幕間 村長彦次郎
1575年3月、ここは伊達家家臣桑折領に流れる阿武隈川の近く、小さな家々の中に他の家よりも大きな家がある。その家の中には、この地の村長を務める彦次郎の他、近くの村々から集まった五人の村長が囲炉裏を囲んで話し込んでいた。
「彦次郎どん。皆で顔を合わせるのも12月以来だでな」
そう言って彦次郎に声をかけてきたのは、隣村の村長である弥彦である。
「弥彦どんも、元気で良かったなぁ。長い冬が終わって皆がこうして集まることができて良かっただ」
彦次郎は弥彦に声をかけると、弥彦以外の三人にも声をかける。
「義三どん。権兵どん。三吉どんもよー、集まってくれた。これから三月毎に集まる村長会を始めるとするかの」
そう言って、彦次郎が話しかけると三者三様の受け答えが行われ。村長会が始まる。
「では、それぞれの村の様子を教えてくだされ」
司会役の彦次郎が各々の村長に声をかけると、彦次郎と仲が一番良い弥彦が手を挙げて発言する。
「まず、わしの村からだが…」
弥彦の話が終わり義三、権兵、三吉、彦次郎の順で話が続いたが村長達が言う事は、どの村も変わりがなかった。まず、食事事情であるが今までは米と麦の二毛作を行っているだけであったが。
ここ最近は、他の地方で作られている野菜や海の外の国からも変わった野菜が入ってきた。今は、他の村々へも種籾や苗木などを渡す必要があるため、沢山食べれる訳ではないが食べてみれば美味しいもので始めは食事に出す時も、どう料理していいかわからず伊達家から梵天丸様が来られて教えて頂いた。
豚や鶏は、当初よりも増えてはいるがこれも他の伊達領の村々に渡す必要があるため、たくさんの量を食べる事はできてはいないが。食の改善が各村で見られるようになった。
兵農分離によって村人の数は減ったが、戦に出る事が無く農業を行うだけでよくなったことが功を奏し畑が荒れる心配も無くなった。また、兵達が土地の開拓も行ってくれているため村の農地が増え以前よりも畑の管理は大変になったが収穫量も増えたことは皆が喜んでいる。
1年を通して、弓や鉄砲を持った兵達の数人が山に入りウサギや雉、鹿等を取って来てくれ兵達が食べる分を切り取って残った部分はもらえる事もありがたかった。この冬も獲物を貰うことが出来た。
冬の間はこれまで仕事と言えば、雪下ろしが主で筵や草履を編んだりすることが日中の仕事であったが。桑折城の近くに新たに出来た、鍛冶、機織の職場に行けばわしらでも出来る仕事をくれるため冬の間に新たな収入も得ることが出来るようになった。
鍛冶、機織の仕事に行く際には、村長が人数を調節して各家から不満がでないようにしている。こうして少しずつではあるが豊かになっている分、家畜の世話や子供達が勉学を行うようになり、家の手伝いが減ったことは痛かったが隣村同士で助け合う。
互助会であるこの会議を開くようになってからは、人を貸したり借りたりと上手く周りの村が手助けするようになった。春からは、畑を耕すことになることをそれぞれの長達から話を聞くと。次に、各村々で困った事や自分たちが畑仕事をしての改善策など、色々なことをお互いに情報を共有することとなった。
互助会は今まで行われてきていなかったが、梵天丸様の発案により我らが桑折領だけでなく、浜田領、亘理領、遠藤領等のそれぞれの領地で行われているらしい。集まった話は、毎年交代で決めた村長の代表が、御領主にお伝えすることとなっている。
彦次郎は集まった村長達の顔を見回す。皆、顔が綻んでおり希望に満ち溢れている。
わしらに出来る事は、少しでも自分たちの生活が楽になるようにすることだ。伊達家の元にあれば、わしらの生活もこれからどんどん豊かになっていくだろう。
4月になるまでにやることは沢山ある。村長達の話し合いは、終わることなく続いて行くのであった。