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夢使いフェレン  作者: 角 風蓮
3/3

1 夢の墓標

 小さな墓に、花を供える。それは、夢の墓標。

 夢を叶えられずに死んでいった、沢山の人々の墓場。

――あと。

 あと、どのくらい。哀しき墓を造らねばならないのか。

 この世に漂う「思念」の数は未知数で、おそらく、死ぬまでずっと――

「逃げてもいいんだぞ」

 優しくユグドが言った。

「夢使いは他にもいる。悲しみから、逃げてもいいんだ」

 フェレンは首を振った。

「駄目。悲しくても……辛くても……あたしは知っているんだから。『思念』の持つ、強い願いを」

 だからこそ、彼らに話しかけ、浄化する。

「これは、あたしの償いなんだ。だから ユグド……。もう二度と、あたしに『逃げてもいい』だなんて言わないで」

 強く見える彼女でも。逃げたくなるときがあるから。

「あたしは夢使い。悲しみも、苦しみも。すべて……受けて立つわ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


――どうしても、滅ぼしたい人間がいた。

 なぜなら、そいつは。彼のすべてを奪ったから。

 けれど、復讐は果たされることはなかった。彼は、死んでしまったから。

 そして今。一人の『夢使い』の少女が、『思念』となった彼に話しかける――。


「あんた……おれが見えるのか……!」

「あたしは夢使いよ。見えないわけがない」

「そっちの……妖精さんは?」

「ユグドのこと? 彼は人間じゃないもの。あんたを見られる。あ、でも、あんたに言葉を伝えることはできないわ。大丈夫、あたしが通訳する」

 彼女の対話している『思念』は、瞳に憎しみの炎を宿していた。……復讐者、か。よくあるパターンだ。

「あなたの願いは何? ……なんでもいい、すべて叶えるわ」

 すると、『思念』は言った。

「……あるやつを、殺してくれないか」

 押し殺したような、低い声で。

「名は、ドゥナダン。それしか知らない。けど……やつは、おれのすべてを奪ったんだ。そいつが死ななきゃ、おれは成仏出来ないんだ。……頼めるか?」

 それは、『思念』の大半が、夢使いに望むこと。

……もう、慣れた。

「誰に言っているの? あたしはベテラン夢使いよ。こう見えて、とても幼いときから夢使いをやってきたわ。殺す相手はドゥナダンね? 世界の果てまで探しだしてみせる」

 殺しなんて、もう慣れた。

 『思念』は、深く礼をした。

「ありがとう……。そして、済まない……。おれには生きている者に触れることはできない。代わりに重荷を押し付けることになってしまって……」

 そのとき、フェレンの瞳がちらりと揺れた。とても強い意思の力で、湧きあがってきた想いを飲み下す。

「……気にしないでよ。慣れてる」

 修羅の道を歩む以上、心を惑わせるなんて許されない。

「じゃあ、いってくるわ。……ユグド!」

「了解」

 フェレンは『思念』に背を向けた。

「名は、名乗らないで。『夢の墓標』の名は、あたしがつける」

 そう言って、その場をあとにした。

 誰もいなくなった荒れ野には、哀しき『思念』が残るのみ。

まだ続きます。

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