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幕間 安井道頓

1573年、ここは堺の安井道頓が屋敷。ここにとある武将が道頓を訪ねて参っていた。

道頓は、番頭から知らない武将が自分を訪ねて来たと聞き、始めは『その誰かも分からぬ武将には会わぬ』と言っていたが、武将が頑なに店から出るように言われても店から離れず他の客に迷惑になっていたことや。


始めは金を借りに来たか、用心棒で雇うように願い出て来たのかと考えていたが、その武将が商売の話をしに参ったということを何度も番頭へと伝えるため、『話だけでも聞いても良いか』と考えを改めると、すぐさま番頭にその武将を粗相が無いように茶室へと案内するように頼み、自らも服を上物に着替え茶室へと急いだ。


茶室へと入るとそこには、中年ではあるが顔は凛々しくきわめて彫りの深い容貌の武将が坐して待っていた。恐る恐る部屋へと入った道頓は、番頭を脇に座る様に促し自らは武将の対面に座すと自らの名前を名乗る。


「私は、安井…」


道頓が自らの名前を言い始めるや否や、対面の武将が手を挙げ道頓の言葉を制する。


「安井殿、まずは忙しいところ突然参ってすまん。某から名を名乗ろう。某は奥州伊達家、伊達輝宗が家臣、留守政景と申す。主君は某の兄でもある。此度は、安井殿に頼みがあって参った」


留守政景が自ら名前を名乗ると道頓は、なぜ奥州の武将が自分を訪ねて来たのかと訝しんだが、商人の自分に対しての言葉使いも丁寧であったため相手の出方をまず見極めることにした。


「先ほども申しましたが、私は安井道頓と申します。御身分をお聞きし驚いておりますが、奥州の伊達様が某に何の御用がありましたので…」


「安井殿に頼みたいことは、ここに書状があるゆえお読み願いたい」


そう言って、政景が道頓に対して輝宗より預かった書状を床に置き道頓へと書状を進める。

輝宗の書状を手に取った道頓は、書状を開き内容を食い入るように読み始めた。そこには、伊達家からの依頼が書かれていたのだ。


第1に鉄砲を扱うことがたけた者達を紹介すること

第2に鉄砲鍛冶職人の紹介をすること

第3に伊達領との交易を行いたいということ。その中には、南蛮の野菜や家畜の売り買い。伊達領の農工具、小袖等の売り買いが記されていた。

第4に医療に詳しい者を紹介すること


以上のことが書いてあり、その見返りとして伊達領で摂れる金、銀、農具、織物等の特産品の交易を安井道頓に任せ御用商人とすると書いてありその他に道頓が推挙する商人があれば、知己の商人も紹介して欲しいとの内容も含まれていた。


道頓にしてみれば、奥州は遠くその見返りにどれだけの利益が出るのか。それが一番知りたかった。道頓が書状を読み終え書状を折りたたむ動作に移った時、政景が道頓へと先手をうって話し始める。


「安井殿、まずは我が領内で作った農具や織物を見て頂きたい」


そう言って、政景は部屋に案内された折に置いておいた大きな箱に手をかざす。


道頓は、部屋の隅に座っていた番頭に箱を開けさせるとそこには、綺麗に折りたたまれた小袖や見たこともない農具が入っていた。その農具を1つずつ政景に紹介され使い方も確認すると、驚く程今までの農具より進んだ農具であることが分かった。


また、もって来た小袖についてもその一枚の小袖の売値に驚かされた。何と今、巷で売られている小袖を一着作るまでにかかる日数で伊達の小袖は、四着も作ることが可能とのことであった。


この時代、一着の小袖を作る上で人数や日数が大いにかかる。その小袖が安価で手に入れば、武将や商人といった富裕層の者達を対象に売るのではなく、貧しい者達も買うことが出来る様になるであろう。


富裕層へはどこの商人も動いているが、貧しい者達に売ることができれば…。それはかなりの儲けになると道頓は考える。それに伊達家は自分を御用商人へと考えていると…。政景の話を聞きながら伊達家の農具や小袖を見ている道頓の横に横に座っていた番頭が政景の横に置かれている箱に気がついた。


「留守様、傍らに置かれているその箱には何が入っておるのですか?まだ私達に示していない物でも入っておいででしょうか」


番頭が政景に話を振ると『待っていました』とばかりに今まで無表情であった政景の口元が引かれる。


「おお!!良いところに気付いてくれたな。某としたことが忘れておったわ」


政景は道頓と番頭に目を向けると、自らの横に置いていた箱を開け。中から丸い固形物を取り出す。


「それは何でしょうや。新たな蝋燭でございますか」


「いや。道頓殿、そなた南蛮から入って参った“しゃぼん”はご存知かな」


「はい。存じております。色々な汚れが落ちる物と聞いております。私はまだ見たことがありませなんだが。その様な物があると聞いたことはあります…。

まさか!!それが!!しゃぼん なので」


道頓は驚きのあまり、声を発すると中腰になり政景へとにじり寄ってきた。それ程、手に入れることがこの時代難しかったのである。


「道頓殿、正しくそうである。伊達家では、この“しゃぼん”を製造することができる。しかも安価でだ。どうだろうか。どれほど汚れが落ちるか気になるであろうから、明日またここに訪ねて参ろう。それまでに“しゃぼん”の使い勝手を試してみるとよい。体を洗う際に使ってみてもよいぞ。某も使ってみたが体の汚れが綺麗におちていったわ」


道頓は政景が手渡した“しゃぼん”を手に取ると深いため息を吐く。もし…。これが本物であれば我が店の売り上げは日の本一となろう。自らがこれまで貯めてきた金を使ってこの取引に掛けてみたいと、ここまでの話で考えるようになってはいたが。そこは商人である。先ずは“しゃぼん”を試してみてからと気持ちを落ち着かせる。


「留守様、本日は泊まる場所はお決まりでございましょうか」


「うむ。伴の者に近くの宿を取らせておる。明日の朝また来よう」


「私の家に泊まっていただきたかったのですが。明日、お待ちしております」


三人はこの後たわいもない話をするが、暗くなる前に宿へと戻ると政景がつげると道頓と番頭は供に政景を店から送り出したのであった。


政景が帰った後、道頓は店に居る女中に汚れた小袖や鍋を“しゃぼん”を使わせてみる。すると驚くほど綺麗に汚れが取れていくではないか。小袖や農具にも驚きもしたが、この“しゃぼん”は必ずどの大名も商人も農民も誰もが必要とするであろう。


しゃぼんを手に入れることが出来る御用商人は自分…。この時、道頓の心は決まったと言っても過言ではない。翌日、政景に道頓は御用商人になることを告げ、これより伊達家のために奮励していくのであった。


評価ありがとうございます。

評価をいただくとやる気が本当にでます。

次は、続きの「外交戦」を修正いたします。

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