お城での用事とお祖父様
パレードの後は晩餐会です。着替えて広間に案内されました。今回はディルクに悪い虫を寄せ付けませんよ!と気合いを入れましたが、すでに悪い虫は群がってました。仕事しろ!給仕したらさっさとどきなさいよ!蹴散らそうと息を吸う。しかし、私が動くより先にディルクが動いた。
「すいません、俺のつがいは他の女性が俺に近寄るのを嫌がります。給仕は結構です」
ディルクはやんわりお断りしました。同じ間違いはしないのですね。うん、なんか嬉しい。
「ディルク」
「ロザリンド!うわ、可愛いね!よく似合ってるよ」
私もディルクもアオザイ風の衣装をウルファネアから用意されて着ています。髪はおだんごヘアにされてます。
「ディルクも素敵です。先ほどの給仕の女性…」
ディルクの表情がひきつった。いやいや、叱らないよ。
「私のためにお断りしてくれて嬉しいです。私はディルクが他の女性にベタベタされているのは非常に面白くありません」
「うん」
明らかにほっとして嬉しそうな様子のディルク。隣の席に座った。対面に来る予定の方はまだみたい。
「シャルト侯爵がお見えになりました」
現れたのは黒豹の老獣人。私達を見て、驚いた様子だ。私達は席をたち、老獣人に挨拶をした。
「初めまして。ディルク=バートンです」
「初めまして。ロザリンド=ローゼンベルクですわ。お祖父様、とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
老獣人は目を逸らした。嫌われてはいないみたい。耳と尻尾は…緊張かな?
「…かまわん」
「ありがとうございます!」
ふっふっふ。絶対仲良くなるもんね!ツンデレミルフィを落とした私!やれば出来る子です!
今回はこのお祖父様と仲良くなるのも目的のうちです。この方はディルクの母方のお祖父様なのです。ディルクのお母様は駆け落ち同然でディルクのお父様と結婚。実家とは断絶状態のまま、流行り病でお母様は亡くなってしまった。
ディルクとあらかじめ話をしまして、ジェスに協力要請をしました。お祖父様は席につくと、ソワソワしながらもディルクに話しかけました。
「その…そなたは騎士…であるな」
「はい。騎士でした。今は騎士を辞めて侯爵家を継ぐための勉強をしております。よろしければ、先輩としてお話を聞かせていただけると嬉しいです」
「なんと!そ、そうかそうか。なんでも聞くがよいぞ!」
お祖父様嬉しそうだな。ディルクは真面目に外交や仕事の難しいことなどを聞いている。なかなか話が盛り上がってますな。ジェスとジューダス様は微笑ましそう。王様は…食事に夢中です。
「大変ためになりました。ありがとうございます」
どうやら、お仕事の話は終わったようです。お祖父様、緊張してますね。どうしたのかな?
「そ、そなたも…お、お、お祖父様と呼んでよいのだぞ。じ、実際に我が孫でありゅしな!」
噛んだよ、お祖父様!そんなに緊張しなくても、ディルクは優しいよ?
「はい。ありがとうございます、お祖父様」
ディルクは穏やかに微笑んだ。よかったね、お祖父様。めちゃくちゃ嬉しそうだな。
「た、たまには遊びに来るがよい!か、歓迎してやる!そなたはウルファネアの英雄でもあるからな!これは義務でもあるのだ!え、遠慮せず来るがよい!なんなら今日でもよいぞ!」
あ、お祖父様の侍従さんが素早く外に出た。連絡するのかな?別に城に泊まらなきゃいけないわけではないし…どうする?と目線で問いかける。ディルクは頷いた。行くのね?了解です。
「あの、バラ園はまだありますか?母がとても好きだったと話してて、1度見てみたかったのですが」
「無論ある!だが…今は花がない」
ユグドラシルの件で花は全て枯れてしまったらしい。本来は色とりどりの花がある、素晴らしい庭園なんだそうです。
「そうでしたか…でも見てみたいです。お邪魔してもよろしいですか?」
「うむ、かまわぬぞ!ロバート!ロバート!?侍従がおらなんだ!探してくる!屋敷に連絡せねばな!」
お祖父様は機敏な動きで侍従さんを探しに行きました。元気だなー。
「さて、ジェスの用事を先に済ませるかな。手を出して。魔力を調べるよ」
お祖父様が侍従さんと連絡してる間に、さっさと用事を済ませちゃお。ジェスは素直に手を出した。魔力の流れは安定し、淀みなく流れている。
「うん、大丈夫。これならもう成長が止まることは無いね。魔力はちゃんと安定してるよ」
「また止まる可能性もあるのか?」
「前回は魔力の流れをよくしたんだけど、人によってはぶり返す場合もあるのよ。ジェスは正常に流れてるし、淀みもないから大丈夫。無いとは思うけど、万が一なんかあったら呼んで」
「分かった。すまない、主…与えてもらうばかりで…」
項垂れるジェス。いえいえ、ギブアンドテイクです。一方的な関係なんて続かないよ。
「主じゃないったら。そんなわけないじゃん。今回のセッティングしてくれたし、そもそもジェスがウルファネアの復興を頑張ってるから、私は別の事が出来るんだよ?私が貰いすぎなぐらいだよ」
「…俺がウルファネアを守るのは王族としての義務だが…そうか。さらに頑張ろう」
「無理ない程度でよろしく」
私とジェスは互いに笑いあった。さて、ちらりとジューダス様を見た。手首の腕輪がほんのり黒ずんでいる。
「ジューダス様、その腕輪は使い捨ての魔具です。いずれは使えなくなります。クリスティアの賢者がそう判断したので間違いないかと」
「……そうか」
ジューダス様は知っていたらしく、力なく微笑んだ。
「兄上…」
悲痛な表情のジェス。腕輪が無ければまた聖域に逆戻り…なのかな。
「…というわけで、取引です!」
「「は?」」
私は大容量鞄から腕輪をジャラジャラ大量に出して並べた。
「ジューダス様の腕輪を複製しまくりました!」
「くっ…ははははは!取引か。ロザリンドは何を望む?」
「聖女の恵みをクリスティアに広めたいんですよね。米は保存食として優れてますし、美味しいし美味しいし美味しいので」
「…ロザリンドはお米が好きだね」
「はい!大好物です!で、いかがですか?陛下」
「ふむ、かまわぬ。確かにあのおにぎりとやらはうまかった。他国といえど、うまいものが増えるのは良いことだ。王家は栽培が難しいから保護のために王室のみとしていただけだしな」
「なるほど。対価は無期限で腕輪を提供する、ということでいかがですか?」
「よかろう」
「ロザリンドは損しないのか?」
「米で利益を出しますし、利益が無くても米がお店なんかに普及して食べられるようになるならかまいません!」
なぜだ、皆が呆れてる気がする。パンもいいけど、米に飢えてたんですよ!クリスティアにあるタイ米風の米はなんか違うし!
正式に契約書を作り、ありったけの腕輪を渡しました。
「足りなくなったらまた作りますから、言ってください」
「すまんな」
「おきになさらず。私にも利がありますから」
そんな会話をしていたら、お祖父様が戻ってきた。
「ディルク、ロザリンド嬢!馬車を手配した!我が屋敷に来るがよい!陛下、殿下…わしらはこれにて失礼いたします」
「ふふ…そなたがそのようにはしゃぐのは珍しいな。我らが聖女様と英雄殿を存分に歓待せよ。本来は城に滞在していただく予定だったが、英雄殿の望みだ。叶えねばなるまい」
「はっ!ディルク、ロザリンド嬢!陛下からの命だ。楽しむがよいぞ」
「はい。我が儘を聞いてくださりありがとうございます、お祖父様」
「お祖父様のおうち、楽しみですわ」
なんかお祖父様可愛いな!お耳と尻尾がディルクがご機嫌な時と同じ動きだよ。
「うむ!期待するがよい!」
こうして私達はやたら可愛いお祖父様とお城を後にしたのでした。
ツンデレお祖父様とのお話はまだ続きますが、長くなったのでいったん切ります。
なんでだろう、お祖父様。やたら可愛い気がするのですが。




