真剣勝負
合言葉は、どうしてこうなった!?でお願いします。
私達が戻るとオッサンたち(ヨッパライダー)がけんかしてました。
「ディルクが強い!」
「いいや、ロザリンドちゃんだろ!」
心底どーでもいい。オッサン達(酒に呑まれた)は私とディルクのどっちが強いかでもめているらしい。
「ちなみに物理縛りなら圧倒的にディルクですよ」
「魔法ありだと五分五分だったけど、最近はロザリンドが手合わせ嫌がるんで分かりません」
「よし、なら今から手合わせだな!」
「「は?」」
「祭りだ、野郎共ぉぉ!!」
「うおおおお!!」
オッサン達(酔っ払い)の勢いに勝てなかった私達。どうしてこうなった!?これ私と多分ディルクの慰労会だったんだよね!?主役巻き込むなよ!!
祭りだわっしょいテンションのオッサン達(酔いどれ~)に連れられて、訓練所に来ました。
「ロザリンドには悪いけど、丁度いいかな。魔力の封印を解いてもらってから、調子がいいんだ。魔法ありの全力で来て」
「はぁ…仕方ないね」
ディルクは槍、私は双剣を構える。どちらも模擬ではなく、指輪武器だ。更に私は婚約指輪の防御魔法を展開する。ショートパンツにニーハイ、袖無しタートルネックになる。動きを制限しないためだ。ディルクも動きやすい普通の騎士服に着替えている。
「始め!」
ルドルフさんの合図と共に、ディルクが一瞬で距離をつめる。無詠唱の衝撃波を展開するが、避けられた。魔力コントロールが可能になった結果、ディルクは魔法の発動を感知できるようになってしまった。厄介なことこの上ない。無詠唱が当たらないとか、なんてチートだ!
「はっ!」
以前とは比較にならない!一撃が重い!
「くっ!」
しかも速い速い速い!英雄ほど一撃が重くはないが、そのぶん速さがある。さばくだけで精一杯だ。私は涙目である。今までロザリアとリンで分担していたがだんだん融合した結果、反応は速くなったが分担は出来なくなっている。つまり、魔法を使う隙が全くない!このままなら確実に負けてしまう!
だが、そう簡単には負けてやらん!
「はあぁっ!」
魔力を双剣に込めた。魔力に呼応して、風属性が作動、不可視の真空の刃を撒き散らす!
「!?」
ディルクは危険を察知して飛び退いた。地面を真空の刃が抉る。
「えいえいえいえいえーい!!」
コントロールを考えず、とにかく火の玉を投げまくる。
「うわぁぁぁぁぁ!?」
逃げるディルク。しかし逃がさん!近寄られたら私の敗けだ!
「うわ!」
ついに火の玉を避けきれず、ディルクを直撃…したかに見えたがディルクの武器が火の玉を切り裂いた。
「「え?」」
そうか、ディルクの指輪武器もどちらかといえばカテゴリーは魔具だ。魔力を込めて切れば、魔法を無効にできるのか!しかも、なんか形状が変化してないか!?ディルクの指輪は槍と双剣のみだったはずが、それ両手剣ですよね!?
「はぁっ!」
「しまっ…」
驚いた一瞬で距離をつめられ、負けました。カラン、と双剣が落ちる。私の首すじにはディルクの剣。
「…まいりました」
「勝者ディルク!」
歓声が沸き起こる。賭けてた奴もいたらしく、悔しがってますな。
「ディルク、もう1回!」
「うん」
ディルクは困った表情をしつつ、手合わせしてくれました。
結果?惨敗ですよ!速い!当たらない!当たんなきゃ魔法は意味無いんですよ!(逆ギレ)
何をどうやっても勝てません!気がつけば、49連敗です。ディルクも指輪を使いこなし、様々な武器を試してます。棒術なんかも出来たんだね…ふ…ふふふ…知らなかったよ。魔法無効化に加えて手数が増えて、太刀打ち出来ません。
ヴァルキリーなら勝てるかもしんないけど、やりたくない。訓練所が全壊します。そもそも出す隙がない。
「ロザリンド嬢のガッツはすごいな」
フィズに呆れられてる気がする。気のせいか?
「ああ…どんだけ負けても目が死んでないな」
「いや、体力もスゲーな。いくら回復魔法があっても、普通バテるだろ…」
「全く諦めてねーな。ディルクがめちゃくちゃ強くても」
何やら騎士団の皆がぼそぼそ話してる。いや、他はどうでもいい。考えろ、どうやれば勝てる?実力差は歴然。作戦を立てるしかない。頭を使え!考えろ、考えろ、考えろ!
「ロザリンド、必殺技は?」
カーティスが見かねたのか、アドバイスをくれた。必殺技?あれか!うん、イケる!
「カーティス、勝ったら今度お弁当作ってあげる!」
「マジで!?ロザリンド、頑張れー!」
「ロザリンドちゃん、次は勝てよ!」
「小娘、きばれ!」
「ロザリンドちゃん、ファイト!」
なんだか皆に応援されてますね。にっこり笑って手を振って、ディルクを見る。
「これで最後にする!手を抜かないでね?」
「うん!」
互いに武器を構える。
「では、始め!」
私は微笑んでゆったりと歩く。片手には隠し武器のナイフ。指輪は指輪のままだ。ディルクの間合いに入るが、彼は無防備な私に警戒して攻撃を仕掛けてこない。
ディルクが私の射程に入った。私はナイフを投げる。ただし、前方のディルクではなく上に。
ディルクが一瞬ナイフを意識した隙をついて、閃光と大音量の破裂音が響いた。
「うぁ!?」
音と光で一瞬硬直したディルクの背後に回り、腰に仕込んでいたナイフを首に当てた。
「勝者、ロザリンド!」
ルドルフさんが判定した。
「いやったぁぁぁ!!勝ったぁぁぁぁ!!」
49連敗していようが、勝ちは勝ちですよ!テンションマックスな私は皆とハイタッチです!
「うー、まだ目がチカチカするし耳がいたい…負けちゃったか」
「ごめんね、ディルク」
「いや、勝負だし構わないよ。閃光で目が眩んだのは分かるけど、何したの?」
「猫だましです」
「ねこだまし?」
「相手の鼻先で両手をパァンとやる奴ですね。指輪の光属性魔法で閃光をプラスして、風魔法で音を増幅したんで正確には強化版猫だましでしょうか」
古きよき日本の国技の技ですね、猫だまし。カーティス達も暗殺者の技として習得してまして、普通にやるより音が大きくなるやり方を教えてもらってました。
「カーティス、約束したし今度お弁当作るからね」
「やった!」
「よーし!ロザリンドちゃんの勝利を祝って胴上げだ!」
「は?」
盛り上がってしまった脳みそ筋肉を止めるすべはありませんでした。なんだかんだバテていたため、あっさり捕獲された私。
「きゃああああああ!?」
私はあっという間に胴上げされました。脳みそ筋肉パレードは遠慮させてぇぇ!?高い!怖い!荒っぽい!負の3拍子が揃ってますよ!?ちょ!ドーベルさん、成仏しろよなジェスチャーしてないで助けてぇぇ!!
「た、助けてぇぇ!?」
ディルクが助けようとしましたが、彼も疲れてたみたいで厚い胸板に弾かれました。なんてこった!元暗殺者組は…ダメだ、爆笑してやがる!フィズ…お前も合掌すんな!た、助けてぇぇ!
しかし、私の願いもむなしく脳みそ筋肉ヨッパライダーわっしょいパレードは夜更けまで続き、寢落ち…いや気絶した私はディルクにお家まで送り届けられたそうです。
翌日、私は約束のお弁当を届けに騎士団に来ました。
「せい!」
「やあ!」
「まだまだぁぁ!」
皆さん、妙に気合い入ってませんか?気のせい…じゃない気がする。
「あ、ロザリンドだ」
「カーティス、はい」
「肉じゃがは?」
「入ってます。ぶれないね…なんか皆さん異様にヤル気満々じゃない?」
カーティスはへらっと笑った。
「ああ、ロザリンド効果」
「は?」
騎士団の皆さんは負けても負けても諦めないで工夫しては挑む私に触発されたらしいです。必死だっただけに恥ずかしい。ただの負けず嫌いですよ。
ま、まぁやる気があるのはいいよね!と無理矢理納得して帰りました。
それからしばらく、たまに差し入れに騎士団へ行くと、
「その程度でへばってんじゃねえ!ロザリンドちゃんは何十回ディルクに負けたってへこたれなかったんだぞ!」
「はい!あんなに差があったって、最後は勝ちましたよね!努力は裏切らない!俺、頑張ります!」
…だとか、
「ロザリンドちゃんには負けてらんねぇぜ!うおおお!」
…だとかを聞いてしまい、いたたまれなくなりました。私を引き合いに出すなよ!騎士団では私=努力家なイメージがついてしまい、私=いいお手本となり…いつの間にか断罪の魔女王ではなく、努力の聖女と勝手に影で呼ばれていた。気づいた時にはもう遅かった。脳みそ筋肉はなかなか覚えないが、1度覚えると上書きが不可なのである。何度も何度も何度も修正をかけたがダメだった。そんなこっぱずかしい称号いらないから!そも聖女じゃないっつーの!!
あああもう、どうしてこうなった!?
ちなみに、ロザリンドが最近ディルクとの手合わせを嫌がってたのは勝てる気がしなかったからです。
そもそもロザリアとリンは、双方負けず嫌いです。負けると最低1回は勝つまで頑張ります。ちなみに手を抜くと超怒ります。結構面倒だと思われますが、ムキになるロザリンドも可愛いとディルクは思ってます。




