聖女になんかなりたくありません。
目が覚めると、暖かいものに包まれていた。もふもふで暖かい…ディルクの匂いがする。というか、なんか声がする…
「本当に仲睦まじいですわね」
意識が一気に覚醒した。獣化したディルクに抱き締められて、幸せに寝ていたらしい。ディルクの寝顔があどけなくて可愛い。しかし恥ずかしい。誰だ、私をディルクの隣に運んだ奴は。まさに天国でした。ありがとうございます。でもびっくりしたし恥ずかしかったので探しだしてしめます。
「お、おはよう。ミルフィ」
「おはようございます」
手早く身支度をしてご飯を食べた。ちなみに私をディルクの隣に運んだのはカーティスでした。ゲンコツしてからお礼を言いました。
今日は市街見学の予定でしたが、私のせいで無理そうです。お外が大変なことになっています。
「肉肉肉肉!!」
「ロッザリンドォォ!!」
「にーくにくにく!!」
「ロッザリンドォォ!!」
「今夜も焼き肉!!」
「ロッザリンドォォ!!」
筋肉ムキムキの白マントの大集団が城の周りをパレードしてます。ムキムキパレードです。嫌がらせですか?儀式ですか?とりあえず実力行使でよろしくて?
「あれは何?」
「すまない…注意したのだが…」
嫌な予感しかしない。肉はともかく人の名前を叫ぶな。聞きたくないが、ジェスさん、説明してください。
「聞きたくないけど、あれは何?」
「聖女を讃えているらしい。一応本人が嫌がるからやめろと注意したのだが、悪気がないせいか次から次が出てきてな…最初は数人の酔っぱらいだったらしいが、気がついたらあの規模に…すまない」
「…なんとかします」
主に、私の心の平和のためにね!
「何をするんだ?」
私はウルファネア王都の広場でヴァルキリーを出した。皆さんわらわら集まってきましたね。兄とアルディン様も一緒です。
「ハル、拡声よろしく」
「はいよ」
ハルが魔法でウルファネア全域に声が届くようにしてくれた。
「皆さん、ウルファネアを救ったのは聖女でも、私でもありません。我が君、アルディン殿下です!我が君は私にウルファネアを救えとお命じになられました。皆が救われたのはアルディン殿下のおかげなのです!新たなる英雄に祝福を!アルディン様万歳!」
「え?ちょっと…」
「アルディン様万歳!」
「小さな英雄万歳!」
手柄をアルディン様に押し付けちゃえ大作戦は成功したようですね。単純なウルファネアの民達は、アルディン様コールをし始めた。さらにダメ押しをする。
「アルディン様、大地のマナを満たそうと思います。私にご命令を。自然回復を待てば、またウルファネアは飢えに苦しみます」
「そうか。ならば頼む。ロザリンド、マナの回復をしてくれ」
「かしこまりました、我が君」
ヴァルキリーに魔力を流す。兄とフィルにも手伝ってもらいつつ、ハク・スイ・アリサにサポートを頼む。
「ヴァルキリー、魔術師モード!」
ヴァルキリーは魔法増幅のため、神官のようなローブを纏い、杖を持った姿に変わった。杖からは緑の魔力が溢れ出す。
『緑の豊穣』
緑と大地の魔力が急激に満ちていく。草が急に伸びだし、作物が一気に育ち、枯れ木のようだった木々には青々とした葉っぱが戻る。さらに、私を食べてと巨大お野菜さんが…
ん?
「ワタシヲタベテ」
「タベゴロヨ」
「オイシイヨ」
町を歩く巨大なニンジンさん、シイタケさん、ゴボウさん…
「残念ながらレンコンさんと筋のとおったフキさんはいませんね」
「ロザリンド、現実から目をそらさない。どうにかしないと」
「えーと…こ、このでっかいお野菜さんは皆様へのアルディン様からのプレゼントです。おいしく食べてあげてください!」
ちなみに、トマトさんとか他にも居ます。先ほどのマナを大地に満たす魔法は植物を急成長させる魔法の応用版である。昨日おばちゃん達にあげたお野菜さん達が、鮮度を保つために地面でお休みしていたため、魔力を吸って巨大化したらしい。
とりあえず刻んでしまおうかと考えたが、無理。私には無抵抗なお野菜さんを切り刻めない…しかしさすがはウルファネア。巨大野菜を怖がる子供がいません。むしろ食べる気です。すげーな。おばちゃん達普通にお野菜さん達削ってるし。母は強い。動じないにも程があるわ。
私が手を下すまでもなく、おばちゃん達がお野菜さんをお持ち帰りしてくれました。後に聞いた話ですが、ウルファネアの主婦は買い物がわりに狩りをします。生粋のハンターだそうです。農作業は子供のお仕事だそうな。狩りを出来て一人前らしいです。文化の違いですね。
「今日は野菜祭りだぁぁ!」
「野菜の小さな英雄様万歳!」
「肉の聖女様、万歳!」
ちょっと待てぇぇぇ!?肉の聖女とかワケわからん!なんでくっつけた!?
「ロザリンドはなんで聖女が嫌なんだ?」
「イメージじゃないから」
「そうか?俺はぴったりだと思うぞ。ロザリンドは優しいからな。俺が頼まなくとも、ウルファネアを助けただろう?」
「そうですね。ウルファネアの食糧難をどうにかするために、妹は僕に頭を下げたぐらいです。僕もロザリンドが聖女に相応しくないとは思わないけど?」
「私は清らかじゃないです!相応しくないです!助けたのはウルファネアにでっかい恩を売るためです!」
「ウルファネア国王からの褒美だって金銭や物ではなく治療を受けて欲しいだったしな。その心根はまさしく聖女だと思うぞ。諦めろ、ロザリンド」
「それに肉の聖女とか面白いじゃない。なんかロザリンドらしい。野菜より肉を狩るイメージだし」
「兄様!?どんなイメージですか!?」
「いや、最近マーサとかと、魔物狩ってくるし」
なんということだ。兄の中で私は狩猟民族になっちゃった!?
「ああ、確かに弁当のおかずがたまに…」
納得しないで、アルディン様!!
2人は声を揃えて言った。
「「諦めろ」」
「うわぁぁん!イヤだぁ!」
この後もあの手この手を使いましたが、私は肉の聖女で定着。アルディン様は野菜の英雄になっちゃいました。
昨日は肉祭り、今日は野菜祭りとして以後ウルファネアの夏の公式行事になってしまったと数年後ウルファネア訪問をした私は知ることになる。
肉祭りは白いマントを着て、肉とロッザリンドォォを交互に唱えて肉の聖女を讃えつつ、お肉を食べるお祭り。
野菜祭りはウルファネア名物になっちゃった喋るお野菜さんをたくさん捕まえた人が優勝というイベントになったそうな。何故野菜の英雄は消えたのに肉の聖女は残ったんだ!納得がいきませんでした。
本当にどうしてこうなった!?
肉の聖女が残ったのは、多分ヴァルキリーやらロザリンドのインパクトがあまりにも強すぎたためと思われます。アルディン様とロザリンドだと、やはりロザリンドが強烈でしょうしね。




