悪役令嬢ミルフィリア
今日はそれぞれ分担して別行動です。アルフィージ様にはジェス達協力のもと、貴族関係…主に背後関係等を探ってもらってます。お勉強でアルディン様も同行中。私達はレオールさんに根回ししてもらって、水田の見学会です。レオールさんも同行中。現在は馬車で移動しています。兄はこの後シーダ君のお父様からできる限り情報収集してもらう予定です。
シーダ君はミチュウさんと元領地の人達から情報収集に行ってます。
「見学させていただけるなんて、無理を申し上げてすいません」
マーシュ伯爵に頭を下げる私に、隣のミルフィがすかさず注意した。
「ロザリンド、こんな無能な下位貴族を気遣う必要はありませんわ。わたくし達は高位貴族。毅然とふるまうのも仕事でしてよ」
「う…ごめんなさい」
悪役令嬢ミルフィリア様に叱られて、しゅんとする私に気遣うそぶりのディルク。いや、演技だからね!でもご褒美ありがとうございます!
「…そうですよ、私のような下位貴族はお気になさらず」
あはははは、キレてるキレてる。目が全く笑ってないわ。昨日みたくキレないだけ頑張ってるけどさ。
今日は水田を見学させてもらうんで、私もミルフィもズボンスタイル。はきなれないミルフィが可愛かったです。
「こ、こんな脚にピッタリくるのは恥ずかしいですわ!」
「変ではありませんか?お尻のラインもくっきり見えて恥ずかしいのですが」
ミルフィ、気持ちは解るがシーダ君もいろいろ厳しそうだよ?乙女だから好きな人におかしくないよね!?と確認したいのはわかるけど。
「み、ミルフィリアは可愛いし変じゃない!変じゃないけど尻とか言うな!ロザリンド!なんとかしろ!」
ついに限界に達したシーダ君に叫ばれました。
「喜んで~」
ミルフィにふわふわミニスカを合わせてラインを見えなくしました。または巻きスカートにする?といくつか方法を提示。
「ど、どちらが可愛いですか?」
シーダ君に(身長差があるから)上目遣いでたずねる天使。
ミルフィ自身が可愛い、と思ったのは私だけではなかった。シーダ君がうっかり口を滑らせてしまった。
「ミルフィリア自身が可愛すぎると思う」
「は?」
「………短い方がいい」
シーダ君は何事もなかったかのように言い直したが、恋する乙女はばっちりと聞いていた。
「あ、は、はい。すいません!も、もう一回お願いします!」
「短い「その前ですわ」」
「…口が滑った。勘弁してくれ」
口元をおさえて俯くシーダ君。白い耳を真っ赤に染めている。ミルフィはそれはもう輝かんばかりの期待にみちた表情でそれはもう可愛らしくおねだりしました。シーダ君羨ま妬ましい!!私もミルフィにおねだりされたい!
「………お願いします。もう一回だけ…どうしても聞きたいのですわ」
しかも、袖をちょっとだけ引っ張る可愛いコンボ!無意識にあざと可愛い!奇跡の可愛さです!我が親友は、無意識小悪魔だったんだね!?女の私も萌えてます!抱きしめてしまいたい!
「………ミルフィリアは頭がおかしくなりそうなぐらい可愛い。むしろ可愛すぎる」
言ったぁぁぁ!?
勇者か!
勇者がいた!よく言った!むしろよく言えた!シーダ君超男前!ディルクや王子様達や、兄までもすげぇ…と言ってます。
「嬉しい…」
凶悪に可愛すぎるお姫様が幸せそうに微笑みました。シーダ君が丸くなりました。よく頑張ったね!!
とまぁ、そんなストロベリージャム蜂蜜ブレンドなゴタゴタが行く前にありました。私がボケッとしていたら、水田に到着したみたいです。馬車から降りてみたら…あや?
美しい水をたたえた水田に、重たそうな稲穂。今ってまだ収穫時期じゃないよね?兄に目線で確認する。
「早すぎるね」
兄が肯定した。ということは、幻覚かなんかかな?目を凝らして魔力の流れを調べる。何か魔法がかけてあるのはまちがいない。クリスティアの術式じゃないから解析に時間はかかりそうだけど、解呪はできそうだ。
「いかがですかな?わが畑は?枯れかけている、などとおっしゃられた方もいたようですが」
ニヤニヤするマーシュ伯爵。
「…今が収穫時期なんですの?クリスティアと気候がさしてかわらないのに、今実がつくなんて何かなさいまして?」
マーシュ伯爵は一瞬ビクッとしたが、すぐ気をとりなおして笑顔で返事をした。
「いろいろ特殊な肥料を使ってまして」
その言い訳苦しくないか?兄が呆れてるよ。よし、読めた!私は魔法でミルフィにだけ声を届けた。
『おまたせ!いつでも解呪できるよ。幻覚の魔法がかかってた』
ふ、とミルフィが笑った。傲慢で美しい笑顔です。
「くだらない」
「は?」
「こんなまやかしで誤魔化せるとでも?」
ミルフィがパチンと指をならすと、パリィィンと何かが割れる音とともに、幻覚魔法が解除された。水田は酷かった。いやシーダ君の報告書は読んでたけど、予想よりも酷かった。
「酷い…」
植物を愛する兄が座りこんだ。いや、本当にひどい。水田の水は淀み、カビが生えているのではないだろうか。根が腐ったのか枯れかけているどころかすでにいくつか枯れてますよね?
「これはどういうことですの?」
「ぐっ…」
「わたくし達を幻覚で騙すおつもりでしたの?」
「マーシュ伯爵…説明してください」
責めるミルフィに、レオールさんも援護した。
「わ、私はなにも知らない!だ、誰かが私を嵌めようとしているんです!」
「まぁ…でしたら、貴方はきちんと聖女の恵みを管理していなかったのですか?」
「違います!」
「きちんと管理しているなら、そもそも水田がこのような状態にはならないですわ。しかも今は収穫時期ではないのだから、先程の光景が異常であると本来ならばわかるはず。誰かが勝手に施したなら、先程の光景の異常さに気がつかなければなりません。つまり、きちんと管理していないうえに見てもいないのでしょう?」
「ぐっ…き、貴族は土いじりなどしない!管理している者が無能で…」
「管理している者も悪いですが、ここまで酷くなるのを阻止できなかった貴方の管理責任と指導能力の無さも問題ですわ」
「ミルフィリア、言い過ぎだよ!」
「優しいわね、ロザリンド。でも事実は事実ですわ。どんなにオブラートに包もうと、変わらないし指摘されるべきですわよ」
「ローレル公爵令嬢のおっしゃる通りです。マーシュ伯爵、後日王宮から調査団を派遣する。今回のことは私から陛下に報告させていただきます」
「そんな!?」
「処分は免れないだろうな。ローレル公爵令嬢。不快な思いをさせて申し訳ありません」
レオールさんが深々と頭を下げた。ミルフィはにこりと微笑んだ。
「いいえ、お気になさらず。あの無能な男に厳しい処分をお願いいたしますわ」
「はい、陛下によくお伝えしておきます。ローレル公爵令嬢への無礼な発言につきましても報告させていただきます」
「ふふ、ええ」
「な、何故!?」
「口を慎め。この方は国賓であり、大海嘯で怪我人の治療にあたった我が国の恩人なのだ。さらに貴族としても子供とはいえ格上だ。昨日といい、きちんと礼節をもって応対すべきお方に…お前の口調はなんだ!恥を知れ!!」
「………もうしわけ、ございません」
マーシュ伯爵は悔しそうに言った。レオールさん、正論だね。
「私に謝罪してどうする。ローレル公爵令嬢に謝罪しろ」
「ぐっ…申し訳ございません」
頭を下げるマーシュ伯爵をミルフィは無視した。
「フェルゼン公爵のお心遣いに感謝します。そういえば、元々は聖女の恵みは別の家が管理していたと聞きましたわ」
「ああ、ラトル家ですね」
「そちらが管理した方がよろしいのではありませんこと?」
「…そうですね。陛下に提案いたします。ラトル家当主は投獄されていますが家は潰れていませんし、息子がいたはずです」
「ええ、よろしくお願いいたしますわ」
マーシュ伯爵はうつむき、怒りに震えていた。
「ゆるさない…」
ミルフィ達には聞こえなかったようだが、私にはその呟きが聞こえた。
まだまだ君の転落はこれからなんだよ?作戦は順調に進行しています。




