庭園とお祖父様
ディルクにお姫様抱っこされたまま、庭園に到着しました。すでに大人達が庭園に来ています。お祖父様が案内してくれました。
「そこで子供達がかくれんぼをしてな、フィーディアが生け垣にスカートと下着を「キャアアアアア!?お父様!人の黒歴史を教えないでください!」
「むこうでディスクが肥料用の肥溜めに「父上!」
比較的活発な叔母様・叔父様は庭のいたる所に黒歴史が存在する模様です。でもお祖父様、多分スカートびりびりお尻丸出し事件とか肥溜めに落ちた事件とかは言わなくてもいいと思いますよ?2人が真っ赤で涙目ですよ?
「ここが、ディジャが愛した薔薇園じゃ。今はすべての薔薇が枯れてしもうたがな…」
寂しそうなお祖父様。私はディルクに合図して下に降ろしてもらった。
「お祖父様、私が庭園の花を咲かせてもいいですか?」
「できるのか?」
「正直、元の状態を知らないので完璧に戻せるかは分かりません。花が完全に死滅していれば蘇生は不可能です。ですが、出来る限りの事はします」
「…頼む」
「承りました!ハク、クーリン、スイ、アリサ、ハル、ゴラちゃん!全員来て!」
「はぁいぃ。何したらぁ、いいかなぁ?」
「ハクは花壇の土の状態を調べて、硬い土は柔らかく耕してくれる?」
「はぁいぃ…大丈夫そうだねぇ。よく管理された土だからぁ、ちょっとのお手伝いでよさそうだよぅ」
ハクはさっさと作業を始めた。庭園全部見てくるねぇ、と動き出す。
「クーリンは緑の魔法で復活したお花さん達にお水をあげてね」
「はーい!まかせて、おねえちゃん!」
水色金魚さんは安定の可愛さです。
「スイ、アリサ、ゴラちゃんは花の様子を見て、できるだけ蘇生して欲しいんだ。ハルは皆のサポートよろしく!」
「仕方ないネ。頑張ってあげるヨ」
スイは小回りがきくからと妖精さん姿で飛んでいく。
「アリサにおまかせだよ!ママ、アリサがんばるからね!」
アリサはスイについていった。あの2人は大丈夫だろう。
「任セヨ。仲間ガ萎ビテイルノハ、我モ悲シイ」
意外にゴラちゃんは変態姿をせず羽ばたいて………………羽?大根に似たゴラちゃんに羽。シュールである。
後でスイに聞いたが、精霊は大概羽があるらしい。ハーフはない場合もあるとのこと。そんな精霊あるある知らないよ!
「俺はゴラをフォローするわ」
「お願いします。ゴラちゃんが(何をしでかすか激しく)心配なので、くれぐれも(ゴラちゃんがしでかさないように)お願いします」
「…ゴラ、信頼感ねぇな…今回は大丈夫だよ。真面目に仕事するって」
私の心の声が届いたらしく、ひきつりながらもハルは承諾してゴラちゃんに続いた。
あれ?皆ポカーンとしてないかい?
「い、今のは…」
「私の加護精霊さん達ですが?土と水と緑と全属性の精霊さんです」
「そ、そうか」
え?私は何か変なこと言った?皆いまだに唖然としてるよ?
「せーれーさん?はじめてみたにゃあ!」
「せーれーさん、いっぱいにゃあ!」
ちみっ子達もいつの間にかついてきたようです。あ、なるほど。魔法が発達してないウルファネアでは精霊自体が珍しかったんだね!後でディルクに、そもそも加護精霊を複数持つのはあり得ないからねと言われた。うん…そういや私、そこはチートだった!
スイの見立てではユグドラシル休止で枯れた植物は眠っている状態らしい。
「森の恵み」
植物を活性化させる魔法を使うと、枯れていた薔薇はあっという間に瑞々しい緑色に変わり、蕾は金色の薔薇となった。瞬く間にアーチに絡み付き、金色の薔薇が金色の光をこぼす。とても幻想的な光景だった。
え?
私、また何かやりすぎた?薔薇がメガ進化的な感じになっちゃった??
「光の薔薇が復活した!」
セェェフ!多分セーフ!!私は知らなかったけど、この庭園の薔薇は魔法植物だったそうです。ディルクのお父様が贈ったクリスティア産の珍しい薔薇も多数あるらしい。兄を今度連れてこよう。きっと超喜ぶ。
私は次々と薔薇を咲かせていく。花びらがレースになっているもの、虹色のもの…枯れている状態からは予想がつかないほど美しい花達だ
「あれ?」
青い薔薇のアーチを復活させたら、薔薇の根元に何か埋まっていたのを見つけた。小さな宝箱。中には…ホラ貝……いや、魔具だ。旧式のやつ。録音再生の魔具だったはず。賢者が持っていた。試しに発動させ…すぐにお祖父様の耳にあてた。
「……ふ……」
お祖父様が涙をこぼす。
「少しだけ、一人にしてあげよう」
ホラ貝魔具に残るメッセージはお祖父様に宛てられたものだった。ディルクの話からも、きっと優しいメッセージなのだと思う。お祖父様はしばらくして戻ってくると、私にお礼を言った。ちょうど私の方も魔法をかけ終わった所だ。
きちんと周囲が見えるよう、光魔法で照らす。素晴らしい庭園だ。
「おお…」
「すごいな」
「元通りだわ…」
色とりどりの花に溢れた庭園は復活した。ちみっ子達が喜んで走り回っている。
「ロザリンド、このあたりはユグドラシルのマナがいまいち流れてないね。多少回復してるけど、流れやすくしといた方がよさそうだ」
「あちゃー、やっぱりか。後でジェスに報告して…手伝ってもらっていいかな?」
「当然」
「無論」
「おーよ!」
「アリサもがんばる!」
明日も忙しくなりそうですね。ウルファネアのユグドラシルはウルファネア王都の北にありました。以前ユグドラシルのマナを流れやすくしたのですが、ユグドラシルの北に位置するお祖父様のお屋敷周辺までは届かなかったようです。
お祖父様にその話を説明すると、お祖父様は考えこんだ様子で私に話しかけた。
「話は分かったが、ディルクはともかく君になんの利があるのだ?大海嘯もそうだ。君はウルファネアに思い入れなどない。人間と獣人は決して友好的とはいえない。何が目的だ?」
「お父様!」
「父上!」
叔父様と叔母様がお祖父様を責める口調で咎める。いやいや、お祖父様普通だから。私は怪しいと思いますよ。
「ひと言でいえば、自己満足ですね」
「「「「は?」」」」」
大人が全員ポカーンとなった。ディルクはクスクス笑っている。
「大海嘯は完全に成り行きですよ。私に出来ることがあるのに何もしないで罪もない獣人が大量虐殺されるのを眺められるほど肝がすわってません。ユグドラシルに関しても同じですよ。虐殺か餓死かの違いだけ。出来ることがあるのにしないで見捨てたくないと思っただけです」
「俺はロザリンドのそういう甘い所も大好きなんですよ」
ディルクが笑う。うん、でもいい人設定はいらない。ぶち壊そう。
「それに、私はもふもふを愛しているんです!」
うん、ディルクとスイとハルが、残念なモノを見る目になった!でも、これが私です!
「………もふもふ?」
硬直から解けたお祖父様が聞き返してきた。うん、わけわかんないよね?
「はい、もふもふです!私にとってウルファネアはもふもふパラダイスですよ!もふもふとは、獣人の獣化状態の素晴らしいふかふかの毛皮等をさします。ディルクの毛並みは極上です!至高のもふもふと言えましょう!私は偉大なるもふもふを失いたくなくてウルファネアを見捨てなかった…というのもあります」
「…なんでそれぶっこんだ」
心底あきれた様子のハルにつっこまれました。
「いや、慈善の人だと思われたくないし。ウルファネアとの戦争を回避したいとか、思惑もありましたよ」
「…大体分かった。本当に面白いお嬢さんじゃのう。ディルクともども、よろしく頼む」
「あ、はい。こちらこそ末長くよろしくお願いいたします。いつかひ孫連れて遊びに来るんで、長生きしてくださいね」
「はっはっは!これはなかなか死ねぬのう!ひ孫か!楽しみにしておるぞ!」
「はい!あれ?ディルク?」
マイダーリンは真っ赤になって丸まってます。
「ひ、ひ孫って…子供………俺の…ふ、不意打ち禁止!!」
「え?結婚するなら子作りもセットだと思います」
「ああああ、もう!それは分かってる!」
「きゃあ!?」
抱き締められました。えへへ。幸せ。
「もう間違いはせん。ロザリンド嬢、孫を頼んだぞ。ディルク、獣人の外見でクリスティアに居るのは辛いだろう。いつでもウルファネアに来るがよい」
「「え?」」
何か誤解がないかな?獣人…最近悪しざまに言われなくなったからなぁ。
「ええと…最近ディルクを悪しざまに言うクリスティア貴族は居ませんよ?」
「…は?」
「地道な営業努力等が実を結びまして、影で多少はあるかもしれませんが…こないだ表立って言った貴族がマダム達に言葉でフルボッコにされてました」
「………………」
「最近では私とディルクの婚約とラブラブっぷりを知らない貴族は居ない感じですし」
「…………………そうか」
安堵と諦めと…少しだけ嬉しそうなお祖父様。
「お祖父様、心配してくれてありがとうございます。外交なんかで難しい時はあるかもしれませんが頑張ります。逃げませんが、またお祖父様に会いに来ます。ぜひまた仕事を教えてください」
「うむ。いつでも来い」
「私達にも会いに来てね」
「もちろんです。必ずまた、ロザリンドと…次は父も連れて来ます」
「おいしいお土産つきで来ますよ。また食べたいおやつあります?」
「「「「全部!」」」」」
「わかりました、全部作ります。他のオススメお菓子も今度持ってきますね。この素敵な庭園で、皆でお茶をしましょう」
穏やかな空気のなか、皆さんと約束をしたのでした。次に会えるのが、本当に楽しみです。
お祖父様はいまだにクリスティアでは獣人差別が酷いと思い、心配してました。ロザリンドが改善させたのはここ数年なんで、知らなかったというわけです。




