ミリアーナドラグーン王国へ行く*明かされた真実は回避不可能
会場の人混みを横切ってクラインセルトは私を伴って真っ直ぐに会場の中央へ進み出た。
ダンスの為に空けられた空間には人がおらず、一斉に来場者の視線を集めるはめに陥る。
人混みの中に兄上の姿を見付けるとなぜか青ざめているようだった。
どうかしたんだろうか?
「この状態で踊るとか言わないよね?」
「えっ?踊りますよ。ほら演奏始まりましたし、もう逃げられませんよ」
踊る人が現れた為に楽団が演奏を始めてしまったようだ。
これは確かに逃げられない。
他ならぬ自分達の為に始まった調べはゆっくりとしたリズムを刻みながら本人たちを促している。
「ミリアーナ姫私と踊って頂けますか?」
軽く膝を折り、右手に口づけて見上げてくるクラインセルトが可愛く見えたのは気のせいだろうか?
「はい」
苦笑しつつも返答を込めて軽く会釈すると、クラインセルトのリードで踊り始める。
身長差をものともせずに主導で動くクラインセルトの足運びに迷いはなく、踊りやすい。
裾の長い長いドレスがふわりと広がり、裾にあしらわれた銀細工がのシャラリと澄んだ音をたてる。
「今日は一段と美しいですね」
「ありがとう。ドレスと侍女達の腕が良いのかな?」
「そのドレスにして正解でしたね、急いで誂えたかいがありました。よくお似合いですよ?」
「どうゆうこと?」
見覚えの無いドレスだと思ってはいたのだ。
「どうしても着て欲しくて侍女達に頼んじゃいました」
にっこりと極上の笑顔を見せる。
「銀も紺碧も私の色ですから今日はミリアーナ姫を独り占めです。ちなみに私もミリアーナ姫の色ですけどね?」
胸元に飾られた薔薇はオレンジがかった赤色、琥珀の埋め込まれた腕輪をさりげなくミリアーナに自慢した。
「お揃いって婚約者じゃあるまいし」
「そうですね・・・・・・」
まだ・・・・・・と小さく言ったクラインセルトの言葉を聴き逃してしまう。
穏やかに会話を交わしながら一曲踊りきり、御互いに会釈をすると遠巻きに見ていた来客から拍手が起こった。
これで兄上の元に戻れる。
さぁ、もどるぞー。
必要以上の注目などごめん被る。
その場を離れるべく動いたミリアーナの手を素早く掴まえると、クラインセルトはその場で腰を折る。
目前には玉座があり今日も覇気の無い国王グラジオス・ドラグーン陛下と宰相カルロス・ガザフィー、そして正妃陛下だろう貴婦人が座っている。
国王御前!あわててクラインセルトの脇に方膝をつく。
「国王陛下、クラインセルト・ドラグーン只今参りました。遅れてしまい申し訳ありません」
おい!ちょっと待て!今なんて言った?家名ロワールじゃなかったの!? もしかして兄上知ってた!?
ちらりと兄上に視線を向け目が合うと勢い良く首を左右に振っている。
どうやら知らなかったらしい。
「皆様に御紹介いたします。ドラグーン王国王太子殿下です」
嫌な予感ほど良く当たるようですねー、相変わらず黙ったまま喋らない国王陛下に代わり宰相閣下が発した声にクラインセルトが立ち上がり、来客に向けて優雅に一礼する。
クライン!わざと内緒にしてたなぁ!
「本日は私の立太子を祝う宴へご足労頂き感謝いたします。今宵の祝宴をお楽しみいただければ幸いです」
そう言うとクラインセルトはゆっくり私を立たせると自らもう一曲踊り始めた。
楽団の音に合わせて今度は周囲を囲んでいた者達も踊り始める。
「クライン!ちょっと来なさい!」
「ふふふっ、そんなに引っ張らなくてもどこまでも付いていくよ?」
引き摺られるのが嬉しいのか、はたまた悪戯が成功して嬉しいのかわからないが、クラインセルトは上機嫌で抵抗もせずにされるがままだ。
ダンスを抜け出し次第、クラインセルトを引きずって兄上の元に戻ると、珍しく青ざめたまま頭を抱える兄上とジョーシンに出迎えられた。
ロアッソもジョーシンの元に戻っていたらしい。
「クラインセルト“殿下”」
「はい、なんでしょうか兄上殿」
おーい、兄上はいつからクラインセルトの兄上殿になったんだ?
笑顔で返事をするクラインセルトと横に並ぶ、身に付けた衣装は互いの色を宿し、対人形のようだ。
まるで自分のものだと主張するようなクラインセルト色のドレスと装飾品。
「ミリアーナのドレスについて何かご存知ですか?殿下」
「似合うでしょ?急いで誂えたかいがありました」
良い笑顔で当然のように答える。
「ミリアーナ、王太子殿下だと知っていたのか?」
可能性が低いとは思うが、確認しなければならない。
「ロワールだと名乗ってたから驚いたわよ!」
だよなぁ、そうじゃなかったらホイホイダンスについて行かないだろうし。
「あのな、ミリアーナよく聞けよ?言ってなかったが、実はこの舞踏会王太子殿下の婚約者候補が集められてるんだ」
「はい?」
はい?じゃない!
「つまりドラグーン王国の次期皇太子妃が今日の舞踏会で選ばれる」
ジョーシンがクラインセルトをみながら補足を入れた。
「王太子殿下は国王入場前に会場へ入り、候補者から花嫁にしたい者を選び国王入場後にダンスに挑むんだよ」
「「・・・・・・え~!」」
つまりあれですか?もしかして・・・・・・。
「改めてレイナス王国のアルトバール陛下、貴殿のミリアーナ姫君を我が国の王太子妃に御迎えしたい」
主役の王太子を遠巻きに観察していた来客の間にどよめきがおこる。
こんな公の場での申し入れ、小国レイナス王国に拒否は出来ない。
「うわ~!マジか~!」
「ミリアーナ、これは断れん」
「残念でしたねロアッソ、諦めなさい」
三者がそれぞれ反応するが、いまだに状況を読み込めていなかった。
「保護者の同意も得られたし、これから宜しくねお嫁さん?」
「およめさん、お嫁さん!?」
ぎょっとした私の反応に、喜ぶ者、狼狽する者、頭を抱える者其々の夜が過ぎていきました。