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ケーキなボクの冒険  作者: 丸めがね
紅い髪の少年ロック、エリー姫の秘密
105/207

その105 蜘蛛の女

緑のマントを被った女は、クルトによく似た美しい顔をしている。

ただその長い髪の毛は、金髪ではなく暗い紫色、生気のない瞳も、茶色ではなく血の赤色だった。


彼女が人ではないことは明らかだ。


「どうだ」女は無機質に言った。

「すぐに絶望の扉が開くでしょう」クルトが膝をついたまま答える。

「そうか」


マントの女は、クルトの顔を見て何かを言いかけたが、やめた。

いつもと少し違う息子の顔。


女はクルトに小さな黒い瓶を渡す。

クルトはそれを皮の袋に包んで胸元にしまった。


「決して振り向くな。」

女はクルトを通り過ぎて雪の森に帰っていく。


その後ろ姿は歩くたびどんどん大きくなり、形が変わり、緑色の大きな蜘蛛になった。

恐ろしいことに、その足には世にも恐ろしい形相をした女たちの顔が付いていた。

1本に1つの顔。8人の女の顔が。

その8つの恨みの叫び声とともに、クルトから母と呼ばれた女は消えていった・・・。




リーフが目覚めたのは夕方だった。お昼前から眠っていたので、昼寝にしては長かった。


「誰かがベッドに運んでくれたんだな・・・。」

起き上がろうとしたとき、今見た夢のことを思い出した。


裸にされ、手足を縛られて、誰かに激しく求められてしまう夢・・・。

夢のはずなのに、快感も痛みも生々しい感触が残っている。

「うわ~・・・。ボクなんちゅー恥ずかしい夢を見てるんだろ・・・。この世界に来てからいろいろ・・・いろいろされたからなぁ。いかんいかん」

一人顔を赤くしながら、自分がちゃんと服を着ていることを確認して安心した。


リーフが大急ぎで、キッチンを借りてエリー姫の夕食の準備をしていると、ロックがニコニコしながら近づいてきた。

「あ、ロック、お夕飯少し待っててね。先にエリー姫のハーブケーキ作っちゃうから・・・。」

「は~い。ところでリーフ、どうだった?」

「え?なにが?」

リーフはケーキ作りの手を止めずに答える。


ロックはリーフの微妙な反応に、2秒ほど考えた。

そしていつも調子で明るく言う。「ううん、なんでもないよ!」


(サスケ、寝てる間にやっちゃったのか)このつぶやきはもちろんリーフには聞こえていない。


1時間ほど前、サスケはリーフと結ばれた証拠を持ってきた。

ロックはそれを見て、「さぞ痛かっただろうね」とだけ言った。




3日目の夕飯をエリーの部屋に運ぶリーフ。

体に優しそうなハーブケーキと、ベリー系の果物を混ぜた解毒のお茶。


コンコン

ドアをノックして入ると、エリーはいつものように窓辺のイスに腰かけて座っていた。

窓辺と言っても洞窟なので、窓から見えるのは岩肌のみ。


エリーがリーフの方を見た。いつもは視線だけ寄越すのだが、今回は顔全体をリーフに向ける。


リーフは「あっ・・・・」と思った。顔中、体中がむくんでいたのに、今は少しスッキリしたように見える。肌の色も艶が出てきた。何よりよどんでいた瞳に光がある。


「すごい!」思わず声を上げるリーフ。

「エリー様!すごい良くなってますよ!なんていうか、綺麗です!!

こんなに早く治るなんて、すごいです!!」


エリーは目を丸くした。綺麗、と本心から言われたのは生まれて初めてかもしれない。

実は自分でも、体が軽くなり、肌を触った感触が良くなり、気分も良くなっているのを感じていたのだ。


エリーの茫然とした沈黙を怒っていると思ったリーフはなるべく近づかないように、窓辺から遠くのテーブルに食事が乗ったトレイを置いた。

「すこしでも、食べてくださいね。」

と言って部屋を出ようとしたとき、後ろからつぶやくような声が聞こえた。


「・・・本当に、お母様が用意して下さった食べ物には、毒が入っていたのかしら・・・」


バッと振り向くリーフ。姫は何もない窓の外を見ていた。


体にたまった毒と一緒に、気持ちの毒も出て行ってるのだろか、姫が素直になった気がする。

リーフはエリー姫がとても寂しそうに見えた。


「そうかもしれないけど・・・、食べ物に入っていたのは毒かもしれないけど、もしかしたら王妃様は本当に薬だと思って・・・、勘違いしてエリー姫にあげてたのかもしれないよ・・・!」

エリー姫は必死に言うリーフにフッと笑った。



それからエリーは、用意された食事をすべて食べるようになり、一言二言、リーフに話しかけるようになった。

クルトとロックも、姫を励ますために大いに活躍した。

ロックは底抜けの無邪気さと話術で、旅の話など聞かせて楽しませ、クルトは歌を歌ったり楽器を弾いたりして心を癒した。

サスケは雪山にしか生息しないという貴重な解毒の薬草を、何種類も取ってきてくれた。


エリーはみるみるうちに、醜いアヒルの子が白鳥になるかの如く、美しくなっていった。


肌は陶器のように透明感がある艶やかな白に、声もよく響く綺麗な声に、体も余分な水分と脂肪が抜け、スッキリした長身になった。髪だけは、長年にわたって蓄積された毒が抜けず、エリー姫は自ら長い髪をショートカットに切ってしまった。


洞窟に来てから5日、エリー姫は凛々しい美女に変身した。



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