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ミリアーナドラグーン王国へ行く*クラインセルトのもうひとつの家族

 賑やかな商店街の中突き刺さる奇異の視線を顧みず足早に駆け抜けて辿り着いたのはなんの変哲も無い酒場でした。


 歴史を感じさせる石造りの壁には木の板に青空屋と書かれています。


「どうした?入らないのか?」


「あ~、入るけど心の準備が・・・・・・」


「先に入るぞ?」


「えっ!ちょ、待ってください!」


 日が高く、昼食の時間も過ぎている為か客は居ないようだ。


 クラインセルトが中に入ると酒場の奥から膨よかな女性が一人でてきた。


「いらっしゃ~い、ごめんなさい今準備中なのよ、ってクライン!?」


「ただいま姉さん」


 後ろに居たクラインセルトに気が付いた女性は手に持っていた箒を放り投げるとクラインセルト駆け寄ってきた。


「クライン!クライン!良く帰ってきたね、酷いことされたりしてないかい?」


「あぁ、大丈夫だよ。姉さんは心配のし過ぎ」


「クラインだって!?本当か!?」


 姉と呼ばれた女性がクラインセルトをこれでもかと言わんばかりに抱き締めて居ると更に奥からもう一人。


「本当だよ、義兄さんごめん、助けて・・・・・・」


「あの、絞まってます。そろそろ気絶しかねないので解放してあげてください」


「おっとごめんよ。嬉しくて力加減を忘れちまったよ」


 抱擁から解放されて荒く息を繰り返すクラインセルトの背中を擦ってやる。


「あんたが連れてきてくれたのかい?ありがとう」


 背中を擦る私に義兄と呼ばれた男性が礼をのべてくれました。


「いえ、始めましてミリアーナと言います」


「始めまして、あたしはビアンナ。こっちが旦那のバリスだよ、良くクラインを無事に連れてきてくれた。私からも礼を言わせとくれ」


「実は俺たち姉さんのパンケーキが食べたくて脱け出してきたんだ、作ってくれるかい?」


「大歓迎さ!とっておきのパンケーキを準備してあげる!ちょっと奥でまっといで」


 ニカッと豪快に笑うとバリスに案内を頼んで厨房と思われる部屋へと消えていった。


「クラインが帰ってくるとビアンナが元気になって良いなぁ、しばらく居られるのかい?」


「いや、少しだけ脱け出してきただけだから、食べたら戻るよ」


「そっかぁ、街の連中もクラインが帰ってきたと知ったら喜ぶだろうに」


 階段を上がりながら心底残念そうにバリスが呟いた。


「ここの部屋を使ってくれ」


「ここって」


「あぁ、お前の部屋だ。中身はそのまま掃除はしているからな、いつでもいやになったら帰ってこい?」


「義兄さん・・・・・・」


「おっといけねぇ、それ以上言うなよ?ぶん殴るぞ?」


「うん、わかったありがとうございます」


 バリスの言葉に困ったような微笑をうかべる。


「あんた~!クラインに料理運ぶの手伝っておくれ~!」


 階下から響いたビアンナの声にに今行くと告げると部屋を出ていった。


「御兄弟なのか?」


「ビアンナが母ちゃんの再婚相手の子供なんだ。バリスはビアンナの旦那さん。賑やかだろ?」


 カラカラとしたビアンナと男気あるバリスはとても良い人達だと思う、クラインが一緒にいるとは言え、初対面の私が一緒にいても家族の空気は変わらない。


「てっきり貴族なんだと思ってた」


 他国とはいえ、王族の者を連れ出すことは並みの貴族では難しい。同行と言う護衛は居ないが、、少なくともレイナス側の影の護衛は近くにいるだろう。


「今は貴族だよ。跡継ぎだった本家の兄、まぁ会うことは無かったけど、その人がが亡くなって他に子供が居なかったから、昔気紛れで侍女だった母ちゃんに手を出して出来た俺が呼び戻されたんだ」


「そうか、ここがクラインの本当の家なんだね」


 クラインと彼の家族と同じように名前を呼ぶと、クラインセルトが嬉しそうに頷いた。


「母ちゃんがと義父さんが流行り病で亡くなってからは姉さんと義兄さんが育ててくれたんだよ」


 先程バリスが出ていった扉を優しい眼でみつめている。


「愛されているんだな」


「へへ、そうかな。みんな良くしてくれるよ」


「どうして私を連れてきたんだ?」


 理由はどうであれ外で作った子供、しかも平民として育った子供に爵位を継がせると言うのは十分に異常。


 醜聞として秘匿する物、それをクラインセルトは明かしたのだ。


「ん~、俺にもわかんないや。本当は部屋を訪ねたのだってただ礼だけ言って帰るつもりだったしさ」


「どうして予定を変えたんだ?」


「う~ん、きっとミリアーナの驚いた顔が見たくなったのかな?それに多分本当の俺を見てほしかったのかもしれない」


 これまでクラインセルトが生きてきた環境は私には判らない、けれど私に自分の大切な人達を紹介してくれたクラインセルトの気持ちは単純に嬉しい。


「そうか、ありがとう。光栄だ」


 ふふふっと互いに笑いあうと、ダンダンと勢い良く上がってきたビアンナ夫妻が部屋の扉を勢い良くあけた。


「待たせちまって悪かったねぇ、たぁんとお食べ!」



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