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奇跡の歌姫

 シーダ君達の追いかけっこを眺めることしばし。


「きゃああああああ!?」


 女性の悲鳴が響き渡った。あ、セイレーンが沈んでる。


「ミッションコンプリート!」


 そしてヴァルキリーは次なる獲物にとりかかる。セイレーンは生身。ヴァルキリーは魔力さえあれば半永久的に歌を奏でる。ヴァルキリーにミスはない。相手は少しでも声がかすれたりして負けを認めてしまえば負けてしまうのだ。ヴァルキリーがセイレーンを倒しきるのは時間の問題だろう。


「ヴァルキリー、魔力残量は?」


「モンダイアリマセン。90%イジョウノコッテマス」


 うむ、全く問題ないね。まぁ、推進力と歌だけなら大して消耗しないよね。


「さて、私らも頑張ろうかな!クーリン、もっかいだよ!」


「はーい!」


 巨大魚の姿になり、沖に泳ぎ出すクーリン。ディルクが私に提案してきました。


「ロザリンド、勝てる気がしないから全員でやろうよ」


 まぁ、確かに私の倒しこぼしを狩るのも危険がある。皆でやっても問題ないね。ディルクの提案を受けいれ、皆で狩ることしばし。周辺の魔物は狩り尽くしたので結界をはり、新たな魔物の侵入を防いだ。後はセイレーンさえいなくなれば、海水浴ができる!


 セイレーンはまだ数体いるし丁度昼食の時間なんで、狩った獲物で海鮮バーベキューをいたしました。いや、新鮮な魚介は美味です。海老(みたいな魔物)やホタテ(みたいな魔物)をシンプルにバター醤油や塩焼きにしました。めちゃくちゃおいしい!魚(みたいな魔物)もおいしい!魚介を楽しんでいると、足にひんやりとした感触。


「ひゃあ!?」


 恐る恐る足下を見たら、ワカメが巻きつき髪を振り乱した女性が私の足首をつかんでいました。


「ひ…………いやあああああああ!!」


「ぐふっ!?」


 全力でゆうれ…いや、魔物!多分魔物!を蹴りまくる私。あれ?めっちゃ蹴りごたえがある…


「え?生身?」


 うっかりボコボコにしちゃったんで、とりあえず回復してあげました。どうやら先ほどヴァルキリーに負けたセイレーンらしいです。よく見たら下半身はお魚でした。セイレーンは土下座しました。

 人魚的なセイレーンが土下座するのは、大変シュールな光景でした。


「え?」


「真面目に歌で勝負してくださいぃぃ!あ、あんな生きてるかも船なのかもわかんないのに負かされるとか、酷すぎるぅぅ!うああああああああん!!」


 セイレーンが号泣した。ああ…冷たい視線が私をさいなむ!でも、私は悪くないと思うの!私は号泣するセイレーンに優しく言った。


「あの…全員皆殺しよりは酷くないと思う。むしろ歌で勝負してやっただけありがたく思ってください。誰もがあんたらの望む対応をすると思ったら間違いです。そもそもあんたら人間の船襲ってるんですからね?」


「うああああああああん!」


「おお、見事なとどめだな」


 号泣するセイレーンを面白がるカーティス。めちゃくちゃプルプルしているアルフィージ様。笑いをこらえてるようですね。泣かした私が言うのもなんですが、君達ひっどいな!


「ロザリンド、可哀相だよ」


「ロザリィ、歌で勝負してあげましょうよ」


「ロザリンド、ダメか?」


 善意の塊…私の天使達と輝く白様の浄化力の前に、私は完全敗北しました。


「仕方ない、歌得意なひとー」


 しーんとしてしまった。こら、得意な人はおらんのか。結局じゃんけんで負けたやつが歌うことに。


 私が負けたよ!まぁ、歌は嫌いじゃないからいいか。


「…もし私が勝とうが負けようが、この周辺から退去すると約束してください。それなら勝負してあげます」


「はい!お願いします!」


 そもそも負けたセイレーンが交渉するのはルール違反だったそうでセイレーンはあっさりと承諾した。残ったセイレーンもちゃんと説得すると約束した。


「ヴァルキリー、戻りなさい」


 ヴァルキリーは私の意志に応えてギターになった。ご丁寧にピックつき。


「リュート?」


 ディルクがクリスティアの吟遊詩人がよく使う楽器の名前を口にした。


「いえ、ギターと言います。リンが得意だった楽器なので」


 ギターを軽く鳴らす。チューニングは不要であることを確認する。さて、何を歌おうか。せっかくだから使い古されたヒット曲ではなく、即興で歌うか。


 柔らかなバラード風の音楽がながれる。息を吸って、歌を紡ぐ。



―真っ暗な世界でただ終わりを待っていた―


―現実は厳しくて、どこにも行けずに僕は戸惑うばかり―


―そんなとき、君が現れた―



 曲がテンポを上げていく。



―君はいきなり僕の前に現れて、僕の世界に色をつけていく―


―残酷な世界は変わらないけど、世界は美しいことを君が教えてくれた―


―君に会って、君と歩いて、僕は知らない世界を知っていく―


―壁が越えられないなら壊してしまえ、壊せないならよじ登ればいい―


―情けなくても不様でも、僕らならどこへだって行ける―


―君となら、きっとなんだってできるんだ―


―ふたりなら、きっと……きっと、望む未来にたどり着けるよね―






 ギターの音が止まった。

 ふぅ、と息を吐いた。あや?なんかしーんとしてる…え?私音痴だった?リンは結構歌が得意だったんですが…音域異常者とか、奇跡の歌姫とか七色の変声類とか言われてたんですが…

 つか、セイレーンさん歌ってないじゃん?


「ロザリンド…それ、俺とロザリンドの歌?」


「ん?んー?えへ」


 秘技、曖昧な首かしげ!正解はリンとロザリアです。つか、ディルク泣いてるし!よく見たら、他の数人も泣いてるし!


「きゃあああああ!?」


「いやあああああ!?」


「のおおおおおお!?」


「え?」


 次々にセイレーンが沈んでいく。はい?何故に?


「完敗です…こんな素晴らしい歌に勝てません。まさに魂に響く歌声……皆が沈んだのも無理はないです」


 つまり、他の残ったセイレーン達は私の歌を聞いて敗北したと思って沈んじゃったのか。あの、セイレーンさん…もとは美人だったはずが、泣きすぎて台無しなんですが…


 パチパチと拍手がおきた。やめてください、恥ずか死ぬ。自分でも中二病が再発して戸惑ってるんだから!


「…ヴァルキリー使わなくても最初からロザリンドが歌えばよかったんじゃね?」


「…まあ、結果を見ればそうだな」


 さすがはKYK(空気読めるけど気にしない)カーティス。そこに同意しちゃう黒様。身も蓋もないな!



「とにかく、ここから出ていきますね?」


「はい、しかし奇跡の歌姫様にお願いがございます」


 セイレーンさんは私の両手を握った。ひんやりして、なんかヌメヌメすんだけど。さっきのワカメ?それとも保護のために分泌………いや、考えるのやめよう。いや、待て!奇跡の歌姫って何!?リンの黒歴史を掘り返すネーミングですよ!?


「お断りします。人に変なあだ名をつけんな。私は海水浴したいんです」


「後ででもいいんです!お願いします!」


 海から土左衛門………じゃないわ、貝やらワカメやらが巻きついた他の沈んだセイレーン達も一斉に出てきて土下座しだしました。地味に怖いんですが!


「奇跡の歌姫様、お願いします!」


「どうか我らをお救いください!」


 多数のセイレーンに囲まれる私。どうしろと?厄介な気配しかしないんだけど。しかも奇跡の歌姫じゃないったら!

 セイレーンに土下座されるというシュールな現状を、漁村のおっちゃんやおばちゃん達が遠巻きに眺めていました。


「さすがはマーサちゃんのご主人様だなぁ。セイレーンが土下座しとるべ」


「んだ、さっきの歌もすごかったなぁ。さすがは奇跡の歌姫様だべ」


 待て!奇跡の歌姫が定着しそうです!そんな中二病感満載の二つ名いらない!


「変な二つ名つけんな!土下座はやめなさい!話だけなら聞いてやるからぁぁ!」


 このままではこの漁村で奇跡の歌姫が定着してしまう!危機感をおぼえた私は、仕方なくセイレーン達の話を聞くはめになりました。


 どうしてこうなった!?

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