しいと「黙れ!黙れ黙れ黙れ!!」
マーシュ伯爵がキレました。それをばらされたら困るもんねぇ。
「貴様らは私を嵌めようとしているのだ!私は無実だ!私を巻き込むな!」
頃合いだね。疑惑が固まってきた。兄に提案を依頼する。
「…裁判長、マーシュ伯爵に証言をさせてください」
「うむ」
ふたたび証言台に立ったマーシュ伯爵は憔悴しきった様子だ。うむうむいい感じ。まだまだネタはあるからね。
「マーシュ伯爵は、嵌められたとおっしゃいましたね。何故ですか?」
「私はこの件に関わっていない。彼らが勝手にしたことだ。確かにミチェルと酒を呑んだが、古い友人…ミチェルの愚痴を聞いただけだ!他の貴族達とも親しかったが、自分達の罪を軽くするために私に罪をなすりつけようとしているんだ!私が加担した証拠はない!」
そう、現時点では証拠はない。現時点では、あくまでも疑惑なのだ。さらに追いつめちゃうぞ!
「では、アーコギ商会の件は?」
「!?」
兄様も楽しんでますねー。激おこでしたもんね。尊敬する大事な先生を貶めたあげく、聖女の恵みも枯らしたんだもん。
「裁判長、弁護人は新たな証人としてアーコギ氏を指名します」
「…ふむ、許可しよう」
証言台に立つアーコギ氏?え?めちゃくちゃ痩せてない?え?あれ本物??痩せたというかやつれたの?ら、ラビオリさぁぁぁん!?
混乱する私。しかし、アーコギは真面目に証言をした。
「私はラトル氏の偽契約書類捏造に加担し聖女の恵みを売りさばき、ラトル家を監視しつつ経済的に困窮させておりました。そちらのマーシュ伯爵の依頼で。私は伯爵を信頼しておりましたが、結局は私も書類を捏造され、捨て駒にされてしまいました」
「嘘をいうな!デタラメだ!」
「マーシュ伯爵、今は貴方が発言すべき時ではない。アーコギ氏、ラトル家を経済的に困窮させた理由は?」
「マーシュ伯爵は聖女の恵みを上手く育てられませんでした。ラトル家の次男坊と末っ子は天啓もちですから、引き取って育成させるつもりだったのでしょう」
「嘘をいうな!嘘だ!私を嵌めようとしているのだ!嘘だ!嘘だ!嘘だぁぁぁ!!」
裁判長がため息をついた。
「マーシュ伯爵は錯乱しているようだ。一時休憩とし、30分後に再開とする!」
ふふふ、いい感じにおいつめられてますね。後半は私とミルフィも参戦しちゃいますよ!めちゃくちゃはりきっちゃうぞ!
長くなったので切ります。ロザリンドがサポートなのは初めてかも。不思議な感じですね。