温厚な人ほどキレると怖い
朝、魔法で消臭しましたが、今度は余分に匂いが消えてしまって…消臭しなきゃいけないナニかをしたの?きゃあ!若さねぇ!と盛り上がってしまいました。逃げ場はなかったよ…!
今朝はパンケーキとサラダとフルーツ。ソーセージにスクランブルエッグです。パンケーキにチョコソースでお絵かきしようとしたら、双子ちゃんからリクエストがありました。
「ろっざりんどがいいにょお!」
「ろっざりんどかっこいいにょお!」
かっこいいろっざりんど?私なわけはない………ヴァルキリーか!
「…あれはヴァルキリーだよ」
「ばる…?」
「ばるりりー?」
「ロッザリンドォォ!」
指輪が勝手にミニヴァルキリーになりました。
「ろっざりんどにゃの!」
「ろっざりんどぉぉ!」
「誤解を拡大すんな!ちゃんと名乗りなさい!」
「コンニチハ、ヴァルキリーデス」
「え…あれ喋るの!?」
喋ります。昨日いなかったフィーディアさん達がびっくりしています。いや、ミニヴァルキリーに皆びっくりしてるな。
「なんで勝手に出てきたわけ?」
今までそんなことはなかったし、そもそも可能だということ自体知らなかった。
「コドモタチト、マタオハナシシタカッタノデス。キノウ、マリョクタクサンモラッタカラ、アマリヲツカイマシタ」
「にゃあ!おしゃべりするにゃあ!」
「にゃあ!うれしいにゃあ!」
「ダメデスカ?」
うるうると双子ちゃんに見つめられ、ヴァルキリーはしょんぼりです。
「…ご飯を食べてから!」
「「あい!」」
食後双子ちゃんはヴァルキリーと仲良く遊びだしました。…あれ?兄とディーゼルさん食堂にいない?
「あの、うちの兄とディーゼルさんが居ないようですが…」
「ああ…すまんのう。ディーゼルと研究する予定の畑に行くと明け方から出かけておる。止められなんだ」
「おうふ…兄が申し訳ございません」
「いや、兄君はまだ子供じゃから仕方ないが…あのバカたれが…」
互いにため息しかでませんが、研究バカは単体だけならまぁ…まだなんとかできますが、群れるとかけ算でとんでもないことをしでかす場合があります。
「ディルク、私達も行くよ!」
「うん!」
ちみっこ達には申し訳ないが、何があるかわからないのでヴァルキリーも回収しました。ごめんね!
そして、現場はカオスでした。
「ロザリンド…」
「どうしよう…いや、どうしてこうなった!?だ、誰か説明プリーズ!」
私達はシーダ君の畑に転移した…はずだが、そこはジャングルでした。しかも、襲い来る………………………お野菜。
「エンドウマメガトリング!」
「え!?」
兄のくれた鈴蘭ブレスレット型魔具が作動した。これ、それだけヤバい攻撃ってこと?
「ディルク!」
「後ろは任せたよ!」
ディルクと背中合わせになりつつ、襲撃するお野菜を倒していく。下手な魔物より強い!魔物と違い弱点とか対処が分からないから余計面倒だ!
しかも腹立つことにバラエティー豊かである。地味に嫌がらせ的なトマト投げ攻撃から、これはヤバい!という威力の豆鉄砲まで。
「らちがあかないから、ヴァルキリー使うよ!ディルク、集中するから!」
「時間稼ぎは任せて!」
ディルクが獣化して私をかつぐ。ディルクは絶対私に怪我をさせない。私は指輪に魔力をこめてヴァルキリーに変化させた。
「ロッザリンドォォ!!」
「だからもうそれはいいったら!」
ヴァルキリーでジャングルと化した畑から脱出しました。畑の中心部に昔のゴ○ラでみた薔薇の化け物に似たやつがいる。え?乙女ゲームからロボットアクションにジャンルチェンジ!?んなわけあるかい!
そんなアホなことを考えていたら、さすがにヴァルキリーに気がついたようで満面の笑みを浮かべる兄とディーゼルさんとラビオリさんが声をかけてきました。対称的に顔色が悪いシーダ君、ミチュウさん、ゲータ、ラビーシャちゃんも発見。
あの、本当に何が起きてるの?
「ぎゃあああああ!」
「悪かったから許してくださぁぁぁい!!」
「え?」
野太い悲鳴が聞こえたよ?しかもなんか若干聞き覚えがあるようなないような…?
「ら、ラビオリさん?」
とりあえず、年長者に問いかけました。ラビオリさんは…穏やかな…菩薩のごとき表情でした。
「お嬢様、キチンと調べましたよ」
手渡された資料が超分厚いんですが?とりあえず目を通す。
「まぁ、うん。シーダ君の他にも多数被害者が居たわけですね?」
「はい。許せませんよね。しかも被害者は、出稼ぎにでた家族に確認できないような生活に困っている人ばかりですよ?元商人として…いえ、獣人としても到底容認できません」
「そ、そうですね」
うわぁい、ラビオリさんの周囲だけなんか気温下がってないかな?ゲータとラビーシャちゃんが…怯えてますよ!
「お嬢様、あれらの調きょ………躾は私に任せていただけませんか?とりあえず精神的・肉体的に痛めつけて2度とこのような卑劣な事が出来ないように洗の……教育いたします。当然被害者への賠償まで面倒を見ますよ」
うん、物騒な単語が…多々ありましたが、ラビオリさんは予想外に出来るお方だったようです。
「お、お任せします」
「ありがとうございます」
タイミングいいのか悪いのか、見覚えある豚獣人が畑からは放り出されました。関与者なのか、見覚えない獣人も居ます。
「シーダさん、ミチュウさん、必ず盗られた金額の倍額を支払いさせますからね」
「ああ…」
「ほ、ほどほどにな?」
ドン引きしている常識人の鼠獣人兄弟。ラビオリさんはスイッチが入るとああなるそうだ。放っといても大丈夫とワルーゼ兄妹が言うので、まぁ大丈夫…なのだと思います。獣人2人を引きずっていくラビオリさん。
「倍額なんて横暴だ!」
と叫ぶ豚獣人。ラビオリさんは柔らかく微笑んだが、目が……全く笑ってない!あの豚、地雷踏みぬいたな!
「横暴?では出るとこ出ますか?いいんですよう、私はこの証拠を提出してアーコギを処刑にしても。でもそうしたら被害者への賠償が被害額のみだし、支払いに時間がかかる。選びますか?服従か、死か」
うっわぁ……究極の2択だね!もちろん豚さんは前者を選びました。普段温厚な人は、決して怒らせたらいけません。
「あれ?ゲータの件では…」
かよわく見えたラビオリさん。あれは…演技?
「……………パニクってただけ。あの後……………ああなった」
「私も………………状況把握しながら黙ってたから………」
何があった。ワルーゼ兄妹がガクブルです。よくわかりました。ラビオリさんは決して怒らせたり敵に回したらいけません!
ラビオリさんが去り、私はもう一方の問題を確認しました。聞きたくないが、仕方ない。
「…………この畑は?」
「うん、それがね!ディルと話し合って改良したんだ!スゴいでしょ!」
「ああ、ついでに魔物も野菜泥棒も倒せる画期的作物だよ!殺さず抵抗できなくなるまでなぶり、敷地のそとに捨てるんだ!さっきの獣人達も、ボロボロだけど生きてただろう!」
いや、まぁ………どこからツッコミしたらいいの?
「お野菜に戦闘力は求めてません!」
「いやいや、ここは町外れだし、いい魔物避けになるよ!美味しくて強い!素晴らしいお野菜だよ!」
「ああ!いい仕事をしたね!」
くっ!確かに理にかなっていなくはない………いや待て!重大な欠陥がある!
「迷いこんだだけの無害な人間まで襲いましたよ!?」
「うん、そこが改善すべき点なんだよね」
「泥棒も武装してるとは限らないし、野菜にどう認識させるかが課題だね」
いや、実用化するならそこ大事でしょ!?近所の人がかかったらどうすんだ!私はオタク二人を叱ろうとしたが、シーダ君に話しかけられて出来なかった。
「ロザリンド、俺の雇い主はお前だよな?ルーベルトじゃない」
「はい?あ、はい。私名義ですし、私が出資してますからそうですね」
「よし。で、この畑の惨状はロザリンド…雇い主の望むところではない」
「はい。その通りです」
「それが分かれば充分だ。ゴルァァァ!ルーベルト!ふっざけんな!!うちの畑をジャングルにするんじゃねーよ!!こんな物騒極まりない畑を管理できるわけねぇだろうが!!凡人に無茶ぶりすんじゃねぇぇ!!俺は契約外の仕事はしない!今すぐ撤収しねぇなら、緑の手も使わねぇし、力も2度と貸さねぇぞ!!」
「「すいませんでした」」
稀有な天啓・緑の手をもつシーダ君は、見事暴走する植物オタクを操縦し、畑をもと通りにさせたのでした。
「シーダ君、素晴らしい手腕でした」
「ああ…まぁ、伊達に弟妹の面倒みてねぇよ」
「シーダ君、これで私は心置きなく兄を放置できます」
「は?」
「シーダ君なら天啓を楯にあの暴走する植物オタク達を上手いこと操縦できます!2~3日で迎えに来ますから、お願いします!!」
「さりげなく押し付けんな!絶対い・や・だ!!」
「報酬額、2倍」
「…………………2日」
「かしこまりました。ちなみに、今後あれらの暴走をどうにかした場合は臨時ボーナスを出します。私では多分どうにもできません」
「…そうしてくれ。どうせ天啓があるから巻き添えは避けらんねぇだろうからな」
私は暴走する植物オタクに対するシーダ君という切り札をゲットしたのでした。そして、心置きなく兄とゲータを置いてクリスティアに帰還しました。帰る前に双子ちゃんが超泣きましたが、また来る約束をしたら泣き止んでくれました。次来るときは、ちみっこをもっともふりたいと思いつつ、夏休み最初のお出掛けは幕を閉じたのでした。
ちなみに、今回の改変。
金獅子族・黒豹族の滅亡ルート回避。
光の薔薇の精霊消滅ルート回避。
ロザリンドの予測通り、浄化の腕輪がなければそれぞれの一族から生贄が出されていく予定でした。もしかしたらちみっこ達も…考えたくないね!
しかも生贄で長らえるとか自己嫌悪と罪悪感で魔は抑えても抑えても衰えないという負のループですよ!
という救いのないのが本来のルートでした。




