桜庭麗華
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その出会いは桜庭麗佳の人生を変えた。
その出会いは桜庭麗佳の価値観を変えた。
その出会いは桜庭麗佳にとって、まさに衝撃的で運命的なものだった。
三年前、彼女がとても可愛がっていた愛犬のレオンが死んだ。物心ついた時からずっと一緒で一人っ子だった麗佳にとって兄妹のような存在だった。
レオンが死んでからは食欲もなく、何事に対しても手付かずの状態だった。そんな日が何日も続き、それを見かねた家族が麗佳にカウンセリングを受けさせた。それでも、効果は現れることはなく、やがて学校にも行かなくなった。
高校受験を控えた十四歳という、とても大事な時期に不登校はまずいと、彼女は自分でそう思いながらも気力が湧かなかった。
そんなときだ。
麗佳はボリュームがマックスになっている事に気づかずラジオの電源をONにする。
すると、耳をつんざくような割れた汚ならしい音が部屋中に響き渡った。 麗佳は慌ててボリュームのつまみを回して下げた。汚ならしい音はすぐに綺麗な音へと変わった。
ラジオから流れていたのは、麗佳が普段嗜むことのない洋楽だった。
衝撃だった。 この世界にこんなにも素晴らしいものがあるのかと麗佳は思った。
その音楽こそが、愛犬のレオンの死から未だ立ち直れないでいた麗佳を再び奮い立たせるきっかけとなったのだ。
それこそが、麗佳と“レッドウィークリー”の出会いであった。
それから三年、麗佳はレッドウィークリーの一ファンとよべる枠には収まりきらず、狂信的な信者と化していた。
そんな麗佳にとって、レッドウィークリーが極秘来日している情報を得るなんて造作もないことだった。
「来日は一週間後、目的は新作アルバムのレコーディングかー楽しみだなー」
来日目的が、新作のレコーディングという情報までも得ている麗佳は上の空の様に呟いていた。
なにせ、五年前に活動を休止したレッドウィークリーを麗佳が知ったのは三年前であるから、麗佳にとってレッドウィークリーの新作、及び来日はファンになって初めての事なのだ。
麗佳はすでに心に決めていた。
レッドウィークリーのレコーディング現場に張り込むと。
この目で、この耳で、確かめなくてはならないと心に決めていたのだ。
一週間後、遂に待ち焦がれたこの日がやってきた。
レッドウィークリーがレコーディングを行う場所や建物も把握しており、用意していた双眼鏡などの準備も、もちろん万全だった。
高校入学の祝いとして、母から贈られたかんざしで髪を束ねて気合を入れる。
午後二時頃、予め下見を行いレコーディングスタジオ正面入り口が見えやすい、ビルの屋上を発見していた麗佳はそこを拠点として張り込むことを決めていた。正面入り口屋上に到着した麗佳は、当たりを見渡した。本当にこんな殺風景な場所にレッドウィークリーが来るのだろうかと疑念を抱き始めたちょうどその時、左方から人影らしきものがこちらに近づいて来るのに気づいた。
すぐさま、双眼鏡を目に当て、その人影を確認する。人間が三人、並んで歩いてるのが確認できたが、その容姿や体型はここからでは遠すぎで確認が取れない。さらに双眼鏡の倍率を上げてやっと確認ができた。
麗佳はハッとする。双眼鏡で覗いたその奥に、夢にまでも見たレッドウィークリーであるメンバーが三人肩を並んで歩いている事が確認できたからだ。
思わず、視界が涙で霞む。
当然だ。愛犬のレオンが死んで、塞ぎ込んでいた自分をまた奮い立たせてくれた存在が、今まさに目の前にいるのだから。
今すぐにでも、あの三人の目の前に飛び出して行きたい、声をかけたい。しかしその気持ちをグッと抑える。レッドウィークリーにとってこれは極秘来日なのだ。自分のせいで、レッドウィークリーの気を損ねてしまうわけにもいかない。
静かに遠くで双眼鏡越しに彼らを見る事が出来るだけでも自分は幸せなのだ、と言い聞かせる。
しかしら麗佳はそこで不審な者を発見した。
双眼鏡のその先で近づいてくる彼らの背後に明らかに尾行の様な動きをしている人物がいるのだ。
双眼鏡を不審な人物に向ける。ここからの距離でも分かるような中肉中背の中年男性であることが確認できる。
レッドウィークリーがレコーディングスタジオに入っていった。
後を尾けていた不審な男は、今度はスタジオビル周辺をキョロキョロとしている。
ほどなくして、静寂を打ち砕くレッドウィークリーの演奏が始まった。麗佳は興奮した。彼らの生の演奏を、目の前で聴いているのだ。耳に入ってくるその音で、麗佳の動悸が早くなる、身体中が疼いた。自分のためだけの独占ライブのような悦に入ってる時に、不審な男がレコーディングスタジオのビルに入って行くのを目撃した。
「なっ!? 」
無意識に声が出てしまった。
声を出したことに自分でも驚いていた、が、それよりも不審な男に驚いた。
何が目的なのか? 思わずにはいられなかった。
あのビル内で、何か事件でも起きていたらどうしようと不安が心に募ったが、それからすぐに男はビルから出てきた。演奏は鳴りやんではおらず、ひとまず安心した。それからも、麗佳は男の観察を続けた。
不審な男は、レコーディングスタジオの隣のビルの窓ガラスに拾った岩を投げつけて割った。
ためらうことなく、中に侵入するとそのままベランダの方へと、出てきた。
壁に背もたれ座り、レコーディングスタジオの方に視線を向けてることが分かる。
そこで麗佳は「なんだ、あの人も私と同じでどっからか情報を得たファンか」と思い、警戒を解いた。
きっとそうだ、情報を得たのは私だけではない、そういうこともあるだろうと思いながら、再度、鳴りやまないレッドウィークリーの演奏に耳を傾けた。
あれ?ここ?寝ぼけ眼を擦りながら麗佳はハッと起き上がる。
寝てしまった。こんな大事な時に、麗佳は思わぬ失態を犯してまった。
今何時!? と、携帯電話をチェックする。
携帯電話はAM6:00を示しており、麗佳は驚いた。
一体、自分が何時に寝たのかさえも記憶にない。
思い出したかのように、双眼鏡を目に当てレコーディングスタジオを見る。演奏は既に鳴りやんでおり、辺りを静寂が包んでいた。
あの男は!? 双眼鏡を隣のビルに向けるが、不審な男の姿もそこにはなかった。
しまった…と肩を落とす。男の姿を確認できないことから、既にこの場から撤収したのだろうか…諦めて帰ろう…そう思ったその時!
レコーディングスタジオからあの不審な男が出てきた!
麗佳はすぐに双眼鏡を覗き込む。そこには、逃げるように走り去る男がいた。あの男だ、間違いない。麗佳は確信する。
その男の右手に、何かが握られているのに気づいた。
あれはなに?
なぜ、あの男はビルから飛び出し走っているのか。
とにかく、麗佳は考えるよりも先に行動を起こした。ビルの階段を走りながら下り、男が走って行った道を辿った。
不審な男を麗佳は追った。
ありがとうございました!!
まだまだ頑張りますのでよろしくお願いいたします。




