騎士団と彼の決意
前半ほのぼの、後半はややシリアス先輩になります。
今日は終業式です。午前は学校、午後は騎士団でお仕事の引継ぎと片付けですね。明日からは夏休みですが、スケジュールが山盛りてんこ盛りです。
クラスメート達に挨拶をして、ミルフィと夏休みに遊ぶ約束をしたら騎士団へ行きました。
「ロザリンドさん、今日は仕事の後に残っていただけますか?」
「あ、はい」
渡したいものもあったし、丁度いいかな。私はドーベルさんに返事をして、家に遅れると連絡をしました。
もとから私の仕事はジャッシュが引き継ぐ予定だったんで、引継ぎはスムーズに終わりました。
仕事と片付けの後に、私は別室に通されました。鳴り響く、クラッカー的な魔具。笑顔の騎士さん達。
「お疲れ様!」
皆からねぎらいの言葉をいただきました。中には号泣するオッサンもいます。
「いや、寂しくなるなぁ」
「また手合わせしような!」
皆さんから笑顔で話しかけられました。私も笑顔で対応しました。
「今日はロザリンドさんへの慰労会なんです。楽しんでいってくださいね。特に私は貴女のおかけでちゃんと定時に帰れるようになりまして…どれほど言葉を尽くしても伝えられないぐらい感謝しています」
「ドーベルさん」
貴方は本当に過剰労働しまくってましたものね…昔の父に負けないぐらいの仕事量でした。脳みそ筋肉を狩ってた頃が懐かしいですね。
「ロザリンドー、ご褒美を連れてきたぞー」
カーティスの声にふり返ると、私の王子様…いや、騎士様がいらっしゃいました。あまりの素敵さにめまいを起こした私を、素晴らしい騎士様は慌てて抱き寄せてくれました。
「ロザリンド!?大丈夫!?」
「あ…はい…いえ大丈夫じゃありません。私の脳内がえらいこっちゃです!素敵です!カッコいいです!お持ち帰りしてもいいですか!?むしろどこかへさらってください、地の果てまででもお供します!」
「あ…え?」
困惑するディルク。ディルクは騎士の正装で、髪をあげていました!
「カーティス、よくやった!」
「おー、予想以上に喜んだな…正装って何回か見てなかったか?」
「いやいや、だから言ったろ?スタンダードが1番なんだよ。正装は見てても、髪までセットしたのは見てないだろ?いい出来だろ?」
ヒューがウインクしてきました。私はまだディルクに支えられています。なんという至福!
「ヒュー、カーティス、ありがとうございます。素晴らしい出来ばえです。私は幸せです」
「な?」
「女ってよくわかんねーな」
ちなみに、他の案としてディルクの女装もあったらしい。見たかったが本人が本気で拒否してるんで諦めました。
「アタシからはこれよ」
にんまり笑ってマニキュアを振ったアデイル。ネイルアート得意でしたね。
「たまにはイイでしょ?」
流石は私より女子力のあるアデイルです。私を席に座らせると、色とりどりのマニキュアを取り出しました。
「色に希望はある?」
「特には…」
特にないと言おうとして、思いついちゃいました。どうしよう…いや、女は度胸です!希望は伝えねば!
「うん?」
「えっと、あの…ひ、左手の指輪に合うようなのがいい、です…」
うう、恥ずかしい。ディルクよ、嬉しそうにしないでください。余計いたたまれない!あああ、こんな乙女思考思いついた自分が恥ずかしい!!
「左手?リッカの花…あれ?この指輪どっかで…」
「俺と揃いの指輪なんだ」
うん、ディルクが満面の笑みです。ディルクの指輪を見て、納得した様子のアデイル。
「納得したわ。それでこの反応か。いいわよ、その指輪がよく似合うようにしてあげる」
爪にマニキュアを塗ろうとしたアデイルに待ったをかけた。
「せっかくなんで、また使いたいからつけ爪にしてもいいですか?」
「つけ爪?」
「これです。爪に貼り付けて使います」
「いいわね、コレ」
「ふふ、私が満足なネイルアートをしてくれたら、アデイルのも作ってあげますよ?」
「言ったわね?最高のネイルアートを見せてやろうじゃない!」
アデイルは流石でした。永久保存したいぐらいの素晴らしい腕前です。白地に青いリッカの花と小さなイミテーションジュエリーを付けた、清楚可愛いネイルです。
「はわー、可愛い!」
しかもしかも、要望通りですよ!
「うん、指輪にもよく似合ってるね」
ディルクが私の手を取った。私もそう思います。ディルクの指輪に合わせた素敵ネイルアート…大満足です!お礼にアデイルのサイズにあわせたつけ爪をいくつか作ってあげました。
「どーだ、嬢ちゃん。楽しんでるか?」
ネイルアートしてる間にヨッパライダーにクラスチェンジしたルドルフさんに話しかけられました。
「はい、とても」
私は笑顔で返事をしました。仕方ないとはいえ、夏休みがあけたら騎士団に来られないのが惜しくなるぐらい楽しいです。脳みそ筋肉は多いけど、騎士団は気のいい人が多いから、ちょっと…かなり寂しいと思ってます。
「そういや私、皆さんにご飯作ってきたんです。つまみも沢山ありますから、ぜひ食べてください」
私は暗い気持ちを誤魔化すように特選素材混みの料理を大量にテーブルに並べていく。かなり頑張ったんだよね。
「うおおおお!」
「うめぇぇぇ!」
皆さん本気でむさぼり食っています。ちょっと怖い。あ、カーティスが肉じゃがの皿を持ち逃げ…よく見たらヒューはトンカツの皿を持ち逃げしてる!?アデイルはカーティスに注目が集まってるうちにだし巻き玉子を黙々と食べてます。
暗殺者は気に入った一品だけをむさぼり食う習性でもあるんでしょうか。
あ、フィズが幸せそうにご飯を食べてる。ちゃんとキンピラごぼう食べられてますね。
美味しそうに食べる騎士団の皆を眺めていたら、ディルクに散歩に誘われました。憧れの騎士様から散歩に誘われたらどうします?
「どこにだってお供します!」
それはもう、即答でした。もはや反射レベルです。断る選択肢などありません!
「ありがとう」
ディルクは苦笑して、テラスに私を連れ出しました。ヒョイッと私をお姫様抱っこすると、テラスから飛び降りてお城の庭園に行きました。
「この辺りでいいかな。ロザリンド、結界はって」
「はーい、喜んで」
言われた通りに結界をはる。ディルクの様子がおかしい。緊張してる?真面目なお話かな?庭園のベンチに降ろされました。
「ロザリンド」
「はい」
「俺、騎士を辞める」
「はいぃぃ?」
ビックリして、色々聞きたいのに頭が回らない。どういうこと?騎士はディルクの夢なのに?
「それで、家を継ぐ。もう父さんとは話し合った。団長に辞表も出したよ」
「…理由を聞いても?」
ディルクは頷いた。真っ直ぐにディルクが私を見つめる。
「君と歩いていくためだよ」
「私と?」
「騎士でいても、君にしてあげられることはもうほとんどない。逆に仕事で君に付き合えない事もある。でもそれだけじゃなくて、侯爵になれば君がしたいことをサポートできる。女性の雇用や保険、福祉や農作物なんかもね。だから決めたんだ。一生君と居るために、俺は侯爵になる。騎士に未練はないよ。未来の侯爵夫人として、もうロザリンドはお仕事してるから、色々教えてね」
ディルクは私に笑いかけた。確かに、バートン侯爵領について私は勉強しているし、ローゼンベルク領との提携事業なんかもしている。私は別に、私が領地統括をしてディルクは騎士のままでいいと思っていた。
「ディルク…」
でもディルクは私の…私達のよりよい未来のために決断したのだ。やばい、胸が苦しい。こんなに私の事を想ってくれるひとは、きっと他にいない。
ディルクは私の隣に立ちたいとよく言ってたけど、今の私はディルクに手を引かれて歩いているんじゃないかな。自然と笑顔になった。彼が好きすぎて、涙が一粒こぼれる
「ロザリンド?」
優しく私の涙を拭う愛しい手に触れる。
「ディルク、気持ちが高ぶりすぎててうまく言えない。大好き…ずっとずっと、どこまでも2人で一緒に歩いていこう」
「…うん」
ディルクは甘やかな笑みを浮かべて私にキスを落とし、幸せすぎて震える私を宥めるように抱きしめて、落ち着くまで待ってくれました。
言葉はなくて、とても静かだったけど…心が満たされていて、穏やかな時間でした。震えるほどの幸せなんて、本当にあるんですね。私は、本当に彼がいてくれるだけで幸せです。
キリがいいので切りますが、宴はまだ続きます。




