山猫と聖女の不毛な攻防
時間は少し遡る。主犯2名は捕縛され、残るはミケルとトサーケンである。利用された下働きの鼠獣人とシェフは除外。トサーケンは管理責任があるし、ミケルは完全に有罪である。
「ええと…陛下、私ご褒美貰えますよね?暗殺未遂を解決しましたし」
「ふむ?今度こそ何か欲しいものがあるのか?」
「そこの2人の罪を多少軽くして欲しいんですよね。下働きのお姉さんにも、ミケルさんを助けてって言われましたし」
「あ、憐れみ?」
「違います。取引したからです。個人的な話として、私は貴女をさほど嫌ってませんけどね」
「へ?」
呆気に取られた様子のミケル。
「搦め手使わずストレートにぶつかるタイプは嫌いじゃないんですよ。散々挑発しまくっていたぶったお詫びも多少はあります」
ミケルはうつむいてしまった。トサーケンは私に頭を下げる。
「ふむ、無罪放免とはいかぬが…他ならぬ聖女の頼みだ。薬剤師見習いの資格は剥奪だな。聖女の下僕となるがよい」
「は?」
いや、待て!なんでそうなる!私はこれ以上厄介な従者とか下僕とかしもべはいらないし!
「ダメか?」
首を傾げる陛下。いや、ダメかって…あんたは本当に息子と似てますね!
「ご、ご主人様のメイドは私ですから!余計な使用人は不要です!」
ラビーシャちゃんが慌てて私の援護をした。しかしミケルは何かを決意したらしく、私に土下座した。綺麗な土下座だった。
「給金は不要です。食事も残飯で構いません。メイドではなく奴隷でも結構です。ワタクシは許されぬ罪を犯しました。聖女様に少しでも償い、報いたいと思います。お願いいたします」
どうしよう。私的には、約束したし助命嘆願だけして後はジェス辺りが適当になんとかするよねと思ってたんだけど、完全に巻き込まれました。
「今のところ、下僕もメイドも奴隷も欲しくない」
「では、肉体労働でも下働きでも構いません!雑用でもなんでもいたします!お仕えさせてください!お願いいたします!」
どうしよう。なんで獣人は皆して無駄に頑固なんだ。
「なんで私に仕えたいわけ?」
「ワタクシは本来なら死罪でございます。唆された、騙されたは言い訳になりませんし、薬剤師見習いの立場を利用して悪事を働いたことは許されぬ事です。ワタクシは貴女様に命を救われました。ワタクシの命は聖女様…いいえ、ロザリンド様のものにございます」
「重たいわ!別に私は慈善じゃなく、約束したから助命嘆願したんだって!」
「いいえ、ワタクシは幼いながらも聡明で下々の者にも平等に接することのできる貴女様にお仕えしたいのです!お願いいたします!どうか、お仕えさせてください!」
あかん。これどうにもなんない。不毛過ぎるよ。平行線だよ。
「お姉ちゃん、ひろってあげないの?」
「ポッチ、拾うって何!?お姉ちゃんは人間も獣人も拾ったことないよ!?」
「え?ぼくたちお姉ちゃんにひろわれたよね?お姉ちゃんがひろわなかったらたぶん死んでたし」
いや、まぁ…引き取らなかったら悲惨だったよね。
「お姉ちゃん、おねがい。ぼく、いい子でお手伝いしたよね?」
「うっ」
ポッチの悲しげな瞳にいいよと言いそうになる。いや、ダメダメ!ジャッシュのこともあるしリスクは最小限にしたい。
「ロザリンド、どうしてもダメか?この女性はお前の下で罪を償いたいと言っているのだろう?お前が管理している孤児院なら奉仕労働には最適ではないか?」
それは確かに…アルディン様まで捨てられた子犬みたいな瞳でみるのはやめていただけないだろうか。
「それは、まぁ…ですが、犬猫拾うわけではなく人ですよ?簡単に了承できませんよ!」
「ロザリィ、私からもお願いいたしますわ。ウルファネアでは何かとしがらみもありますし、また利用される可能性もあります」
「ミルフィまで…仕方ない。5年」
「!!」
「期限は5年ですよ、陛下」
「うむ。ではそのように。聖女に尽くし、助けとなれるよう努力せよ」
「はい!ありがとうございます!」
ミケルはとても晴れやかな表情で笑った。あれ?トサーケン見とれてないか?実は脈ありだったの?
私がどうでもいいことを考えていると、王様がトサーケンに告げた。
「トサーケンは聖女の兄君に仕えよ。期限は同じ5年。奉仕労働をせよ」
兄が黒い笑顔を浮かべた。兄怖い!
「薬草管理のイロハを完璧に仕込んであげますよ。うなされるレベルで」
草を愛する兄は、薬草を無駄にしやがる輩に容赦しません。
がんばれ、トサーケン。
勝てる気がしないね、トサーケン。
人生は諦めが肝心なんだよ、トサーケン。
こうして、毒殺未遂事件は大体解決したのでした。後で聖女呼ばわりされまくってもスルーしちゃってた自分に気がつき愕然としました。私は聖女なんかじゃないったら!!
慣れとは恐ろしいものですね。いつの間にか受け入れてるロザリンドが居ます(笑)




