贖罪
わりとシリアス先輩の出番かな?と思います。
ラビオリさんとのお話も終わったので、ミケルを探しにいきました。
「えい!やあ!」
「まだまだぁ!」
「踏み込みが甘い!」
「これでどーだぁ!」
「狙いはいいけど、声を出したら台無しね」
どうやら子供達に木刀で剣を教えていたようです。ミケルを案内するのはどうしたんだい?
「あっ!?」
ミケルが慌てて姿勢を正す。いや、別にいいんだよ?早速打ち解けたみたいですな。
「あ、あの…すいません。わ、ワタクシ剣の稽古が好きだと話したら、子供達が教えてほしいと言ったもので」
「うん!ミケル先生ちょーつよい!」
「おしえかたもじょうずだよ」
「ロザリンドお姉ちゃんよりおしえかたうまいよー」
仕方ないじゃないか、私に教えた人が習うより慣れろ派だったんだよ。マーニャは脳筋なんだよ。
「いや、そんなことはないですよ!」
「慰めなくていいよ。剣術習ってたの?」
「は、はい。ウルファネアでは女性でも護身のために何らかの武術を習うのが一般的ですから…」
「お姉ちゃん、かくご!」
ミケルに剣術を習っていた3人の子供達が一斉に飛びかかってきた。
「甘い!」
指輪を双剣に変えて木刀を弾き、軽く叩いてやった。
「きゃん!」
「いて!」
「やられたー」
子供達は悔しそうだ。わはは、そうそう負けないよ。
ん?ミケルがきょとんとしてる。そして、ソワソワしだした。
「ロザリンド様も、剣を扱えるのですね」
「うん。まぁそこそこね」
「ワタクシと対戦していただけませんか?」
ミケルは真っ直ぐ私をみていた。特に悪意は無さそうだ。
「いいよ。いつでもどうぞ」
子供が落とした木刀を拾って構える。
「やぁっ!」
ミケルが打ちこんできた。重い!?山猫の獣人だし華奢だから、スピードタイプかと思ったよ!
「は!たぁ!」
びっくりしたものの、英雄程ではないし問題ない。お嬢様の手習い程度かと思いきや、なかなかの腕前だ。英雄と型が似ている。ウルファネア流なのかな?
「はあっ!」
ミケルが上段から振りかぶったが、遅い!一瞬の隙をついて胴に一撃を入れた。
「かはっ!?」
膝をついたミケル。そんなに強くはしてませんよ。ミケルはにっこり微笑んだ。
「完敗ですわ」
手を貸して立たせてやる。スカートを払うと、ミケルはキラキラした瞳で私を見つめた。
「そのお年でここまでの腕前だなんて…強くなる秘訣はありますか?」
「自分より格上と対戦することかな」
「なるほど…また対戦していただけますか?」
「いいよ」
子供達が拍手をした。何でだ?
「ミケル先生、すげー!」
「負けちゃったけど、あんなにお姉ちゃんと打ち合い出来るなんてすごい!」
「いやはや、どちらもすばらしい腕前ですね」
ラビオリさんがニコニコしながら話しかけてきた。
「しかし、うちの子達は気難しいのによくここまで打ち解けましたねぇ」
「え?皆、素直でお利口さんだと思います」
ミケルが首を傾げた。子供達はミケルにじゃれついている。
「あのね、ロザリンドお姉ちゃんに悪いひとは追い出していいって言われたの!」
場がしん、と静まりました。いや、まぁ…言ったね。
よく覚えてるね。
「お嬢様、どういうことですか?」
「子供達に悪い人の選別方法を教えました」
「…なるほど」
「子供達は見る目がありますよ。普段から職員を観察してますし、子供は悪意に敏感です」
「ミケル先生はちゃんと目を合わせてお話するよ」
「ちゃんとお話きいてくれるよ」
やはりミケルは根っからの悪人ではないのだろう。すっかり子供達が敵ではないと認識している。彼女の真っ直ぐな気質は子供達には受け入れやすいと思われる。まぁ、予想通りかな。
「さて、帰るかな」
私はあまりしょっちゅう孤児院に来ないようにしている。
「え?やだやだ、帰っちゃやだ!」
「おでえじゃぁぁん、がえっじゃやだぁぁぁ!!」
理由はこれ。帰りの子供達による大合唱である。非常に帰りにくい。捨て犬を見捨てる時並みに罪悪感がある。
「お、お土産に塩漬け肉あげるから!」
ウルファネアでもらった大量の塩漬け肉を出してやる。素早くゲットするが泣き止まない子供達。うーん、肉ぐらいじゃダメか。どうしよう。
「ナカナイコ、イッショニネル」
見かねたもふ丸が私の肩から降りて、子供達に話しかけました。優しいもふ丸はこうして子供達が泣くと一晩だけお泊まりしていたりする。いつもありがとう、もふ丸。なんて気が利く魔獣さんなんだ!子供達は現金なもので、もふ丸を連れて走り去った。毎回もふ丸を狙っている気もする。
まだ通りも明るいし、独りで帰ろうと思ったら、ミケルが送るとついてきた。しばらく歩くと、ゲータも来た。
「あれ?どうしたの、ゲータ。兄様は?」
「あの犬獣人に指導してる。まだかかりそうだし迎えにきた」
「なるほど」
どうでもいいが、ミケルが怯えてます。睨むな…いや、よく見たら睨んでないわ。考えごとしてるのかな?
「なぁ、お嬢様」
ゲータが私に声をかけた。真剣な表情だ。
「何?」
「前に『自分のしたことが罪だと言うなら、死なずに一生苦しみぬいて被害者のために働きなさい。あんたが死んでも何も変わらない。あんたの自己満足でしょうが』って言ったよな。今の俺は、償えているか?」
「正直に言っていい?」
「ああ」
「無理しすぎだと思ってる。少ない給料全部孤児院に使うのはやりすぎ」
「……そんなことはねぇさ。飢えもしない今の環境が幸せ過ぎるんだ」
「じゃあ、これからは?奉仕労働が終わったらどうすんの?ラビーシャはもう、先を見てるよ。外交官になるかも」
「俺は…」
「これはミケルにも言えることだけど、この奉仕労働の時間は多分自分のした事を見つめ直してこれからを考える時間なんだよ。ゲータ、償いにとらわれて自分を犠牲にするよりも、たくさんの人達を救う方法があるんじゃない?」
「例えば?」
「兄様との知識を生かして医者か薬剤師になるとか、アークのコネで新設される福祉課とかで働くとか、商人になってラビオリさんみたく孤児院作るとか道は色々だよ」
「………そう、だな。考えてみる。お嬢様、俺はあんたにどうやって報いればいい?この借りは一生かかっても返せそうにない」
「別に返済は期待してないけど…そうねぇ。ゲータが幸せそうにしてたらわりと満足かな。自分は間違ってなかったんだと思えるし」
ゲータがタメ息をついた。
「なんつーか、悪ぶるわりに根っこは善人だよな、お嬢様」
「…いや、善人は断罪したりしなくない?それにジェンドにお願いされなきゃ見捨てたかもよ?」
「いや、多分ないな」
「そうですね」
ゲータとミケルはほほえましいと言わんばかりに穏やかに笑った。君達は私を好意的に捉えすぎですよ。
「本当に見捨てるか、考えてみてください」
ミケルに言われて考えてみた。考えてみた、が…
「今のゲータは見捨てられない。それだけは確かだけど、あの時ジェンドにお願いされなかったとしてもラビーシャちゃんに泣きつかれて懇願されたら変わんないかな」
「ほら」
「やっぱり」
ニヤニヤすんな!ミケルもゲータにビビってたくせにぃ!
「とにかく!2人は利用されたとはいえ利用されるだけの隙があったということです!他人を見る目を養って、本当に頼れる人間をちゃんと見つけるように!」
「「はい」」
まぁ、なんにしてもいい方に向かったらいいよね。せっかく助かったわけだし、いつか彼らが幸せになったらいい。
ミケルとゲータはこの一件ですっかり打ち解け、歳が近いので仲良くなりました。約1名が嫉妬してましたが、見なかったことにしました。




