普通に帰らせてよ
今日は快晴です。お城の皆様も見送りに来てくれました。
「本当に本当に本当に本当に本っっ当にありがとう!特に昨日は本当に感謝している!」
うん、ジェスは昨日に引き続きテンション高いな。そんなに嬉しかったのか。良かったね。握手した手がそろそろ痛いから蹴ってもいいですかね。
「ロザリンド、見送りに来た」
「兄上!?」
あれ?第2王子出てきたな。どうした?嬉しそうだね。
「ロザリンドのおかげで聖域から出ても大丈夫そうだ。今まで負担をかけたな、ジュティエス。これなら外交や政務の負担を軽減できるだろう」
「………………」
ジェスが言葉もなく泣き出した。私の肩に両側から手が乗りました。兄と真っ黒様の笑顔が怖いです。超笑顔です。
「「説明」」
「はい!喜んで!」
「ロザリンドがあの黒髪の人を網で捕獲したのに気をとられてジュティエス様のことは忘れてたなぁ」
ディルクがポソッと呟いた。冷気!冷気が!!え?アルフィージ様か!怖い怖い!笑顔が怖いぃぃ!!
「「説明」」
「はい!喜んで!」
超怖いぃぃ!!超笑顔だけど目がマジだよう!
「私も無視したし悪かった。叱らないでくれ。彼女のおかげできちんと政務もできる。びっくりしただけで怪我もない。ロザリンドには感謝している」
兄達はしぶしぶ許してくれました。助かった!
「ありがとうございます、お兄さん」
「…私はお前の兄ではないが?」
「名前、知りませんから」
第2王子は固まりました。首を傾げてなにやら考えています。いや、私に名乗ってませんよ?
「…名乗ってなかったか?」
「はい」
「…すまない。私はジューダス=ウルファネアだ」
「改めまして、私はロザリンド=ローゼンベルクです」
お互い今さらですが名乗りました。
「ロザリンド」
ジェスが真剣な声音で私に話しかけました。ジェスさんや、私そのポーズをウルファネアの王族にされるの3回目なんですが。何?ウルファネアの王族は私に仕えたいわけ?とりあえず、言わせていただきます。
「我が忠誠「これ以上厄介な従僕はいらん」
言わせませんよ?私はすでに貴方の兄と甥を従僕にしちゃってます。これ以上は要りません!しかも実質ウルファネアを取り仕切っていたジェスですよ!マジいらん!ジェスがいなきゃウルファネアが滅ぶっつーの!
「ジュティエス、せめて引き継ぎをしてからにしてくれないか?」
どっかコメントがずれてるジューダス様。問題はそこじゃないわ!!
「こらぁぁぁ!問題は引き継ぎじゃないでしょう!ウルファネア王族がクリスティア貴族の小娘に仕えるとかわけがわかりませんよ!ウルファネアの威信にかかわります!」
「…兄はロザリンドに仕えている。今さらではないか?」
「彼は継承権放棄した上家出?城出?してますから、厳密には一般人です!」
「なら俺も継承権を放棄する!」
「すんなぁぁぁ!」
全力のハリセンがジェスに炸裂した。私の従僕になるために継承権放棄とか意味わからん!
「ロザリンド、諦めろ。銀狼族はこれと決めた主に尽くすのが至上の幸せ。一度決めた主を代えることも、諦める事もない。抗うだけ無駄だ」
なんて迷惑な一族なんだ!
「ジェス、よく考えてください。私は初対面の男性に金的をかませるような女です。胸もないし、性格悪いし、裁縫が苦手でたいしたことも出来ない小娘です」
「これだけ強くて頭よければ充分過ぎねーか?」
「おだまり、カーティス!とにかく、考え直してお願いだから!」
「ロザリンド、俺のような出来損ないは不要か?ロザリンドの助けでようやく人並みに成長できた。だが、確かに君に仕えても、俺に出来ることなど微々たるものだろう」
ジェスは涙ながらに訴えた。いや、政務も王様の世話もこなせるジェスを私の従僕にする方がもったいない。
「正直、ジェスはこのままウルファネアでお仕事して欲しいかな。私の従僕になって付いてくるより、その方がずっと私の助けになるよ」
「主が言うなら仕方ない」
「主にはならん!」
その後も頑張って説得したが、ジェスは聞き入れませんでした。頑固なとこは血筋なんだろうか。
「まぁ、仮契約ということにしたら?これじゃいつまでたっても平行線だよ」
兄の妥協案が受理され、ジェスは私の仮従僕になりました。当面はウルファネアで仕事して、いずれはクリスティアに来るらしいです。来なくていいよ。むしろ私のことは綺麗サッパリ忘れてください。
私達は今、パレードをしています。あれですよ、ブルジョワジーなネズミさん達が繰り広げるファンタジーなパレード的なあれですよ。私はプリンセス的なポジションですかね。ヴァルキリーを模したパレードフロートに立ち、手を振ってます。
聖女様ぁぁぁと泣く声が聞こえますが、気にしません。マッチョがお姉さん座りで号泣してたって今日はツッコミしませんよ。
「ロザリンド、死んだ魚みたいな目をしてないで、ちゃんと手ぐらい振ってあげなよ」
おっといけない。兄に注意されたので表情を作って手を振ります。ものすごい歓声です。
「完璧な作り笑いだけど、目が死んでるな」
カーティスは楽しそうだけど、私は楽しめませんよ。頼むから普通に帰らせてくれよ!
「肉肉肉肉!」
「ロッザリンドォォ!」
「にーくにくにく」
「ロッザリンドォォ!」
人の名前使ってコール&レスポンスすんな!しかも無駄に上手いし!こらこら、おばちゃんたち!これ持ってけってパレードフロートに肉をくくらないでください。ベーコン投げんな!嫌がらせ!?
ジェスと私の不毛なやりとり終了後、さっさと帰る気満々だったのですが、帰る前に凱旋パレードをしてほしい。そのために馬車やらパレードフロートやら作ってしまった。お願いしますと城の重鎮から土下座されました。
私はお断りしたかったのですが、王子様達が了承してしまいました。
「まぁ、仕方ないね」
「ですね」
王子様達にしてみたら、これも外交です。ウルファネアとクリスティアが今後友好にしていくためにいい印象を与えられるだろうと考えたらしい。そしてそういう正論で来られると、断れない公爵令嬢なわけです。
嫌々ながらパンダとしてにこにこしながら手を振っているわけですよ。
そして長かったパレードはようやくフィナーレです。
「ヴァルキリー、飛空艇モード!」
まばゆい光とともに、ヴァルキリーは飛空艇に変形しました。さすがファンタジー。そしてさすがは私の妄想力。
「うおおおお!」
「なんだあれ、かっけぇ!」
主に男性に大人気ですね。クラスメート達も全員乗れちゃうとか、どうひいき目に見てもおかしいんですが、私以外は誰も気にしてないみたいです。
「出発!」
「浮いた!」
「飛んでる!」
さっさと出発しました。飛空艇はメチャクチャ速かったんで、あっという間にクリスティアに着いちゃいました。国境から転位魔法陣使う予定でしたが、飛空艇が速かったので使用せず王都付近に着陸しました。
数日でしたが色々ありすぎてずっと離れていた気分です。
ロザリンドはようやくクリスティアに帰還しました!
これにてウルファネア編はいったん終了になります。次はこそはお家に帰ります。




