楽しい夕食
厨房ではシェフさんがキラキラしていた。そんな目で見ないでほしい。
夕食は昼のハンバーグを流用したお野菜たっぷり肉団子スープ、食用薔薇を使ったサラダ、メインは持参食材…億千万バッファローのステーキである。付け合わせの人参は花やうさぎにカット。サラダのトマトで薔薇をつくり、大根が切りすぎて薔薇じゃなく葉牡丹になったけど………ま、まぁいいよね!綺麗だよ!
いまだに語らう男達を強制終了させ、先に戻らせた。光の薔薇の前を通り、立ち止まる。
「なぁに?アタシに見とれちゃった?」
誇らしげなチタ。そうだね、とても綺麗だ。
「…うん。見とれたよ。チタは記憶がないって言ってたけど、逆に覚えてることはないの?」
「ん?んー?女神様に祝福されたことぐらいかしら。多分魔をなんとかするために女神様はアタシを祝福したんだと思うけど…」
「女神ってことは、魔術の神様か…」
救世の聖女は技術の神の祝福があった…らしい。この屋敷に保管されていた文献からも明らかだった。
この世界には4柱の神がいるとされている。武術の神・スレングス、魔術の神・ミスティア、知識の神・インジェンス、そして技術の神・シヴァ。ちなみに女神はミスティアのみである。クリスティアは4柱全てを祀っているが、ウルファネアはスレングスとシヴァ信仰が強いはず。なのに女神の祝福を受けた薔薇はなんでウルファネアに?なんでだろうと首をかしげた。
まぁ、考えても分からないこともある。私は早々に思考を放棄して食堂に戻った。メイドさんがサラダを運んでくる。
「わぁ…」
「綺麗…」
「おはにゃだぁ!」
「おはにゃあ!」
「これは薔薇か?」
「食べられる薔薇ですよー」
「そんな種類もあるのか!ルー、クリスティアでは一般的なのかい?」
「いや、ロザリンドにお願いされて作ったから一般的ではないよ。ただ、最近は貴族の間で流行ってるけど」
「砂糖漬けにしてスイーツに飾ったりするんですよ、こんな感じです」
ふっふっふ!今日の大作!クロカンブッシュです!クロカンブッシュとは、シュークリームを飴やチョコレートなんかで接着してタワー状にしたもの。1回やりたかったんだよね。それを砂糖漬けの薔薇と飴細工で飾ってある。
「これは…」
「食べ物なのか?」
「食べ物ですよ。花も食べられます。あーん」
「あまいにょ」
「いいにおいにゃの」
双子ちゃんに散らした砂糖漬けの薔薇を味見させた。菫もいいですが、兄達が薔薇トークしてたんで、薔薇でいきました。
「素晴らしいね…見た目にも華やかだ」
「そういえば先ほど薔薇に限らず花の品種改良は金持ちの道楽でしかないという話がありましたが、あれは間違いです。ディーゼルさんの薔薇には充分商品としての価値があります。ね、兄様」
「ああ、うちの庭にも植えたいぐらいだ」
「クリスティア貴族には薔薇を好む方も多いです。クリスティアなら大人気でしょうね。あんな見事な改良種はなかなかありません」
「うちは変わり種が多いからなぁ…薔薇だと香油用とか食用とか。観賞用は最近作ってないね。ウルファネアの食糧難対策に野菜の改良を優先してたし」
「野菜?」
「うん。野菜を自分で歩いて日当たりのいいとこに行ったり、水や肥料を自分で使える手間のかからない野菜を作ったんだ。クリスティアでは不評だけど、ウルファネアなら受け入れられた」
「画期的じゃないか!クリスティアではなぜ受け入れられないんだい?」
「なんでだろうね、ロザリンド」
不思議そうな兄とディーゼルさん。多分この件については兄と解りあえる気がしません。
「…気持ち的な問題だと思われます。私には、あんな健気なお野菜さんを食べるなんて…」
そしてやはり、獣人はその辺りを気にしないらしい。むしろなんでだ。
「そういえば、野菜の品種改良はしないんですか?」
「いや、そもそもウルファネアで品種改良の発想自体がないんじゃないかな?ウルファネアじゃ畑仕事は子供がするものだから」
「じゃあ、共同開発してみない?ちょうどウルファネアで野菜の研究する予定があるんだよ。どうかな?」
「こちらが研究概要になります。写しですのでどうぞ」
私はすかさず研究資料をディーゼルさんに渡した。シーダ君に渡したのと大体同じ内容だ。かなり分厚い資料だが、ディーゼルさんはあっという間に読みきった。あ、めちゃくちゃキラキラしてる。
「是非やらせてくれ!今日は泊まりだろう?僕の部屋で今後の計画について語り合おうじゃないか!」
「うん!楽しみだなぁ」
そのまま部屋に直行して植物トークしかねない2人に釘をさした。
「とりあえず、食事はちゃんと摂ってください。兄様達に喜んでもらおうと頑張って作ったんですよ?わざわざ薔薇モチーフ縛りにしたんですから、ちゃんと食べてください。お話ししないでとは言いませんけど、食事はきちんと食べてくださいね」
「…いい妹さんだよね」
「うん。ちょっと…だいぶ…かなり…相当おてんば………規格外だけど、可愛い自慢の妹だよ」
兄よ。それ誉めてんの?落としてない?おてんばから規格外にしたのはなんか意味が…まぁ…うん。一応オブラートに包もうよ!
さいわいディーゼルさんはそこをつっこみませんでした。
「いや、羨ましいよ。うちの兄弟は全く僕の研究に興味ないし、特に姉達は乱暴で凶暴だし、がさつだし、料理なんてできないんじゃ…」
ディーゼルさん、うしろうしろ!あ、あばばばば!
「「ごめんなさいね?」」
こ、こわぁぁぁい!言葉は謝罪してるけど、殺気がだだもれ!目が全く笑ってないですよ、お姉様たちぃぃ!?
「ひぃっ!?」
がっしりとお姉様2人に捕獲されるディーゼルさん。あわわ、これはヤバい!な、何か気をそらすモノ…
「だ、ダメですよ!これから激ウマステーキ焼くんだから!温かいうちに食べなきゃ損です!我が家でもたまにしか食べられない高級食材ですよ!」
「…あらまぁ」
「…命拾いしたわね、ディーゼル」
良かった、解放された!すばやく焼いてきた激ウマステーキに皆さん幸せそうです。
「うめぇぇぇ!!」
「はむはむはむはむ」
「もぐもぐもぐもぐ」
「おいしい…」
皆さんステーキの虜ですね。うむうむ。おいしそうに食べてくれて私も嬉しいです。
「おいしいよ、ロザリンド」
「ディルクが喜んでくれるなら嬉しいです。ちょっと多いからお肉食べて?あーん」
「あーん…おいしい…」
はにかむディルク…はうぅ、ごちそうさまです!この笑顔を見るために、私はウザすぎる愛情を詰めこんでご飯を作るんです!至福の時ですね!
「ラブラブねぇ」
「ああん、若いっていいわねぇ」
「ラブラブ…だな」
「いやぁ、いいねぇ」
「曾孫にも早く会えそうじゃのう」
大人達に冷やかされました!人目を気にしてなかった!なんという失態か!
私はデザートを出してきて誤魔化しました。クロカンブッシュの飴細工が好評で、薄い網状のパリパリをちみっこが一心不乱に食べてました。
そんな感じで、楽しい夕食は過ぎていきました。