幸せになってみせます
目が覚めたら、見知らぬ天井だった。いや、私はこの天井…部屋を知っている。おかしいのはこの部屋ではなく私自身。
縮んだ両手はありえないほど白く、黒かったはずの髪は輝く青銀になっている。周囲は乙女チックなレースとフリルで飾られた乙女空間である。なんとかベッドを下りて鏡台の鏡を覗き込むと…
子猫みたいに釣り上がった瞳は紫水晶のよう。長い睫毛にゆるくカールした青銀の腰に届くほど長い髪。縦ロールでこそないが…天使のごとき美少女。私に囁く記憶が、私が死ぬ間際までやっていた乙女ゲームのやたら死ぬ悪役令嬢であることを告げていた。
「あうとー」
思わず呟いた私は多分悪くない。詰んだ、いや詰んでいる。
多分私が死んだであろうこともショックだが、目覚めて悲惨な死に方しかしない悪役令嬢として目覚めた現在の方が果てしなくショックだ。あのゲームは私…ロザリア=ローゼンベルグに恨みでもあるのかと思うぐらい私が死亡することが多かった。
どうしよう。
とりあえず私の脳内はその一言に支配された。
何もいい考えが浮かばず、部屋でぼんやりしてるとノックと共に年配の女性が入って来た。女性はきつめの美人で我が家のメイド長、マーサである。
「おはようございます、お嬢様」
マーサは優雅に一礼すると私の世話係のメイドに指示を出し着替えさせた。そして私は食堂に連れていかれた。
食堂には私だけ。ぼっちである。朝食はパンとスクランブルエッグ、サラダにスープ。普通のメニューだと思いきや、パンが固く苦心して食べた。ちぎるのも噛み切るのも大変だった。
確実に顎が丈夫になりそうな食事をしつつ、私は考えた。
健康なこの体。以前と違い、走ることだってできる。お金も地位もある。不安要素は死亡フラグのみ。私は決意した。
私は私として、幸せに生きようと。