水底で待つものは
水着に着替えたら、主様とやらの所にゴーですよ。魔法で水中でも呼吸ができるようにしてますが、皆はヴァルキリーサブマリンモードに乗りこんでいただきました。
私とディルクのみ海中を泳いでいます。
「ついに俺の婚約指輪もおかしなことに…まぁ便利だからいいかな」
私とディルクは互いの婚約指輪の効果で人魚のような姿になっているのです。ディルクの婚約指輪は私のと対だから…改造しちゃいました!
もともと私の婚約指輪の魔法は表面を魔力コーティングして外見を変化させる魔法。今回は応用バージョンです。
「水中でも息ができるのが変な感じだね」
「そうだね」
海の底から見上げると、キラキラしていて本当に綺麗。
「魔物避けの魔法をかけながら行くわね」
「あ、それなら…あった」
兄特製・魔物避け(水中用)を取り出す。クーリンも嫌がる威力だったんでヴァルキリーに持って先行してもらいました。
「すごいわね…魔物が……」
えらい勢いで散っていきます。魔物界の夜帝王とお呼びしよう。兄にやめてと後で言われました。しかし、私や海精霊は平気なのにすごいなぁ。
「………ちなみにクーリン的にはあれはどんな感じなの?」
「はながまがる………」
臭いらしいです。蜘蛛の子散らすレベルで逃げるぐらいに臭いらしいです。そして、クーリンの横で楽しげに泳ぐ水月さん。平気みたいというか、水中でも活動できることに驚愕しました。よくわかんないけどウォータースパイダーは水中でも呼吸ができるらしい。そして泳げる!知らなかった。
海中に建物が見えてきた。泡みたいな結界につつまれた………貝殻で作ったみたいに綺麗な町並み。海精霊の町らしい。中心の神殿みたいな建物がお城。あそこには…私が運が良ければ会えるかなと思っていた存在がいる。
海精霊の主様と聞いてもしやとは思ったんだよね…見たよ、この町並みも謁見の間も。
サブマリンヴァルキリーも余裕で入れる巨大な城に、美女がいた。
美しい青銀の髪に深いラピスラズリの瞳。
なんか違和感が……………
でかっ!?
美女はでかかった。ヴァルキリーぐらい…いや、ヴァルキリーよりでかいんじゃないか!?どうりで城が全体的にでかいはずですよ!
美女はなんかやたらイライラしたご様子です。いやぁ、ゲームでは違和感なかったけど、今は違和感ありまくりだわ。完全に見た目が人っぽいのにでかいって変な感じだね。
「まま!」
「へ?」
クーリンが美女にスリスリした。
まま?
まま…ママ…あ、おかあさん。
「おかあさぁぁぁん!?」
そういやクーリンは迷子でした!おうちがない言ってた…確かにおうちじゃないね!お城だもんね!
「えええええ!?」
「わたしの…リトル?」
美女はそっとクーリンに触れた。優しく抱きしめる。
「ままぁ、あいたかった!」
「ああ…リトル!」
感動の再会をはたした親子。私も海精霊達も呆然です。
「……私、帰っていい?」
「…ええと、大変お騒がせしました。姫様がお戻りになられればきっと主様も元に戻られるはず…」
「…元に戻る?」
本来この時期には起きないはずのイベント。水の精霊王を本来なら歌で慰める…はず、なのだけど……
あの女性は私がゲームで見た精霊王ではない。つまり、彼女に何かが起きて…代替りした?
「あのね、わるい人間につかまっちゃって…まま?」
「人間?人間が……人間がリトルをさらったの?ゆるさない…ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない」
「まま?まま!?」
「いかん、リトル!逃げなさい!」
巨大魚がクーリンを弾き飛ばした。
「クーリン!」
「ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない」
黒に似た魔力…魔に憑かれてる!
「主様!」
「精霊王様!お鎮まりください!!」
海精霊達がなだめるが、まったく聞いてない。チタが海中で使えるかがわからないし、そもそも水流が凄くて近寄れない。というか、多分クーリンのお父さんがめっちゃ回ってるんですが…洗濯物みたいになってるけど、大丈夫?
「ぱぱ!まま、やめて!」
クーリンの叫びも聞こえないご様子。
「ディルク、ヴァルキリー!とりあえず海上に出るよ!町もあるし、ここじゃあ戦えない!」
「お姉ちゃん!?」
「なんとかする!約束するよ!力を貸して!!」
「うん!」
ディルク、ヴァルキリーを海上に向かわせる。
「どうするの?お姉ちゃん」
「どうにかします。とりあえず、あの洗濯物さんをなんとかしましょうか」
クーリンのお父さんを助けるために、水流の動きを一部だけゆるめる。すぐにこちらに来てくれた。
「リトル…ママは悪いものに憑かれてしまった。精霊王であるママがあのままでいては、やがて水の魔力も穢れて世界が滅ぶだろう…リトル…愛しい娘…最期に会えてよかっ………痛い!?」
巨大な魚に電撃を食らわせてやりました。人の話を聞け。時間がない!
「助けてやったのに何お1人様で盛り上がってるんですか。悲劇のヒーローぶるのは後にしてください。あんたの嫁をどうにかします。協力しなさい!」
「は………はい」
「とりあえず、場所を移動します。ここでは不利です。ここらで1番近くて、貴方が泳げる浅瀬は?」
「西が1番近い」
「では、行きますか」
「妻をどうやっておびき寄せるんだ?」
「簡単です。おびき寄せたら全力で私達をつれて逃げてくださいね」
「は?」
「ババァ!お前の娘は預かった!返してほしくば、ここまで来いや!」
「え?な!?」
「必殺!魔物寄せ嫌がらせ爆弾(海中用)!」
「きゃあ!ゆるさない!ゆるさないゆるさないゆるさない」
魔物寄せ爆弾をぶつけられ、ねばねばな納豆が絡みつく!精霊王は普通にぶちキレておいかけてきました!
「あはははは!全力で逃げろぉぉ!」
「うおおおおおおおお!」
私とクーリンはクーリンパパにしがみついた。ヴァルキリーを通して移動中に作戦を伝える。
「ぬあああああああ!」
「まて!ゆるさないゆるさないゆるさない」
少しでも足止めになればと魔物寄せを投げたけど、怒りで発生している魔力とスピードに魔物が蜘蛛の子散らすレベルで逃げている。超怖い!そして、私達だけ途中で離脱する。魔法でカモフラージュしていたので、精霊王は気がつかなかった。
「ぱぱ…大丈夫かな?」
「海最強の魔物だから大丈夫でしょ」
海上にあがる。水月さんに乗っかった。そしてウインドホークの北条君を召喚。さらに、ヴァルキリーを飛空艇モードにチェンジ。ディルクは飛空艇に乗っていただきます。私は北条君に乗りました。
さて、準備はオッケー!
「老眼なんじゃないの、おばさん!娘はここだっつーの!!」
「ユルサナィィィ!!」
「ちょっと!?ロザリンドは何をやらかしたの!?めちゃくちゃキレてるじゃないか!」
「がっつり挑発しました!正直やり過ぎた!超怖い!」
「ユルサナィィィ!!」
「うわわ!?」
精霊王は一直線に私と北条君を狙ってきた。錐状の水が複数襲いかかってくる。
「な、なんのこれしき!」
なんとか防いでるけど、これはまずい。持久戦にもちこまれたら負けるのはこっちだ。それに、魔力はできたら温存しておきたい。
「ぐっ!うっ!」
しかし、打開策が思いつかない。攻撃をさばくので手いっぱいで考える暇がない。
「しまっ…」
死角から一本、水の矢が飛んできた。避けられない!当たる!
「ロザリンド!」
「ままのばかぁぁぁ!」
矢は私に当たらなかった。クーリンがかばってくれたらしい。
「ままはわたしがきらいなんでしょう?いたんだから閉じこめたんだよね。みんなからきらわれるこどもだからって閉じこめた」
「リ…トル」
「わたしはじぶんでにげたんだよ。外が見てみたかったんだ。わるい人間にそのあとつかまったけど、お姉ちゃんがたすけてくれた」
「たす…けた」
「お姉ちゃんはわたしをクーリンにしてくれた。たくさんやさしくしてくれた。おかあさんのうそつき。お姉ちゃんのおうちのみんなはわたしをきらわないよ。友だちもできた。わたしはもうリトル(小さい子)じゃない!わたしは、クーリンは、お姉ちゃんの加護精霊!だから、だからお姉ちゃんをまもるんだぁぁぁぁ!」
クーリンが水色の光を放ち、人魚の美少女になった。戦う意思がその姿をとらせたのか、鎧を身につけた凛々しい姿になっていた。
「クーリン!?」
あらかじめ喚んでいたチタが説明してくれました。
「異端がなんで忌避されるかっつーと、今のクーリンみたいにぶっ飛んだ力をもつ奴がたまに生まれるからなんだよ。しかも精神的に成長したから、姿も変わったな」
「おうふ…」
いや、しかしこれはチャンスだ!今のクーリンの魔力なら精霊王にも負けてない!
「クーリン、精霊王から水を奪って!ミルフィ、アルフィージ様、凍らせてクーリンをサポートしてください!」
「わかった!」
クーリンは精霊王の周囲から水を取り除く。海底が見える。
「「氷結陣!!」」
ミルフィとアルフィージ様の魔法を増幅してヴァルキリーが精霊王に打ち出した。
「きゃああああ!」
精霊王が氷に閉じこめられた。まぁ、水属性だから死なないだろう。
「ディルク、ジャッシュ!魔を分離させて!」
ヴァルキリーの左翼にディルク、右翼にジャッシュ。ヴァルキリーがぎりぎりまで精霊王に接近すると、2人は飛び降りた。
「任せて!」
「や、やってみます!」
ジャッシュはぶっつけ本番になっちゃったけど、多分天啓からいっても魔を操作する力があるはずだ。
「あ、アあアあぁぁぁ!?リトル…リトル…閉じこめてごめんなさい…」
よし、正気に戻ってきた!2人がうまくやったようです!
「クーリン、パパさん!精霊王さんに呼びかけて!身体を取り戻せって!」
「うん!」
「おお!」
そして、最後の仕上げです!私の手にあるのは、ディルクから借りたディルクの指輪。指輪に魔力をこめていく。
「チタ、準備はいいかな?」
「もちろん」
「いくよ、北条君!急上昇!」
「クエエエエ!!」
北条君に上空に舞い上がっていただく。そして、私は飛び降りた。
「そりゃああああ!」
ディルクの指輪で作った異常に巨大で黒い右手が、精霊王の脳天に直撃した。
「いったぁい!?」
「チタ!」
「おうよ!」
私とチタの魔力が重なり、魔を消していく。
「あ、ああああああああ!」
そして、魔は綺麗に消えてなくなった。




