ミリアーナドラグーン王国へ行く*突然の訪問者と城下町
兄上にひたすら懇々と説教をされた翌日、客人が一人訪ねてきました。
本日は特に祝宴や夜会、食事会などの予定もない為ぶれずに着なれた男装です。
「始めまして!私はクラインセルト・ロワールと申します。昨日は倒れていた所を救っていただいたと御聞きしました。感謝してもしきれません!」
室内でもキラキラと輝く銀糸の様な髪に負けない綺麗な顔がなんで私の部屋にいるんだろう。
「あっ、始めましてミリアーナ・レイナスです」
キラキラの少年は似合いすぎる深紅のバラの花束を持参して来ています。
「私の感謝の気持ちです!どうぞ御受け取りください」
「どうも・・・・・・」
異性から花束など貰ったことが無いため手元の花束の対応に苦慮していると、侍女が然り気無く受け取り持って、豪奢な花瓶に活けてチェストの上に飾ってあった花と入れ替えていく。
「あなたが救って下さったと城の者に聞き及びまして宜しければこれから一緒に食事でもいかがでしょうか?」
「いや、あの」
「御兄様の御許しは頂いてきました」
えっ、兄上ぇ!なにを勝手に許可だしてるんですか!?というよりもいつの間に!?来客が有るなら報せててよ!
無害そうな満面の笑顔なのに否とは言えない圧力を感じるのは気のせいだろうか?
「あのーどちらまで?」
「実は城下の職人街にとても美味しい料理を出す店があるんです」
職人街!!もしかして刀匠も見られる!?
「送迎は私が準備してありますので行きましょう!」
「はい!」
あ、つい良い返事をしてしまった・・・・・・。
と言うわけで現在職人街に来ております。
「賑やかな城下ですね」
「そうですね、民が生き生きと生活して行ける。先王陛下は偉大でした」
馬車道のある大きな通りをクラインセルト少年の用意した箱馬車にのりしばし、辿り着いたのは馬車が通れない細い商店街。
比較的古い建物と真新しい建物が混在しているような区画には沢山の人が自分の目当ての商品を求めて賑わいを見せているようです。
「昔は職人が所々に点在していたそうなんですが、物資をや材料を仕入れたりといった手間取りあまり経済的な活性化を見込めていなかったんです」
刀匠にしても仕立てにしても、やはり材料となる鉱石や大量の布地を仕入れるには馬車や荷車は必須だろう。しかし王都とは言え見た限り馬車が通れる様な大きな道は限られているようだった。
「この辺りは昔貧民街でしたが、職人を一ヶ所に集める事で物流改善を図りました」
「そうか、だからこんなに人が集まるようになったんだな。だが、貧民街に住んでいた者達はどうなったんだい?」
本来住んでいたであろう貧民の姿が見えないのは追い出されてしまったのだろうか。
「彼等は集まった職人を師として学び、この街に浮浪児は居ません」
「それは凄いな」
貧民や浮浪児はどこの国でも頭を抱える問題点、国でも食糧支援を行ってはいるものの、根本的な解決にはならない。
もともとあまり豊かではなく季節によって寒暖の差が激しいレイナス王国では飢饉になれば一番始めに被害を受けるのも彼等なのだ。
「ええ、他国に誇れる事例だと考えていますよ」
幼さの残る外見とは裏腹に瞳にはしっかりとした信念が感じられる鋭さを感じ、人の上にたつ日が楽しみだなと思える少年。
「それでも、まだ足りない・・・・・・」
ぼそりと外を見つめて呟いた言葉に暗いものを感じたような気がしたが、直ぐに満面の笑顔でこちらを見たのできっと気のせいだったのだろう。
「さぁ着きましたよ!!」
そう言って自分が先に降りると、右手を差し出してきた。
「どうぞ!」
降りやすいようとの配慮なのだろうが、元々私の方が拳一つ分ほど身長が高い。
ドレスであれば辛い段差だが、今日も朝から脱走して昨日手に入れた木剣で素振りをしていたのでパンツ姿。一人で降りれるので問題なし。
「・・・・・・」
「どうぞ?」
しかし、期待を込めた瞳で見つめられてしまえば、否とは言いにくく、仕方なく手を借りることにする。
「ありがとうございました」
「どういたしまして、さぁあっちですよ!」
クラインセルトは手を握るとそのままぐんぐんと人並みに進み始めた。