その89 馬小屋で
正体不明のドキドキに戸惑いながら、夜。
リーフたちが寝泊まりしているのは、馬小屋の二階部分。二階と言っても、ロフトみたいに床があって階段があるだけの簡単なスペースだ。
リーフとクルトの部屋は薄い板の壁で仕切られただけ。お互い何をしていても物音で分かった。
キシッ・・・リーフがベッドのふちに腰かける。隣からも同じ音がした。
「ねぇリーフ、ここの匂いは慣れたかい?」
まるで隣に座っているみたいにクルトが話しかける。
「うん。最初はすぐ下にいる馬の匂いが厳しかったけど、クルトが言った通りすぐなれちゃったよ。」
「そう、よかった」
ドサッ たぶんベッドに寝転んだ音だ。
リーフも寝転んだ。なぜか小学生の時の修学旅行を思い出した。
「ねぇリーフ、ツバサの国に来たことはあるかい?」
「ううん、ないよ。とても大きな国だってことは聞いたんだけど。」
「そう、すごく大きな国なんだ。ここ、ヒョウガの国も大きいけど、ほとんどが寒さで閉ざされた土地だろう?ツバサの国は国土の大半が気候が良くて、肥沃で、豊かに栄えた大きな町がいくつもあるんだ。」
「へえ・・・すごいなぁ。ボクも行ってみたい。」
「ほんと?!」
ガバッと体を起こした音の跡、クルトはリーフの部屋にバンッと入ってきた。驚いてリーフも起き上がる。
「わ、びっくりしたぁ。どうしたの、クルト。」
「ね、リーフ、行こうよ、一緒に、ツバサの国へ!」
「えっ?!」
クルトはリーフの正面に立って、まっすぐに見つめた。
「ぼく、リーフと一緒にずっと馬の世話が出来たらいいなって思ってたんだ。ツバサの国には珍しい馬がいっぱいいるんだよ!」
「あ・・・うん、楽しそうだね。でもボク、このお城にお金で買われた身だから、勝手には行けないかな・・・」
とっさにクルクルが考えた設定を思い出すリーフ。
「そんなの、ぼくが必ず返してあげるよ。君を自由にしてあげたい。」
クルトはきょとんとするリーフの手を取った。
「え・・・でも・・・」
「返事は今すぐじゃなくていいよ。どうせしばらくはこのお城から離れられないんだしね。
ねえ、お休みのキスしていい?」
リーフは握られている手にキスをするのかと思って、いいよ、と言った。
でもクルトはその手をぐっと自分の体に引き寄せて、唇にキスをした。
「!!」
突然だし長いし驚いたけど、嫌ではなかった。
リーフはその間身動きせずに目を閉じる。
ヒヒン・・・下の馬小屋で馬がかすかに鳴いた。
馬小屋の入口で、二階部分を見る人影がある。
エリー姫だった。
姫はクルトとリーフが築く前に小屋を離れた。
「まったく・・・卑しいものは卑しいものといやらしいことをするのね。
まあお似合いだわ。」鼻で笑う。
エリー姫はちょうど寝室に向かうブルー王と会った。
「あら、ブルー様。これからお休みですの?いつになったらわたくしもご一緒できるのかしら・・・」
ブルーは表情を変えない。
「・・エリー姫、このような時間に侍女たちもつけずどちらに行かれるのですか?」
「いえ・・・明日の遠出のためにわたくしの馬を見ようと馬小屋に行きましたの。
そうしたら・・・馬番の二人がキスしていて・・・いやらし・・・。
それですぐに引き上げたんですのよ。」
ブルーの表情が変わった。




