ウルファネア最後の夜
さて、波乱万丈な旅行は今日でおしまい。明日は我が家に帰ります。
私はジェスに連れられて、ウルファネアの宝物庫に来ています。いくらなんでもお礼をしないわけにはいかないとジェスに粘られ負けました。宝物なんて要らないのになぁ。
宝物庫に女の子がいるんですが。めっちゃ無表情なんですが。ジェスがノーリアクションなんですが。ど、どちらさま?
女の子に触ろうとしたらすり抜けた。ゆう…いや、精霊さんですね!私精霊眼あるもんね!幽霊じゃない幽霊じゃない!
『これ』
精霊?さんは私に綺麗な鍵と古びた腕輪をくれました。どっちも何やら魔法がかかったモノみたい。
無表情がほんのすこし和らいで、優しく笑って消えました。
「あー、ジェス。これ欲しい」
「鍵と…腕輪?これは何の鍵だ?まぁいい。かまわないが他にはいいのか?救世の聖女の装備品もあるぞ」
「マジで?もらうかはさておき、見たい!」
後悔しました。
とりあえず、救世の聖女が現代人なのは分かった。詳しくはコメントを控えるが、剣と魔法の世界でこれはない!という品々多数。
危険物が多かったので受け取り拒否しました。
唯一これいいなと思ったのが隠れ家の鍵。また鍵かと思うなかれ。鍵を振るとドアが現れ、聖女の隠れ家につながる優れもの。冷暖房完備、上下水道とキッチン完備、マッサージチェアに男女別れた浴場・洗濯室つき。サウナ・ジャグジーつき。食堂と全室個室で6部屋寝室あり。なんというオーバーテクノロジー。超欲しい。
ダメ元で欲しいと言ったら、なんとマジでくれました。言ってみるもんだ。国宝だからとここで埃をかぶるよりいいだろう、との事でした。やっふー!
さて、さすがに宝物庫までは入れなかったディルクも合流して別室でお茶をしています。ディルクは王子の護衛じゃないのかって?その王子様達からの命令です。
「ロザリンドが心配だからついて行ってくれ。アデイル達がいるし、俺は大丈夫だ」
「そうだね。私も(ロザリンド嬢が何をやらかすかが)心配だからついて行ってくれ」
アルディン様は普通に昨日の迷子があったからだけど、アルフィージ様め!ニュアンスの違いを感じ取って元暗殺者3人が笑ってるので全員脛を蹴ってやりました。ふんだ!
本来ならディルクは護衛なんで同席しませんが、私の婚約者で彼も英雄だからと同席してます。ディルクは断ったけど、意外とジェスは押しが強く断れませんでした。まったりお茶しつつ、私はジェスに話しかけました。
「そういえばさぁ、ジェスって大きくなりたい?」
「なんだ、いきなり。まぁ、なれるなら人並みに成長したいがな」
「じゃ、試していい?」
「何をだ?」
「多分ジェスが成長しないのって、魔力が循環してないからなんじゃないかなと」
「…脱ぐの?」
大人しく話を聞いてたディルクが涙目です。いや、脱がんよ。あれはディルク仕様です。
「いや、脱がなくてもコツはつかんだから手で触れる程度でも多分大丈夫」
「急成長して服が破けたりしない?一応掛け物用意しよう」
気が利くマイダーリンは掛け物をジェスに渡しました。私はジェスの手に触れた。そんな期待に満ちた目で見ないで。失敗する!目を閉じて魔力に集中する。やっぱり上手く循環できてない。緩やかに流れを促して、目を開けようとしたら、塞がれた。
「ディルク?」
「成長した…ははは、大きくなったぞ!」
成功したみたいだけど、ディルクに目隠しされてます。なんでだ。
「だ、誰かぁぁ!とりあえずジュティエス様は服をきてくださぁぁぁい!!」
ディルクの悲痛な叫びがこだました。私は目隠しされてたんで分からなかったが、ジェスは犬ドラゴンに変身するので巨大化すると肌に触れてる服などを自動的に収納する魔具を持っていたらしく、掛け物も服と認識されて全裸だったそうです。
私の同行者がディルクでよかった。カーティス辺りだったらふざけてると勘違いして肘を入れてしまったかもしれない。ディルクだからこそ理由があるだろうと私は目隠しされたまま大人しくしていました。
ジェスが服を着たので、ディルクも目隠しをやめました。金髪の美少年は美青年になってました。
「ジェス、イケメンだね!カッコいいよ」
「ロザリンド、ありがとう…本当に本当に本当にありがとう。これでチビだの出来損ないだの生えてないだの可愛いだの合法ショタだのいう輩に陰口を叩かれない!」
「…………」
結構…いやかなり、容姿がコンプレックスだったんだね。私は笑顔で沈黙した。何も言うまい。つうかこんなにテンション高いジェスは初めて見たよ。良かったね。
ジェスに力のかぎり感謝され、私とディルクは客室に向かって歩いた。ふと、天井のレリーフが目に入る。第2王子が気になった。彼はなぜ、出てこない?政務もジェスに任せているようだ。
ふと、宝物庫で貰った腕輪が淡い光を放っているのに気がついた。いや、違う。淡く輝く女の子が腕輪を手に取っているんだ。ゆう…いや、精霊さんだよね!
ディルクが居るから怖くないんだからね!私はギュッとディルクの腕にしがみついた。ディルクのぬくもりが心を落ち着かせてくれる。
「ロザリンド?」
ディルクは私の様子がおかしいことに気がついたみたいだが、理由がわからないみたいだ。
「ええと…幽霊みたいな精霊さんがそこにいるの。でも幽霊じゃないの!幽霊なんて存在しないの!」
「……うん?その幽霊みたいな精霊さんが怖いの?」
「……うん」
仕方なく素直に認めた。ホラーはノーサンキューなんですよ!嫌いなの!幽霊が怖いとか恥ずかしいが仕方ない。
ところでディルクはなんでプルプルしてるんですかね。
「俺のロザリンド超可愛い…」
どの辺りが?私怖いから守ってとか言えないよ?お化け屋敷行ったら悲鳴はギャアだよ?何がツボだったんだい?
「とりあえず、あの辺に居るんだね?すいません、俺の婚約者が怖がってるんでどっか行ってくれませんか?」
微妙に目線があわないが、無表情な幽霊みたいな精霊さんは首をふった。というか、幽霊もどきを説得しようとするとか、ディルクスゴいな!
幽霊みたいな精霊さんは、私の鞄をぺちぺちした。開けろってこと?中から聖樹の結晶、マグチェリアの花、ユグドラシルの果実を取り出しました。幽霊みたいな精霊さんは、それを手に持ってた腕輪に押し付けます。腕輪は形をかえ、優美な蔦模様の新しい腕輪になりました。
腕輪は神々しい光を淡く放っています。
私は、何故か幽霊みたいな精霊さんがこの腕輪は第2王子にあげてと言っている気がしました。別に私はもとからこの腕輪が欲しがったわけではないし、問題ない。むしろめったに姿を現さない第2王子を探して渡すのがめんどくさい。
「あ」
そんなこと考えてたら、漆黒の犬ドラゴンが空を飛んでいます。なんというタイミング!幽霊みたいな精霊さんにまとわりつかれても困るし、さっさと渡してしまおう!
「おにーさーん!」
手を振る私に気がついている様子ですが、知らんぷりしてます。私は指輪でバズーカを作るとためらいなく発射しました。バズーカの中身は投網です。網に羽が引っ掛かったのか、第2王子は墜落しました。
「あ」
「あ、じゃないよ!なんで飛んでる人?に網かけるかなぁ!?」
「無視されて腹が立ったし、用事があったので手っ取り早く捕獲しようかと」
「追いかけるとか他に選択肢があったよね!?」
「1番手っ取り早く捕獲できる方法だと思いました」
「こらぁぁぁ!」
とりあえず第2王子の墜落現場に向かいました。第2王子は庭園で網に絡まりもがいていました。
「こんばんはー、お兄さん」
網を消してあげました。すると即座に人型になる第2王子。
「何の用だ」
「これあげます」
私は先ほど幽霊みたいな精霊さんが作成した腕輪を渡した。この腕輪は多分魔を浄化するためのものだ。彼から一瞬魔の気配を感じた。きっとこれは彼にこそ必要なアイテムだ。
「これは?」
「宝物庫の幽霊みたいな精霊さんから渡すよう頼まれました。きっと貴方の助けになります」
彼が腕輪に触れると、黒いものがどんどん消えていく。あれ?お兄さん泣いてません?
「すいません、怪我は?」
「ない。ありがとう、肉の聖女よ」
「ロザリンドです。次言ったら叩きます」
「ロザリンド、ありがとう」
第2王子は私の手の甲に額をつけた。確か最上級の感謝という意味だったと思う。私は渡しただけだけどね。
第2王子と別れ、手を繋いでディルクと歩いた。
「やり方に問題があったけどあの人、喜んだみたいで良かったね」
「そうだね」
そんな会話をしながら皆に合流して、わいわい皆で話をしながらウルファネア滞在最後の夜は過ぎていきました。