スペシャリスト=オタクという図式
今日は短めだったので、もう1話です。
ミチュウさんの消えた仕送り事件はワルーゼ家に…というか、ラビオリさんとラビーシャちゃんに任せることに。ゲータは一応護衛なんで残留です。
「あー、やっぱりまだ泣いてたか」
「兄さんには関係ないし!」
泣いてたのがバレて恥ずかしいのか頬を膨らますラビーシャちゃん。ゲータは苦笑してます。優しいお兄さんなんだよね、ゲータ。
「お嬢様、必ずやお嬢様のお役にたってみせます!」
ラビーシャちゃんは安心したのかいつも通りになりました。うん、無理はしないでね。元気になったようでよかったです。
「微力ながら、お手伝いさせていただきます。お嬢様のお望みを叶えるのは当然です。さらに元商人としても見過ごせません。お任せを」
ん?ラビオリさん普段と様子が……?怒って…らっしゃる?
「ああ、アーコギ終わったな」
「世の中には怒らせちゃいけない人がいるよね。御愁傷様」
んん?ワルーゼ兄妹にとって、お父さんは決してキレさせてはいけない存在らしいです。覚えておこう。
ラビオリさんとラビーシャちゃんはさっそく情報収集に行きました。私達はお祖父様の庭園に来ています。
「うわぁ…」
兄がキラキラしています。目が輝いています。
そして、ゲータとトサーケンが遠い目をしています。うん…頑張って。兄はこうなると長いよ!
「兄様、あっちに品種改良したすっごく綺麗な薔薇があるんです」
兄の手を引く私。兄も素直についてきます。
「わあぁ…」
兄がキラッキラしてます。うん、やはり好きだったか。
「これは花びらがレースみたい…こっちはグラデーションカラーか!素晴らしいね!全体のバランスもいいし、センスもいい!土と肥料は何を?庭師さん居ないかなぁ!?」
はい、兄がスーパーハイテンションです。庭師さん、先に謝罪します。すいません。
「ああ…その…薔薇はわしが世話をしとる。光の薔薇もあるし、亡き妻と娘が愛した場所じゃからの」
「そうなんですか!?素晴らしいです!品種改良も貴方が?」
「いや、そっちは次男が…」
「次男さんにもうかがいたいですが、手入れの仕方なんかもうかがいたいです!!」
兄の目が輝きすぎてキラキラビームが出そうです。お祖父様も兄の勢いに若干引きぎみです。できる従者さんが次男さんを連れてきました。次男さんは剣の才能がなくて学者さんをしているそうです。専攻は植物の品種改良。カモネギです!鴨が葱背負って来ちゃいましたよ!鴨南蛮おいしいですよね!今度トライしようかな…いやいや、現実から目をそらすな!逃げちゃだめだ…逃げちゃだめだ…逃げちゃだめだ…
新たな生け贄にお祖父様は解放されましたが、次は次男が餌食ですね!兄が申し訳ありません!!
3時間経過…………ゲータが辛そうだったんでラビオリさんの手伝いに行かせました。トサーケンも魂抜けそうだから孤児院手伝いに行かせました。尻尾をふって行きましたよ。現金なやつめ。
「いやぁ、なかなか皆話が合わなくて!ルーベルト君…いや、ルー!僕らは友達だ!僕のことはディルでいいよ!いやぁ、今日はなんていい日なんだ!」
「そうだね、ディル!僕は本当に感動しているよ!君に会えて良かった!こんなにも語り合えたのは初めてだよ!僕らは親友…いや、心の友で同志だよ!!」
ディーゼルさんはカモネギではなく、兄と同類でした。男達は解りあい、響きあった。彼らはもはやあれだ。ソウルメイト的な感じだ。響きあい惹かれあってしまった。比較的人見知りな兄が、心を全開にしている。すげー珍しい。
もとから植物研究者なディーゼルさん。脳筋多数なウルファネアではそもそも語り合える仲間など希少で、食べられない花の品種改良など、金持ちの道楽でしかないと見下されていたらしい。ディーゼルさんは語り合える仲間に飢えていたのだ。
そして、兄も魔法院では異色である。魔法植物というか、彼は植物が好きなのだ。魔法至上主義の魔法院とはそもそもそりがあわないのである。兄もまた、語り合える仲間に飢えていたのである。
男達は、解りあった。
6時間経過
「予想してましたが、今日は帰れないね。連絡しよう」
予定とは違うが連絡した。両親は『素晴らしい薔薇園』のフレーズに、今日は帰らない…いや、兄が動かなくなって帰れなくなると判断していた。さすがはうちの両親。兄を理解している。
「俺、ディーゼルのあんな笑顔初めてみたわ」
「「私も」」
ご家族もどんびいてます。ディーゼルさん…今日は好きなだけ語らってください。
兄は………たまにこういうことがあるから私は気にしてない。私に語りだす時もあるが、そういう場合私は聞きに徹するので、物足りないだろう。たまにこんなのいいなとねだって作ってもらったり、一緒に庭のレイアウト考えたり、珍しい花をプレゼントしたりはしている。しかし、兄の専門知識には全く及ばない。同じレベルで語らえる同志に出会って喜ぶのは仕方ないことである。
何時間経っても…下手をしたら数日…いや、数ヶ月かもしんない。とにかく、しばらく男達の熱は冷めないだろう。とりあえず、ご飯は無理矢理でも食べさせよう。そう心に決めて厨房に向かいました。




