上げて落とすは基本です。
副題は、悪役令嬢・ミルフィリアですかね。
さて、現在の私たちは何をしてるかと申しますと、パレードなう。
パレード真っ最中です。
クリスティアに戻るついでに賢者を海のレア物素材で見事釣り上げたジャッシュ。作戦を正しく理解し、ジジイを調教…いや指導しつつ素晴らしいフロートをいくつも作らせたあたり、本当に有能です。
さらにはヴァルキリーもフロート仕様。話題提供に英雄も来ています。
「筋肉肉肉!」
「ロッザリンド!!」
「肉肉筋肉!」
「ロッザリンド!」
「女神さまぁぁぁ!!」
「神子様ぁぁぁぁ!」
「救世主さまあああああぁ!!」
皆さん好き勝手いい過ぎです。私はロザリンドですよ。ロッザリンドでもありません。だから私は普通の公爵令嬢なんですってばぁぁ!と叫びたい気持ちを我慢しつつ笑顔で手を振っています。
「アルフィージ様、氷雨を使ってみてください。霧を出して」
「ああ」
柔らかな霧が発生する。霧を風で整えていく。
「アルディン様、光を」
「え?わかった」
アルディン様の光魔法を更に操って、霧が虹にかわる。さらに霧の中に光を閉じ込めたり…光と水のショーに、ウルファネアの人々は歓声をあげた。
「兄様」
「ふふ、任せて」
心得た、とばかりに兄が花を降らせる。わかってますね、兄様。赤、黄、青、ピンク…混ぜずにわざと固まらせています。
風で散らし、集め、様々な形をとらせる。
「すごい…」
「ふふふ、今年の宴会芸にするつもりです」
「いや、充分にお金をもらえるレベルなんじゃないかな?」
「そうですか?」
そんなどうでもいい会話をディルクとしながらお城に到着。今日は急遽ウルファネア貴族全員に召集をかけての晩餐会です。
私は清楚な白を基調に青いリッカの花を飾り付けたドレス。ミルフィはワインカラーの大人っぽいドレスです。私のエスコートはもちろんディルク。ミルフィのエスコートは王子様達と兄。
目立つね!王子様と兄を従えてるみたいでミルフィかっこいい!
私は適当にウルファネア貴族の相手をする。
しばらくすると王様とジューダス様、ジェスが現れた。
「聖女様、楽しんでおられるか?」
「だから聖女じゃないですってば。ありがとうございます、楽しんでますよ。ところで陛下にお願いがあるのですが」
私はにこやかに王様に話しかけた。ちなみに王様は作戦を知らない。多分知らない方がスムーズに事が運びそうだからである。脳筋は謀にはむかない。
「申してみよ」
「聖女の恵みを管理している方とお話がしたいんですよ」
「ふむ?かまわぬ。貴族であるからこの晩餐会に来ているであろう」
ほどなくして、マーシュ家の当主がやってきた。眼鏡をかけた神経質そうな男だった。
「はじめまして。ミーキル=マーシュと申します」
にこやかに語りかける男。地位は伯爵。鼠の獣人かな?他にも彼を援助しているという数人がきた。
「お呼び立てして申し訳ございませんわ。私達、実は聖女の恵みを広めようと事業を起こすつもりですの。ぜひ貴殿方も参加していただきたくて…聖女の恵みの育て方もそちらの方がお詳しいでしょうし、お話をしてもよろしいかしら?」
「もちろんでございます」
男の瞳に打算が見えた。聖女の恵みを独占し高値で売りつけて稼ぐことはできなくとも、他国の高位貴族で不本意だけどウルファネアの聖女な私と事業をするのは決して悪い話ではないはずだ。
私はうまくマーシュ伯爵を持ち上げ、褒め称えた。話術は貴族の必須スキル。
おまけに国王にも誉められ、マーシュ伯爵は有頂天だ。彼は聖女の恵みを管理する大役を誇りに思っていると話していた。恐らくは同じ伯爵位でありながら聖女の恵みの管理を独占し続けたラトル家への妬みもあったのだろう。他の協力者と思われる男達にはその辺の執着はなく、甘い汁を吸いたいだけという印象だった。
「ロザリンド、わたくしは反対ですわ」
ミルフィは冷たい表情だ。マーシュ男爵達を虫けらでも見るかのごとく、見下している…と視線だけでも理解できる。ミルフィかっこいい!と思いつつ、驚いた表情をつくった。
「ミルフィリア?」
「わたくし、調べましたのよ」
ゆったりと優美にため息をつくミルフィ。
「聖女の恵みを管理する…といいながら、聖女の恵みが枯れかけているそうね?」
マーシュ伯爵が青ざめた。事実だからだ。そして、それがシーダ君を経済的に困窮させて引き取ろうとした理由でもある。聖女の恵みは管理も育成も異常に難しいらしく、兄が燃えていました。一応うちの領民は兄のフォローなしでもきちんと育ててくれてますが、ゆくゆくはもっと育てやすくなるよう改良するとのことです。おいしいお米の為なら私も全力でフォローするつもりです。
「ロザリンド、こんな国王陛下のご命令を遂行できない無能に関わる必要はありませんわ。私達だけで充分…私達には天啓・緑の手を持つルーベルト様もいますもの。このような下賎な男達は不要よ」
「な!?聖女の恵みが枯れかけたのはユグドラシルが休止したからだ!私は伯爵だぞ!下賎ではない!」
「キーキーと見苦しい。下位貴族風情が公爵令嬢のわたくしに指図しないでくださいまし。しかもユグドラシルのせいですって?ふふ…」
「何がおかしい!」
「ユグドラシルによる植物の育成不良や枯死は、冬眠のようなもの。ロザリンドが解消した今も改善されぬのなら、お前が枯らしたからよ」
「なっ!?」
「ロザリンド、無能に用はありませんわ」
「ミルフィリア、言い過ぎです。確かに我が家の聖女の恵みは緑の手がない領民達もきちんと育てていますが、食糧難など他の要因もあったんですよ、きっと!」
秘技!庇ってるようで実は落とすの術!!
「まぁ…ロザリンドったら優しいのね。こんな無能にまで情けをかけてあげるなんて」
ほほほ、とあくまでも上品にかつ傲慢に笑うミルフィ。
遠巻きに傍観していたウルファネア貴族達もひそひそと噂する。そう言えば、聖女の恵みを本来管理していたのはラトル家だった。やはりラトル家でなくては駄目なのではないかという声が聞こえてきた。その声にコンプレックスを刺激されたのか、マーシュ伯爵が声を荒げた。
「侮辱するにも程がある!不愉快だ!陛下、御前を失礼します!」
マーシュ伯爵は顔を真っ赤にして怒りながら去っていった。まずは第一段階クリア、かな?ふふふ、上げて落とすは基本ですよね。




