ウルファネアと奴隷
本日、ついに旅行です。
「…なんで居るんですか?」
集合場所には兄と真っ黒様が居ました。兄は分かりますけども。ユグドラシルを復活させても食糧難はすぐ改善されない。そこでハクと兄の出番である。広範囲に耕すことが出来るハク。兄と組めばその土壌に合った植物をチョイスしてくれます。なので、私から依頼しました。ジェスにも言ってあります。
しかし本当に真っ黒様はなんで居るんだ。
「…裏技?」
なぜだ。金で解決…というフレーズが脳内を流れました。落ち着け、私の脳。
「えーと、買収?」
「それと脅迫かな?」
もっとタチが悪かった!ニッコリ笑って言うことか!この真っ黒様!
「兄上も行くのですか?」
癒し系わんこ…じゃなかった。アルディン様がキラキラと期待した瞳で真っ黒様を見つめます。
「うん。国外にアルディンと行ける機会なんてそうないからね」
「うわぁ!嬉しいです!兄上兄上!たくさんお話したいです!」
「…可愛いですね」
「だろう」
ドヤ顔するアルフィージ様。うん。可愛いよ。ピョンピョン跳ねてるし。よかったね。兄上好きだもんね。
「うちのロザリンドだって「それはもういいから!!」
兄を遮る私。言わせないよ!?
「ロザリンド、よろしくな~」
「よ、久しぶり」
「相変わらず可愛い…イテッ!?」
「俺も居るからね」
元暗殺者3人+ディルクは王子様達の護衛任務だそうで。アルディン様にディルクを捩込んでと頼んであったので、予想通りです。
私の護衛はハク。ジャッシュとジェラルディンさんとマーサは行きたがったけど却下。特にジャッシュ。お前死んでないのばれたら厄介だから!ジェラルディンさんもついて来ると私がウルファネア王宮に強制拘留されかねないから却下。
マーサには不在の間、家をお願いします。信頼してますと言いました。ちゃんと納得してくれましたよ。
馬車だとウルファネアまで最低10日はかかるので、国境までは転移魔法陣で移動。そこからは私の魔獣さん達…という名目で巨大化できて飛べる闇様・クーリン・コウともふ丸に運んでもらうことに。もちろん騒動になると困るんで目くらましの魔法を使いましたよ。
あっという間にウルファネア王都に到着しました。
迎えに来たウルファネアの騎士さんに引率されて1列になって歩く。
「なんというか…」
「さびれてますわね」
「前はこんなにさびれてなかったよぉ…ユグドラシルさんの影響かなぁ…」
ハクは困った表情だ。町の人達も痩せていて、どこか活気がない。せっかくのもふもふパラダイスなのに、毛艶が皆悪いなぁ…
「きゃあ!?」
ミルフィが少年にぶつかられた。私が素早く少年に足払いをかけ、転倒させる。ミルフィはサボさんがとっさにかばったらしく、転ばずにすんだ。
「貴様、盗人か!」
スリだろうな。ミルフィの財布を盗ってるし。しかし、私はにっこりと微笑んだ。私はスプラッタも子供が暴力を振るわれるのもごめんである。確かに犯罪は犯罪だが、食うに困った子供が犯罪を犯すのは国家にも責任があるだろう。
「お前、私の親友の財布を拾ってくれたのね?」
「「「は?」」」
ミルフィ、少年、騎士がポカーンとした。しかしミルフィはすぐに私の意図を悟ったらしい。
「あらあら、私の財布を拾ってくださるなんて親切ですこと。それが無いと困るところでしたわ」
「…子供とはいえ罪は罪です。裁かねばなりません」
騎士の言い分も分かる。彼は私達が少年を庇おうとしているのを理解して私達を諭しているのだ。彼は正しい。しかし、人は人。私は私だ。私は騎士を蹴飛ばした。
「無礼者!私が嘘をついているとおっしゃるの!?」
私に蹴り飛ばされた騎士は呆然としている。周囲の案内役の騎士達も同様だ。
「…もう一度問いましてよ。この、私が、嘘を、ついている…とおっしゃるの?」
全身から殺気を滲ませ、にっこりと満面の笑みで問いかけた。
「…い、いいえ!すいませんでしたぁ!!」
土下座されました。いや、そこまでは求めてないから。土下座しなくてもいいですよ。少年はまだポカーンとしている。
「お前、私の親友の財布を拾った褒美に私達の案内をする栄誉を与えてあげる。ちゃんと案内料金も払ってあげるわよ。いかが?」
「へ?あ、はい?」
「ではミルフィ、アルディン様、まいりますわよ!」
「そんな勝手に…!」
騎士が制止しようとしたが、私は騎士をハリセンで叩いた。綺麗に回転して吹き飛んだ騎士。やっべ、やり過ぎた?
「私は私の好きにいたします。騎士風情が私に命令しないでちょうだい!」
私のハリセン攻撃で格の違いを理解したらしく、騎士はもう誰も私を止められなかった。
「さぁ、まいりますわよ。ハク、貴方もついて来なさい」
さて、適当な路地まで少年を連れ込んだ。アルディン様、ミルフィ、ハク、ディルク、ラビーシャちゃんとジルバがついてきました。アルディン様が私に注意する。
「ロザリンド、やり過ぎじゃないか?」
「私もやりたくてやったわけではないんですよ」
ジャッシュによるウルファネア講座…ジャッシュいわく、ナメられたら厄介だからとにかく強気で。女王様になったつもりでと言われたから仕方ない。
「…なるほど」
「おかげでハクのおねだりを叶えてあげられそうね」
「ロザリンドちゃん…」
「ねぇアンタ、名前は?」
「…シーダ」
スリ少年は鼠さんかな?小汚い服でやせ細り、まぁるいお耳と細い尻尾をしていた。
「じゃあシーダ、アーコギ商会知ってる?」
「…知ってる」
「案内して」
「ロザリンドちゃん、無駄骨になるかもよぉ?ボクが頼んでおいてなんだけどぉ…」
「なりません。大金積んででも情報を引き出します。交渉は頼りにしてますよ、ラビーシャちゃん」
「ご主人様の御心のままに。頑張ります!」
そして、アーコギ商会到着。シーダは一応浄化で小綺麗にしてやりました。年齢も多分私と同じぐらいだから、私の服をあげました。いや、汚いと見た目で明らかに浮くからさ。
「なんといいますか…」
「成金趣味?」
ゴテゴテしてるなぁ…という感じ。金箔でギラギラです。
応接間に通されました。お忍びとはいえ、王族+公爵令嬢2名ですから超VIPですもの。商人にとって情報は命。子供とはいえ大事な顧客として扱うつもりのようですね。
「お待たせしました」
余談だが、隣のクラスに豚獣人の女の子がいる。ぽっちゃりしていて可愛い。同じ豚獣人なのに、この商人が醜悪な気がするのはなぜだ。豚商人は気持ち悪い笑みを浮かべて私に聞いた。
「何をお求めでございますか?」
「お嬢様は奴隷が欲しいそうですわ。ハク」
「321番と322番…2人の奴隷をお願いしますぅ」
「ふむ…かしこまりました」
薄汚れ、やせ細った2人を商人は連れて来た。1人は…熊の姿をした多分男性。1人はリスかな?小柄な女性だ。彼らは死んだような表情をしていたが、ハクを見て明らかに驚いていた。
「この2人で間違いはありませんかな?」
ハクが頷いた。私も頷く。ラビーシャちゃんが対応した。
「この奴隷達でいいそうです。2人でおいくらですか?」
「そうですね。金貨10枚でいかがですか?」
「こんな薄汚れた奴隷に?」
ラビーシャちゃんは馬鹿にすんなといいたそうだ。大体金貨1枚は10万円ぐらいです。後で聞きましたが相場の10倍ふっかけられたらしいです。私はラビーシャちゃんにしか聞こえない声で囁いた。ラビーシャちゃんは頷く。
「…それでいいわ。ただし、サービスしてくださる?クリスティアでは奴隷は違法。奴隷紋を解除してください」
「…ほう。よろしいのですか。奴隷紋は逃亡防止や主に危害を加えさせないための安全装置でもあるのですよ」
「ご主人様はそれでよい、とおおせです。支払いは宝石でよろしいですね」
豚獣人の前に代金がわりの宝石を出した。
「では、呪い師を」
呪い師とはウルファネア等の奴隷制度がある国に存在する職業である。主な仕事は奴隷紋の管理。呪いのスペシャリストだ。
インコ…かな?羽がど派手な青年獣人が来た。彼はアッサリと奴隷紋を解除し…ハクを見て驚愕した。
「お前…なんで奴隷紋がない!」
「えぇ?」
「私達は知りません。ハクを拾った時から奴隷紋はありませんでした」
「……そんなはずはない!俺の呪いは完璧だ!勝手に解除されるはずがない!」
まぁ、確かにアリサが解除したんだけどね。
「言え!どうやって解除…ぐは!?」
ハクにつかみかかったため、私はハリセンで攻撃した。床に転がるインコ男。私は男に怒鳴った。
「うちの子に何すんの!この子は私の加護精霊です!害する輩は滅ぼしますよ!!」
「邪魔す…!?」
何か呪いを使おうとしやがったので、とりあえず跳ね返してやった。ふーん、拘束系か。便利そうだね。喋れるみたいだから拷問用かな?…あ、あれ?インコがキラキラしてないかな。見なかった事にしていいかな。このパターンは嫌な予感しかしないよ!
私は涙目でハクを見た。ハクは頷いた。ディルクも察した。
「無礼者は許してあげますわ!全員撤収!!」
厄介ごとはごめんです!
36計逃げるにしかず!
私はミルフィを。ハクは熊さんとリスさん。ディルクはアルディン様とシーダをそれぞれ担いで一斉に逃げ出した。ラビーシャちゃんのみ手ぶらです。
「うえ!?」
慌てて追いかけるジルバ。しかし、担いでいてもこのメンツは速い。
また路地裏で一時休止した。
「はし、るなら、はし………げほっ」
ジルバは文句を言いたいようだが、言えてない。こいつ鍛え直したほうがいいかもなぁ…ミルフィのためにも。
「さて、熊とリスの獣人さんでいいのかしら?」
2人は頷く。
「生きててくれてよかったぁ…」
ハクは涙を流しながらそっと元奴隷2人を抱きしめた。2人は戸惑いながらハクを撫でる。
実はウルファネア出発の前日にハクに相談されていた。彼に家族は居ないが、家族のような奴隷仲間が居たのだ。もう死んでいるかもしれないが、生きているなら一緒に暮らしたい。ハクは私に泣きながら懇願した。お金はなんとかするから、お願いしますと言った。
ハクは働き者でおりこうさんでうちの子である。私が彼の願いを叶えない理由がない。
「貴方達はうちの住み込み使用人として扱います。給料なんかは私の用が終わってから相談で」
「あのぉ、2人を買ったお金はぁ…」
「今までハクが受け取らなかったお給料から支給します」
「えぇ…」
「拒否は認めない。彼らの衣食住にかかる費用も当面そこから出します。彼らがお給料貰うまで、ですが」
「だからお給料いらな「私と兄様を説得できたら考えます」」
「諦めたら?分かりにくいけどロザリンドはお給料は無理矢理でも受け取らせる。拒否は絶対認めないって言ってるよ」
「諦めが肝心ですわ」
「ハクは働いているのだろう?何故給金を拒否するんだ?」
ディルク、ミルフィ、アルディン様に言われオロオロするハク。
「あううぅ…だってボクは奴隷ですぅ。働くのは当たり前で、今ご飯もお腹いっぱい食べてよくてぇ…幸せ過ぎるんですぅ。お給料なんてぇ、分不相応ですぅ」
「…ハクは給金に見合う働きをしているとロザリンドが考えている。そして、クリスティアには奴隷は居ない。お前はただのハクだ。俺もきちんと働いた分は貰うべきだと思うぞ」
「………はいぃ」
「とりあえず、ハクはいったんウチに2人連れてって。話は通してあるから大丈夫。積もる話もあるだろうから一泊ぐらいはごまかすけど、どうする?」
「ううん、ボクはマーサさんからお願いされてるからぁ、すぐ戻るよぉ」
ハクはにっこり笑って2人を連れていくと、すぐ戻ってきた。
「帰ったら楽しみだね。何話すか考えといたら?」
「ロザリンドちゃん…」
ハクのつぶらな瞳からポロポロ涙がこぼれた。
「キミに会えて幸せだよぉ。ありがとうぅ…こんな幸せ、しらなかったぁ…夢じゃないよねぇ?キミは消えないよねぇ?」
「ハク…」
私はハクに手を伸ばし、デコピンをかました。
「痛いぃ!?」
「夢じゃないでしょ。序の口よ。ハクはもっともっともーっと幸せになるんだよ」
「…うん」
ハクはにっこりと笑った。なかなか昔の体験から幸せになることに罪悪感があるみたいだけど、こんなに優しいのだから幸せになって欲しいと思った。
まぁ、うちの子を不幸になんか私が絶対させませんけどね!
ハクは28歳なんですが、内面が幼いせいかロザリンドにはうちの子認定されてます。
うちの子=庇護対象です。




