商人と聖女
久々登場なんで念のため。
ゲータ→ラビーシャの兄。ルーの従者としてローゼンベルク邸で働いている。鰐と兎のハーフ獣人。外見的には鰐の特徴しか出ておらず、人相が悪い。
ゲーム内では誰を攻略しようがヒロインをさらって殺される悪役商人。
ラビオリ→ラビーシャとゲータの父。兎の獣人。現在は孤児院の院長として働いている。
さてミケル達のとこに行く前に、確認しなきゃいけないことがあります。
「ジャッシュ、ミケルという名前の見習い薬剤師とトサーケンって医者知ってる?」
「結構な有名人だから存じてますよ」
んん?どういうこと?
「有名人?」
「つがい同士でありながらとんでもなくすれ違いまくっていると有名でした」
「そうなんだ…」
誰か教えてやれよ!あんなに思いつめる前に!
「彼らが国王毒殺未遂事件の実行犯と関与者です」
「え?」
「トサーケンが筆頭医師になってからろくに話しもできなくなり、首にするために王様に毒を盛ったのがミケル。致死毒とは知らず、腹を壊す程度だと思っていたようですけどね。そして、自分の薬棚に毒を混入された管理不充分なおバカがトサーケンです。面識は?」
「すれ違う程度でしたから、多分大丈夫かと思います」
応接間では、ミケルとトサーケンが隅っこで丸くなって怯えていた。
「え?」
てっきり普通にソファーにでも座って待ってると思いきや…なんで?
「お嬢様」
ゲータが睨んできた。いや、不機嫌なだけだな。多分怒ってはいない。ゲータは目つきが悪いから、よく誤解される。
「ただいま、ゲータ。どうしたの?」
「ああ、おかえり。この女がお嬢様を小娘呼ばわりしたのは本当か?」
「…………………うん?」
私は曖昧に返答した。実際に小娘だし、気にしてない。
「本当か?」
「ああ、まぁ、うん。でも私もオバサン呼ばわりして散々嫌み言ってへこませたから、気にしてない」
「…そうか」
ゲータの空気が多少穏やかになった。んん?どういうこと?
「てめぇら、命拾いしたな。俺達の主に非礼な事をしやがったら、ただじゃおかねえ!」
ドスのきいた声でゲータが言った。ラビーシャちゃんがニヤニヤしている。言いつけたな?まぁいいけどさ。
「は、はい!」
「2度と聖女様に非礼などはたらきません!!」
2人の返答に満足したらしくゲータは下がった。あからさまにホッとする2人。ゲータはずっと殺気をこめて睨んでいたので怖かったらしい。うん、忘れててごめん。まぁ、罰の一環ってことで。
「トサーケンは僕の薬草園に来て。知識の確認をする」
兄がトサーケンを連れていく。彼は名残惜しそうにミケルを見ていた。
「ミケルは孤児院だね。ついてきなさい」
「はい、ご主人様」
「…私は貴女の主になるつもりはないのでロザリンドで」
「はい、ロザリンド様」
ミケルは素直についてきた。市街地の中にある、我が家が管理している国営孤児院に到着した。元ワルーゼ邸宅なのだが、来るのは久しぶりだ。
「お嬢様、よくおいでくださいました!」
ラビオリさんがニコニコしながら駆け寄ってきました。ん?
「ラビオリさん…」
「子供たちも皆楽しく…お嬢様?」
私の表情に気がついたラビオリさん。言いにくいが、現実とは残酷。私はラビオリさんに残酷な事実を告げた。
「太りましたね、ラビオリさん」
「あはははは………………はい。ラビーシャにこれ以上太ったら豚だと言われました」
「辛辣!」
ラビオリさんがしょんぼりしてしまいました。ラビーシャちゃんは可愛い顔して結構毒舌ですよね。
「ところで、そちらのお嬢様は?」
「ミケルと申します。こちらで働かせていただきたいのです。なんでもいたします。奴隷として扱ってくださいませ」
ミケルは地べたに座り込み、綺麗な土下座を披露した。
「えええええええええ!?」
いきなり身なりのいい女性に土下座をされ、驚愕するラビオリさん。いや、私も驚いてますけども。
「あの、え?ちょ!お、おちけつ!いやもちついて!?」
「むしろラビオリさんが落ち着いてください」
私もかなりびっくりしたものの、ラビオリさんの慌てぶりのおかげで冷静になりました。
「ミケル、事情を説明せずにいきなりそんなことしたら普通は驚きます。しかもこんな往来で土下座をするな。立ちなさい」
「申し訳ありません」
ラビオリさんに応接室で事情を説明しました。
「はぁ、なるほど。正直人手不足なんでこちらとしてはありがたいですけどね。ではミケルさん、明日からよろしくお願いします」
「はい!」
「寮の案内をしましょうか。お嬢様、後はお任せください」
「ありがとう、ラビオリさん」
さて、帰るかなーと思ったら、いきなりドアが開きました。
「お話おわり?」
「お姉ちゃん遊んで!」
「新しいお姉ちゃん?」
あっという間に子供達に取り囲まれました。これはすぐ帰れないなぁ……
「ロザリンドお姉ちゃんは院長先生とお話があるから、新しいミケル先生を案内してあげてくれるかな?できるかい?」
「できる!」
「あんない?やるやる!」
「ミケル先生、行こう」
「あ、はい…」
ミケルは戸惑いながらも子供達に手を引かれていった。賑やかな声が遠ざかり、ラビオリさんと2人だけになる。
「さて、お嬢様」
「はい」
「ウルファネアでだいぶヤンチャをなさったようですね」
「うん?」
なんで知ってるんだ?ラビーシャちゃん経由?
「ラビーシャが商人仲間に協力を求めましたからな。本当に娘か確認されたのと、肉の聖女の商品をクリスティアでも売らないか誘われまして」
「断ってください」
私はなんのためらいもなく土下座をしました。クリスティアでも肉の聖女扱いとか、なんの嫌がらせですかい!
「顔を上げてください。既にお断りしています。話したかったのはそっちではなく、私達親子は貴女に救われました。私の命を差し出したとしても、ゲータを助けるのは難しかったでしょう」
多分、だがゲームのラビーシャはゲータを切って自分と父、ヒロインを救う選択肢を選んだのだろう。ヒロインを誘拐した悪役商人。ヒロインが救われたあとのラビーシャの『貴女が無事で良かった』という台詞は、その背景を知った今超絶重たいなと思う。
「そうですね」
ラビオリさんでもラビーシャちゃんでも、ゲータを救うのはほぼ不可能だっただろう。
「貴女は我が家の恩人です。ですから、危険な事をなさるときにはご相談ください。必ずや力になりましょう。とりあえず、聖女グッズの国内輸入は止めますか」
「是非ともお願い致します!!」
「それから、肉の聖女が貴女だと分からないようにしますかね。よろしいですか?」
「是非ともお願い致します!!」
そして、しばらくしてジェスの魔力安定のためにウルファネアに行ったときにこの会話の結果を目撃するわけですが、どうしてこうなった!?と叫ばずにはいられないできばえでした。
ラビオリさんは多分悪くない。多分。
昨日は忙しくて今頃更新となりました。
しばらく時間が不安定になるかもしれません。なるべく1日1更新ペースは守りたいと思います。