酒と涙と女と男
ふと目が覚めて、喉が渇いたので水をのみに台所に向かった。あんまり寝た感じはしないから、まだ夜中だろう。
台所に灯りがついていて、マーサがワインをのんでいた。
「マーサ」
「お嬢様…どうなさいました?」
「なんか目が覚めちゃった。喉が渇いたんだけど」
「ホットミルクをお作りします。お嬢様がもう少し大人でしたら、ホットワインにいたしましたけれど、残念ですわ」
「大人になったら一緒にお酒をのんでくれる?」
「喜んで」
そうこうしているうちにホットミルクができたらしく、マーサは蜂蜜をたらしてくれた。甘くておいしい。
「ねえ、マーサ」
「はい」
マーサはまたワインをひと口飲んだ。
「そういえば、マーサはいつルドルフさんと結婚するの?」
マーサがワインを吹き出した。
「は!?な!?ししししししませんよ!?」
「そうなの?」
「な、何故そのような…」
「いや、猪豚亭のおかみさんから聞かれたから。よくルドルフさんと呑んでるんでしょ?」
「……はぁ、まぁ……お嬢様」
「うん?」
「本来は許されないと思いますが…話を聞いていただけますか?酔っぱらいの言葉だと流してくださって結構ですから」
「いいよ」
マーサは背筋を伸ばすと、話を始めた。
「最近、ルドルフは呑むたびに求婚をするのです。でも酔っぱらいの言葉ですし…」
「酔っぱらいじゃなければ求婚を受けるの?求婚をされると分かってて呑みに行くなら、脈はあるよね?」
「………そうですね。酔っぱらいでなければ……受けるかもしれません」
「むしろ、マーサから呑む前に言っちゃうのは?」
「無理です」
即答でした。
「私は可愛らしくもなければ若さもない。強さがとりえのおばさんです。自信がありません」
私はそっとマーサの手を握った。
「マーサは私にとって優しい自慢のお姉さんです。マーサは美人でしっかりもので、頼りになる大人です。私が心から信頼できる大事な人です」
「お嬢様…」
マーサはウルウルしています。
「よし、女は度胸!マーサ、私に任せなさい。魔法をかけてあげます」
マーサにメイクを施し、ワンピースを着せて、髪もいつものまとめ髪ではなく少し下ろして結いました。
「お、お嬢様?」
「私からの魔法です。今日のマーサは素直になれます。ルドルフさんは呼び出しますから、頑張ってね。明日は動けるなら迎えに行きますから」
「え?ちょ!?な、なんの心配ですか!?」
マーサは猪豚亭の個室に待機してもらい、ルドルフさんに緊急だと行ってもらいました。
うまく行くかは、神のみぞ知る。まぁ、着飾ったマーサに見とれてたぐらいだから、大丈夫とは思うけどね。うむ。私、いい仕事した!
いい時間だし寝ようと別荘の部屋に戻ったら、部屋の前にカーティス・アデイルとディルクが居ました。なんか二人がかりでディルクを止めようとしているようですね。
「…何してんの?」
「いや、ディルクがロザリンドと寝るって聞かなくて…ロザリンド!?」
「はい?ディルクはどうして…」
「ろざりんどらぁ…」
酔いどれ天使がいらっしゃる!へらりと無防備に笑うディルク。私に抱きつくとスリスリしています。
「ろざりんど、すきぃ…いっしょに寝よ?」
「喜んで」
「即答か」
呆れた様子のアデイル。マイダーリンからのお誘いです。断る理由などありません。
「ディルクはなんでこんなへべれけなの?」
「あー、俺らさぁ、元暗殺者だから薬に耐性あるだろ?酒にも耐性があって、普通の酒じゃ酔えねぇの」
「…普通じゃない酒を飲んだ結果が…今か」
「わりぃ」
カーティスも悪いと思っているようで素直に謝罪してきました。珍しい。
「ろざりんど、かまって?」
私の腰に巻きついたディルクが首をかしげる。可愛い。私よりでかいのに可愛い。
「喜んで!ディルク大好き!」
力一杯抱きしめると、ディルクは幸せそうに笑う。
「えへへ、うれしいなぁ」
「お持ち帰りは可ですか」
「真顔で何をぬかすか、このバカ娘!」
「あた!」
アデイルさんからデコピンをされました。
「あでいる、ろざりんどをいじめたら、めっ!」
「ディルク~、痛かったよ~」
わざとらしく甘える私に、ディルクがじっと額を確認した。あ、これダメなやつだ。ディルクの目がヤバい。直感した。まずい!
「あでいる?」
ディルクは目がマジである。殺気がヤバい。
「ちょ、待て!死ぬ死ぬ死ぬ!か、カーティス援護!」
「おー」
カーティスもディルクに斬りかかるが、ディルクは余裕だ。
「ディルク、強くなってねぇか!?」
「最近魔力制御の習熟度が上がってまして、連敗記録更新中です。勝てやしない」
「マジか!」
「マジです」
試しに魔法で援護しても当たらない。
「あぶなっ!?小娘!こっちがあぶねぇだろうが!」
オネエの皮を捨てたアデイルに叱られました。逆にディルク以外に当たりそうですね。
「あっ!?」
アデイルのショートソードが折れました。カーティスがフォローしたものの、カーティスだけでは勝てません。
「アデイル!」
まだ試作段階でしたが、アデイル専用武器を投げ渡しました。一見鞭の様ですが、先には刃がついています。
「銘は土蛇です!使ってください!」
「これ…後で話を聞くからね!」
アデイルが慣れた武器になったため、なんとか互角の勝負になってます。あの鞭もどき、実はゲームでアデイルが本気になった時に使った武器を模しています。予想通り、先ほどより動きがいい。
「ロザリンド、俺には?」
「まだ試作」
「あるんだ?」
「あるね」
そんな会話をする余裕があるぐらいだ。
「ちょうだい」
「仕方ないね。銘は風花と風切です!」
2刀で1対の双子剣を投げる。
「お?」
カーティスの…私があげた古い剣が風花と風切に吸われてしまいました。
「へー、面白い剣だな」
カーティスが再びディルクに斬りかかる。速い!カーティスは説明なしに使い方を理解したらしく、特殊効果の加速と風圧をうまく使いこなしています。
「くっ」
「ディルクに怪我させないでよ!?」
「わかってる!」
カーティスとアデイルは少しずつディルクを追い詰める。しかし、ディルクが獣化するとまた拮抗した。いや、カーティスとアデイルが疲弊している。まずい。
態勢を立て直すためにカーティスとアデイルがいったん距離を取ると、ディルクが座りこんだ。
「え?」
「ろざりんど、かーてぃす達にばっかりかまって…ずるい」
か、可愛いいぃぃぃ!私の脳内はそのひとことで埋め尽くされた。お耳も尻尾もしょんぼりしてますよ!しくしくと泣き出すディルクに、私はもう、ドキがムネムネしてます(混乱)
「ごめんね、ディルク!全力でディルクにかまうから!」
「うん。ゴロゴロ…」
満足げに喉をならす私のかわいこちゃん。尻尾も身体も素直に私に甘えてくれます。し、幸せぇぇ!天国はここにあった!
「美少女台無しね…デレデレだわ…武器のこととか聞きたかったけど、仕方ないわね」
「また噴火する前に、ディルク寝かしといて」
「任されました!」
ディルクを寝かしつけるなんて、素晴らしいご褒美ですよ!私はディルクに甘えられながらディルクを誘導して、別の客室で眠ることにしました。
長くなったので、いったん切ります。




