オッサンとサボテン
私はこっそりレオールさんにだけ魔法で指示を出しました。
マーシュ伯爵に今回だけ見逃す、お前に期待しているからと伝えてくださいと。だって、下手に慎重になられても困りますし、まだ突き落とす時じゃない。
レオールさんが頷く。私とディルク、兄はシーダ君のお父様の所へ。ミルフィは先に城に戻り、報告を受けてもらうことにしました。
城の地下牢にたどり着く。暗いわ怖いわ…来るんじゃなかったと後悔しています。ディルクの腕にしがみつきながら、ミチェルさんの牢に到着した。兵士さんに下がってもらい、状況をざっと報告する。
特に水田の惨状に、ミチェルさんが泣いた。うん…いつかバレるから仕方なく話したけど、予想外の嘆きようである。大号泣である。
「先生…かならずや水田は僕と妹がもと通りにします。ね、ロザリンド」
「あ、はい」
「僕も息子さんと同じ緑の手を持っていますし、妹は優れた魔法使いです。お約束します」
兄の真摯な姿勢に、ミチェルさんが落ち着いた。兄スゴい!私は泣きじゃくるオッサンを前に、どうしようとオロオロしちゃったよ!
「なんと礼を言ったらいいか…」
「お礼なんて…これは僕らがやりたくてすることです。ただ、ひとつお願いがあります。この件が片付いて、先生が自由になったら植物学者の友人と共に植物について語り合いたいのです」
「おおお…願ってもない!やろう!おお…何を話そうか…」
めっちゃ楽しそうだね。うん、兄様のためにも頑張っちゃうよ!
「ミチェル様、念のためにこの子をお連れください」
私の両手から溢れる虹色の輝き…虹色に輝く、レジェンディア=キングシャボテンのサボノバさんである。サボさんはミルフィの護衛中なので、このサボテンはサボノバさんである。
「…派手だな。しかし、初めて実物を見たよ。レジェンディア=キングシャボテンか」
「流石ですね。地味に…というかこの子はステルスが可能ですから。サボノバさん、これも預かっておいて」
「…それは?」
「ポーチです」
見ればわかるだろう。だが、普通のポーチではない。
「…だからお薦めの本を貸してとか言い出したんだね?流石はロザリンドだ」
「えへ」
兄に誉められました!気が利く妹でしょ?
「これは妹が魔力付与したポーチです。これに僕が選んだ比較的最近でた植物関連の学術書、専門書が入ってます…だよね?」
「はい。それと食事と水も。あと、サボノバさんの砂ベッドが入ってます」
「…流石はロザリンド」
「おおおおお…」
オッサン超喜んでるな。
「サボノバさん、見張りが来たら取られちゃうから…」
「マカセロ」
「ありがとう。この方は植物を愛する学者さんだから、きっとサボノバさん達とも仲良くできるはずだよ
」
「ウム、ヨロシクタノム」
「ああ、こちらこそ!」
「裁判までまだ少しかかります。どうか耐えてください」
「ああ!礼を言う!」
めっちゃいい笑顔で告げたミチェルさん。
「サボノバさん、きちんとご飯も食べさせてね」
「ウム」
なんというか、護衛兼世話係になりそうな予感…ごめんよ、サボノバさん。頑張ってくださいね。なるべく早くなんとかするからね!
しかし、ミチェルさんは植物ならなんでも興味があるタイプだったらしく、サボノバさんに非常に配慮してくれたそうだ。ミチェルさんもサボテンの心をゲットしたと後日聞きました。うんまぁ…仲良しなのは良いことだ!多分!!




