水着と恋愛
土下座するセイレーンをなだめすかし、どうにか落ち着かせました。
「で、何をお願いしたいわけ?」
「はい、我らの主をその奇跡の歌で慰めていただきたいのです」
ん?待て!それ、どっかで聞いたよ?いや、見た!
ヒロインの……いやいや、まさか。この時期には起きないよ。
「慰める…なにか悲しいことがあったのか?」
優しいアルディン様はセイレーン達の話を聞いてあげる気になったようだ。
「はい、主の愛娘様が行方知れずになってしまいまして…愛娘様は混血だったために主様は大切に隠すようにお育てになられていました。そのため主様以外はお姿を知らず、探すことも叶わなかったのです」
「ふーん」
「可能でしたら、いますぐ主様のもとまでご案内いたしますが…」
「…どうする?」
まぁ、私だけパパッと行くのもアリだろう。みんなに確認したら、遊ぶのは明日でもいいからと皆で行くことになりました。
主様とやらは海の底にいるらしい。あとセイレーンだと思ってたんだけど、彼女らは上位の海精霊だったそうな…歌で船を引き寄せ、歌勝負はもちかけたが沈めたりしてない。ただ、漁師が歌に惹かれて操作を誤り落ちたり船が結果的に沈んだりはしたらしい。
「…密集してたのはなんで?歌が上手い人間を探すなら、散った方が早いよね」
「いえ、逆に評判になれば歌に自信がある者が集まるかと思いまして」
海精霊のお姉さんが目をそらした。
「密集してたのはなんで?」
「だ、だってこの辺りはそこまで強い魔物はいませんけど、すこし沖に行くとデンジャラスオクトーバーとかもいるんですよ!?知らない海は怖いじゃないですか!」
「…まぁ、いいけど。後でデンジャラスオクトーバーの生息圏教えてね」
「………………どうなさるおつもりですか?」
「狩る」
海精霊のお姉さんがひきつった。デンジャラスオクトーバーは巨大タコ風の魔物である。タコ食べたい。
「よろしいですか、奇跡の歌姫様」
海精霊のお姉さんはそこ座れ、正座だと言わんばかりです。
「デンジャラスオクトーバーは危険な魔物です。その実力は最上位のバハムートすら倒すこともあるのです!」
必死に危険だやめとけと訴える海精霊のお姉さん。ビビりだがいい精霊さんですねぇ、と聞き流す私。
「いいえ、お嬢様ならば見事デンジャラスオクトーバーでもバハムートでも討伐なさいます」
胸を張って言い切ったマーサ。いや、まぁ倒せるとは思いますけどね。
「いや、バハムートはクーリンと半分同族だから狩らない」
人をなんでも狩るみたいに言わないでください。バハムートは狩らないと否定した。私はタコが食べたいだけですから。
「お嬢様はこの若さで既にSランク冒険者!精霊様にはわからぬかもしれませんが、人間でも最強の部類なのです!デンジャラスオクトーバーごとき、敵ではありません!」
マーサさんは自分がSSランクなの忘れてませんか?棚上げか?まぁ普通より強いのは否定しないけど、最強の部類かは微妙。ディルクとの連敗記録を更新しまくってるし。
「まぁ…私達もデンジャラスオクトーバーには困っておりました。後程生息圏をお教えいたします。見かけによらずお強いのですね。確かに先ほどの狩りも見事でございました」
主様とやらは海の底に居るそうで、全員水着にお着替えです。
「じゃじゃーん!ディルク!見て見て…ぶふっ!?」
着替えて3秒で…パーカー的な上着に視界を遮られました。ディルクは真っ赤です。
「着替えて!俺以外にそんな下着みたいなの見せたらダメだから!」
「えー」
私はへそチラなタンクトップにショートパンツ風の可愛い水着だったんですが……アウトだったみたいです。
「だから申しましたのに…きゃっ!?」
ミルフィもお揃いなんですが、へそチラはなしです。ミルフィもシーダ君に素早くパーカーを着せられてました。
「き、着替えてこい!」
シーダ君は耳まで真っ赤です。色素薄いからディルクと違って耳まで赤いのが判別できる。
結局、上からズボンとパーカー装備でお許しが出ました。これ、水着じゃないよ…
「別にこーゆーやつじゃないんだからいいじゃん!」
私は16歳で黒いヒモビキニ姿になってみせた。ディルクが慌てて自分のマントをかぶせる。
「ロザリンド、よく聞いて。まず、戻りなさい」
「………はい」
あ、これ確実にお説教だ。超怒ってらっしゃる!声だけでわかるわ!
「ロザリンドは俺のです」
「はい」
「あんな…下着みたいな…というかあれは下着じゃないの!?」
「リンの世界ではあれは水着と申しまして泳ぐための衣装です。濡れても透けないし、泳ぎのじゃまにならないようにできてます」
「あんな卑猥な格好で泳ぐのが普通なの!?」
「ひわ…まぁ、さっきのはセクシー水着です。主に男性を悩殺のする目的の水着です私が今着てるタイプの露出をおさえたものが最近では一般的ですね」
「俺以外は悩殺しない!肌を簡単に見せない!」
「はぁい…ディルクにはいいんだね?」
ディルクが固まりました。そわそわしてます。いいともダメとも言いにくいよね。
「そ…そうだよ!俺以外にはダメ!」
「おお…言い切ったな」
「ある意味男前だな」
「ロザリンドだからあのぐらい言わないとまたやらかすからじゃね?」
こら、元暗殺者達め!うふふ、まぁいいか。ディルクの独占欲を感じて上機嫌で猫のようにディルクにすり寄る。男性陣はハーフパンツタイプの水着を着用しています。ディルクの腹筋はいつ見ても素晴らしい…
「うう…可愛い」
なでなでされました。はう…私、幸せです。
「らぶらぶですわねぇ…」
「ああ…なんというか、いつも通りだな」
ミルフィとアルディン様が微笑ましそうにしている。
「貴族に恋は難しいですから、憧れますわ」
「そうだな」
「…そうなのか?」
シーダ君が首をかしげる。
「ロザリンドみたいに相手も高位貴族ならよいのですが、自分の側仕えなんかや平民が相手ですと…」
「たいがい、悲惨だね」
アルフィージ様も会話に参加する。
「貴族は貴族として在らねばならない…特権階級であるだけしがらみもやっかいごとも多いものですわ。それにパワーバランスもありますわね。あまり高位貴族ばかりで結婚しても謀反を疑われましたり…我が家も力がありますから、結婚相手は他国か低位貴族が妥当でしょうか。まぁ、当面は結婚より勉学ですわね」
「そうなのか?」
「はい!がーるずとーく?でロザリィが言ってましたのよ。私は殿方に嫁ぐことが唯一家に報いることと思っておりました。でも女であろうと働いて報いることができるのですわ!」
キラキラした瞳のミルフィ。シーダ君もうなずいた。
「ウルファネアには女の公爵様もいるぞ。ウルファネアはわりと女が働くのは普通だ。男が怪我しちまえば、女が狩りにでるからな」
「まあ…私、ウルファネアに留学しようかしら」
「…来たら案内ぐらいはしてやるよ」
「ふふ、約束ですわよ」
「おう」
なんか…甘酸っぱいな!ストロベリーな感じですよ。今日もガールズトークですね!
「ミルフィ」
「はい」
「相手が誰であっても、私はミルフィを応援するよ。全力でミルフィの恋を叶えるから」
「…はい、ありがとう…ロザリィ」
ミルフィはにっこり微笑んだ。
「仲良しだね」
「「親友ですから」」
ディルクに同時に返事をして、同時にクスクスと笑いあいました。
きりがいいのでいったん切ります。




