東と金色
皆さんご飯に大満足だったようです。シェフさんも味見…というか彼のぶんも作ってあげたのですが、大絶賛され弟子入り志願されました。
「すいません、私は料理人ではなくディルクのお嫁さん志望ですのでお断りします」
「そんな!?こんな素晴しい料理を広めないのですか?」
「私はディルクが美味しくご飯を食べれればそれでいいです。丘の上の小さなお家で主婦したいです」
「…それは難しくないかな?なるべく叶えてあげたいけど」
「老後ですから、叶えます。子供に仕事を押しつ…引き継いだら2人で静かに暮らしたいです」
「うん、いいね」
ディルクとにっこり笑いあいました。シェフさんは残念そうです。
「レシピのいくつかはミス・バタフライに売ってますし、クリスティアで普通に流通してますよ?」
「ミス・バタフライ…?奇跡のレシピ女王様!?」
おい。ちょっと待て。変な名前出てきたよ!?聞きたくないけど詳しく聞いたところ、ミス・バタフライという商人がレシピを売り出した。レシピはまさに奇跡と言いたくなるほどに美味な料理ばかりである。いつしか料理人達は謎に包まれたレシピの書き手を讃えるようになった。
『奇跡のレシピ女王様』と!ミス・バタフライは決して書き手の情報を漏らさなかった。唯一解ったのは女性だということのみである。
「どうしてそうなった!?」
テンションが下がったものの、私だとバレていないからまぁいいか…と諦めました。さて、城に帰還しました。ちみっ子達はお昼寝、お祖父様はお仕事で私とディルク、なぜか護衛だとディスクさんが来ています。
サボりたがる王様には、頑張って仕事したらジェスがガトーショコラ(昼の残り)くれますよと呪文を唱えました。効果は抜群だったそうで、ジェスに拝まれました。だから私に御利益はありませんったら。
「…来ないね?」
東の代表、来てないらしい。え?帰っていいですか?
「やあやあ待たせたね!」
キラキラ…いや、ギラギラした男が現れた。金の毛並…獅子かな?シュシュさんの同族?なんとなく嫌な感じ…というか失礼じゃね?
「…帰っていいですか?」
思わず本音が出ました。帰りたい。私、この人の相手したくない。
「いや、ちゃんとお仕事しようね?」
ディルクにナデナデされました。ディルクに癒され……あ、ディルクさんもだいぶイラッとしたんだね?目が笑ってないや。たまには私が癒してやろう!
「ディルクのナデナデ大好き…もっと撫でて?」
ディルクの手にスリスリ甘える。ディルクは優しい笑顔でナデナデしてくれました。癒されたかな?激おこではなくなったみたい。穏やかな表情をしていますね。
「あのー、早く東に行きません?待たせてるんで」
放置してたギラギラ男が言いました。待たせてる?嫌な予感がしました。そして、当たりました。
パレードが待ってました。いや、乗らないよ!意味わかんないよ!
「このパレードにはなんの意味がありますの?」
「東は唯一大海嘯の被害にあいましたからね!皆沈んでいるのです!だから元気づけにと用意しました!そこに聖女様がいらっしゃるとうかがいまして!丁度いいと思いました」」
つまり、だ。疲弊した東の民の慰安に参加しろと?いや、意味わかんない。なんで私が??
「申し訳ありませんが、彼女は華美なものを好みません。パレード参加は辞退させてください」
「え?筋肉祭りでは出てましたよね」
「あれは賓客として招かれておりましたし、きちんとした依頼があってのことです」
ディルクが前に出て、私の意見を代弁してくれる。頼もしい!
「な…別に減るものでもな「申し訳ありません。ようく叱っておきます。こんなことしてる場合じゃねぇだろうが、クソがと何回言っても聞きやしねえ…」」
ギラギラ男が鼠の獣人さんにどつかれた。え?ふっとんだよ?
「申し訳ございませんでした。クソ主のかわりにお詫び申し上げます」
これはまた、変わった主従関係だね…鼠の獣人さんはミチュウさんというらしい。ギラギラ男はレオールだそうだ。
「クソ主、パレードしたきゃ独りでやれ。聖女様も忙しいんだ、断られたら諦めろ、クソが」
クソクソ言い過ぎじゃないかな。中身は正論だけども。ミチュウさんは話がわかりそう。
「そうですね。私もさっさとお仕事したいです。案内してくださる?あと、私はロザリンドです。聖女ではありません」
「失礼いたしました、ロザリンド様。ご案内させていただきます」
「わ、私も行く!」
えー?もういいよ。ギラギラ君はゆっくりパレードしてなよ!しかしギラギラ君はついてきた。パレードの人達は予定ルートを行くよう指示されてました。
転移の魔宝石で東の村まで転移した。
「魔法とは便利なものですね」
ミチュウさんにそんなことを言われつつ、農場に到着。
「ヴァルキリー、魔術師モード!皆、これで最後だよ!力を貸して!」
「「「「「おう!!」」」」」
やっぱり絶対1人多いよ!と思いつつ、術式に集中!魔力を解放する。
「緑の豊穣」
私の魔法でユグドラシルのマナが急速に大地を満たしていく。あっという間に農場が復活した。
「おお…畑か…」
「これでなんとか食いつなげる!」
「あれ?あの子、大海嘯で村を助けてくれた魔獣達の主だ!魔物避けの高価なアイテムも使ってくれたらしいぜ!」
え!?大海嘯の時に確かにここ来たかも…まさか覚えられてたとは…
「何!?ってことはあのお嬢ちゃんは…」
「救世主様だ!」
「え!?なんでそうなった!?」
「救世主様!ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
あ、あわわわわ!囲まれた!ヴァルキリーによじ登る猛者は居ないけど、動けないよ!
「皆、ロザリンド様…救世主様が困ってんぞ!感謝を伝えたら、仕事に戻れ!暇ならろくでなし公爵がパレードなんかさせてるから、そっち見に行け!」
ミチュウさんの一喝で、皆さんサッといなくなりました。口は悪いが相変わらず正論を言ってます。統率力があるんだね。ろくでなし公爵はいじけてます。
「では任務完了ということで」
「ありがとうございました。こちらからも後日なんらかのお礼をさせていただきます」
ミチュウさんは深々と頭を下げた。
「いえ、こちらも囲まれて困ってました。先ほどはありがとうございます。あと、救世主はやめてください」
私はミチュウさんにお礼を言った。仕事は終わったし、さっさと城に報告しに行こうとしたら、ろくでなし公爵が叫びだした。
「なんで私を無視するんだ!シュシュリーナ…あいつが私を悪く言ったんだな!?」
「シュシュさん?」
いきなりで驚いたが、もしやこいつがシュシュさんに酷いこと言いやがった奴か?
「彼女はそんなつまんないことしねーよ、クソ公爵が!すいません、気にしないでください」
そうしたい所だが、ろくでなし公爵から黒色…いや、正確には様々な色が混ざりあった黒に近い色の魔力が吹き出している。
「…アリサ、あれなんとか出来る?」
「ママ、あれは呪いに近いけど違うよ。アリサじゃ浄化できない」
「ついにアタシの出番ね!」
「は?」
ゴージャスな金色。昼間の明るさでも光を放つ、綺麗な女の子…女の子?男の子?どっちだ?
「名前をちょうだい。なんとかしてあげるわよ」
「え?あ…チタはどう?」
ふと、チタナイトという金色の石を思い付いた。
「ふふ、気に入ったわ。魔力を分けて。神に祝福されたアタシなら、あんなの1発よ!」
「だ、大丈夫なのか!?」
不穏な気配を感じとり、慌てるミチュウさん。倒すのはろくでなし公爵ではなく黒みたいなナニかです。
「大丈夫ですよ。むしろ多分放っとくほうがまずいです。チタ、お願い」
「任せなさぁい!」
金色の輝きが黒みたいなナニかを溶かしていく。
「あぐああああああ!?」
「うふふ、ちゃあんと魔を祓ったわよ」
「…魔?」
「ええ。魔を知らないの?」
チタはこてんと首を傾げた。知りません。初めて聞きました。
「あれ?私は…」
ふらふら立ち上がるろくでなし公爵。そして、いきなり倒れた。
「わ、私はなんということを…ミチュウ!」
「え?おう」
「今まで我が儘ばかりですまなかった。シュシュリーナ嬢にも酷いことを…私が彼女に劣っているのを誤魔化すためにあんな…私は最低だぁぁ!」
「…レオール?」
ミチュウさんがろくでなし公爵…ではなくレオールさんを呼ぶ。レオールさんはひとしきり落ち込むと、立ちあがりミチュウさんを呼んだ。
「ミチュウ、仕事を片付けよう!落ち込むのはいつでも出来る!救世主様、数々の非礼、申し訳ありません。後日、必ずきちんとお詫びをいたします」
彼はそう告げると、颯爽と歩きだす。ミチュウさんは慌てて追いかけつつ、私に叫んだ。
「ありがとう!」
急展開についていけない私。レオールさんは明らかにキャラ変わっちゃったよね?チタいわく、魔は人の負の感情にとり憑いて増幅してしまうらしい。魔を祓えるのは聖属性のみだそうです。
とりあえず、チタに聞きたいことがたくさんありますが、報告のためお城に戻ることになりました。
長くなったので、いったん切ります。チタについては次回です。




